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第94話

「さて、始めましょうか」


 UGランクの最深部、荒涼とした光景が広がるフロアにリヴァーサたちはやってきていた。


「こ、ここは……エルダードラゴンが出てきた場所か」


「ええ」


 周囲を見回し冷や汗をかいているジルには構わず、深淵を覗き込むリヴァーサ。

 この地で発生したダンジョンブレイク……もともとはこの男の仕込みで引き起こされたものだったが……で出現したエルダードラゴンが開けた穴で、地殻を深々と貫き、底を見通すことはできない。


(これほどの深さがあれば……十分でしょう)


 リヴァーサたちの世界と融合したことにより、マナストリームはこの星の地殻とマントルの境目付近に滞留するようになった。

 深度の深いダンジョンほど上位モンスターが出現しやすいのは、そういう理由である。


「シリンダ、準備を」


「……わかった」


 相変わらず感情を見せない少女は、上に羽織っていたジャケットを脱ぎ捨てる。


「こちらも準備をしようかしら」


 パアアアアアッ


 リヴァーサの両手から禍々しい光が生まれ、キーファに纏わりついていく。

 特級の強制ギアス魔法。

 むりやり狼に変身させるのだ。



 グルルルルル……ウオオオオオオオオオンッ!


 まず、シリンダが漆黒の魔狼に変身する。



 グググググ……ワオオオオオオオオオオンッ!


 少し苦しそうな雄たけびを上げ、キーファも神狼に変化する。



(ふふ、さすがに感慨深い光景ね)


 特大のイレギュラーであるワーウルフの双子。



 オオオオオオオオオオオオオンッ



「お、おおっ!?」


 その雄たけびは、ダンジョンの壁をびりびりと震わせた。



 ***  ***


(ぐっ、ぐううううううっ!?)


 全身を苛む強制ギアス魔法に、歯をくいしばって耐える。


(敵さんたちが何を企んでいるのか、見極めなきゃ!)


 世界のみんなが幸せになりますように!

 のような平和なお願いでは絶対にない。


 その企みに、シリンダちゃんが加担させられていることも許せなかった。


 彼女は自分の妹で、心の底では愛情を求めている。

 深く”繋がって”そのことを理解したキーファは、何とかリヴァーサたちの隙を突いてシリンダを助けようと強制魔法に掛ったふりを続けていた。


(治次郎おじいちゃんの作ってくれた装備は、だてじゃないもん!)


 キーファの右耳に付けられたアミュレットは、ただでさえ高いワーウルフの魔法耐性を大幅に高めてくれる。


(それにっ!)


 ぱぱが愛情たっぷりに増やしてくれた自分のライフポイント。

 配信を続ける中でぱぱとカナおねえちゃんに鍛えられた自分の力は本物である。


 敵の企みを見抜き、時間を稼げば二人は必ず助けに来てくれる。

 そう信じて、苦痛に耐え続けるキーファなのだった。



 ***  ***



「到着うううううっ!!」


 極超音速機が停止するのを待ちきれず、コックピットの後部座席から飛び降りる俺。


「ふえぇ、日本からオーストラリアまで2時間で着くなんてぇぇ!?」


 半分目を回しながら、俺に続くカナ。


「入国手続きや諸々は、ワシに任せるがよい!

 すぐに加勢に行くぞ!」


「ありがとうじーちゃん!」


 俺はカナの手を引き、滑走路内を駆ける。


「け、ケントおにいちゃん! どこに行くんですか?」


「おう、いちいち港で船をチャーターしている時間はないからな!」


 この空港は海に面した場所にあり、滑走路の端には小さな砂浜が存在する。


「あ、あれは!」


 砂浜に乗り上げた大型のモーターボート。

 その傍らには、見知った顔があった。


「うぃ、ヒサシブリ! Kento、Kana!」

「Keyfaちゃんのピンチ、私たちも手伝います!!」


「タリアちゃん、アリンタちゃん!?」


 羽田を出発する前に二人に連絡し、ボートの手配を頼んでいたのだ。


「さあ、急ぐぞ!」


「らじゃ~!!」


 俺とカナがボートに飛び乗ると同時に、猛然と発進するモーターボート。

 目指すは、UGランクダンジョンのある島である。



 ***  ***


「Kento! 1時間もあれば島につく!」


 モーターボートの舵輪を握るタリアが、目的地までの所要時間を教えてくれる。


「サンキュー、タリア!

 よし、今のうちにステータスを上げとくか」


 流石にマッハ8で飛ぶ飛行機内でダンジョンポイントをチャージする余裕はなかった。

 ダンジョンアプリもオフラインだったしな。


「だ、ダンジョンポイントが見たことのない数字に……」


 ダンジョンアプリに表示された数字にカナが息を飲んでいる。


「機体を安定させるのにだいぶん使っちまったけど、まあ大丈夫だろ」


 極超音速域では機体表面が高熱になるので、普通は最高速度を長時間持続できない。


「む、無茶すぎでしたよケントおにいちゃん!」


「そうか?」


「やだ、わたしの旦那さん規格外すぎ?」


 ダンジョンポイントのエネルギーを円錐状に展開し、空気抵抗を抑えることで最高速度を維持したのだ。


「さーて」


 半分近くのダンジョンポイントを消費してしまったが、ポイントはまだまだたっぷりある。


「俺とカナのステータスにダンジョンポイントをチャージするぞ!」


「ど、どれにチャージします?」


 恐る恐るという感じのカナの問いに……。


「HP! 攻撃力!! 物理防御力!!! 魔法防御力!!!!」


「納得の脳筋んんんんんっ!?」


「まずはHPプラス5000!!」


「みぎゃ~!?」


 その日、俺とカナは人類最強になった。


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書籍版1巻の立ち読みができるようになっています! エモエモなケントとキーファの挿絵も見れますのでぜひっ!
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