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第91話

「キーファの学校に転校してきたワーウルフの正体があの魔狼なんて……!」


 思いつめたキーファの様子から、もしかしたらと思っていたが、改めて桜下さんの口から事実として聞くと衝撃が大きい。


「この子、こんなに楽しそうにしてるのに」


 カナがスマホで見ているのは、キーファから送られた二人の写真。

 放課後にクレープ屋に寄ったときの写真で、お互い食べかけのクレープを片手に持ちながらもう片方の手でハートマークを作りフレームに納まっている。


 シリンダの表情は、僅かにはにかんでいて。


「それに、シリンダがキーファの妹だなんて」


 桜下さんから告げられた、さらなる衝撃。

 先鋭化する一方のシーヴァの方針に反対し、組織を抜けてきた元構成員。

 彼が持ち出した情報の中に、シリンダの個人情報が混じっていたらしい。


 彼女のDNA情報は、シリンダがキーファの双子の妹であることを示していた。


「あの日……」


 ダンジョンブレイクの跡地で生まれたばかりのキーファを拾った夜。

 僅か数メートル離れた場所にいたのがシリンダだった。


「……シーヴァは、キーファを攫っていったい何を?」


 シーヴァの首領は最初期の亜人族であり、世界を不安定化するダンジョンすべての破壊を主張していると聞いたことがある。


 彼らの目的とキーファの存在が、関係するとは思えなかったが……。


『記録に残っている限り、双子のワーウルフは存在せんはずじゃ。

 常に一人しか生まれない代わりに、絶大な力を持つワーウルフ。

 キーファちゃんは双子にもかかわらず、8歳という若さであそこまでの力を持っておる。その妹であるシリンダの力と合わせ、ダンジョンの破壊をもくろんどるのかもしれんの』


 彼らの企みを推測してくれたのは治次郎さんだ。


「そんなことして何になるんだ……!」


 連中の考えが全く理解できない。

 現代の世界を支えているのはダンジョンの存在だし、様々な亜人族も世界中で人類と共に問題なく暮らしている。


「それに、キーファがそんな企みに手を貸すとは思えない!」


『うむぅ、強制ギアス系の魔法もあるにはあるが、ワーウルフは対魔法耐性が高いからの。時間を掛けて魔法を有効化するつもりなのかもしれんが』


「シーヴァの最終目的が明確な以上、すぐにキーファちゃんをどうこうする意図はないと思われますが……」


「くそ、せめてキーファがどこにいるかさえわかれば!」


 桜下さんの言葉通りなら、いきなり始末されたりはしないだろうが、相手はシリンダを兵器として育て、キーファに近づけてかどわかすようなカルト組織である。


 何をされるか分かったものじゃないし、キーファも怖い思いをしてるはずである。

 一刻も早く、助け出してやりたかった。


『……もしかしたらじゃが、キーファちゃんの居場所を探れるかもしれん』


「……え?」


 その時、治次郎さんから思わぬ提案があった。



 ***  ***


「な、なるほど!」


『多少のリスクはあるが、大きな危険はないはず』


 治次郎さんから提案されたのは、ライフポイントのチャージに使っている耳飾り(アミュレット)をキーファの探知に使うというものだった。

 キーファが耳に着けているアミュレットは、いざという時に備えて遠隔操作できるようになっている。


『チャージ機能を逆転させ、生命エネルギーをアミュレットから放出すれば、センサーで検知できるはずじゃ。

 代償として、数日分のライフポイントを失ってしまうが……ええかの?』


「はい! お願いします!」

「わたしからもお願いします、治次郎おじいちゃん!」


 現状、キーファの行方は全く分からず、治次郎さんの提案は福音と言えた。


『よし、それじゃ行くぞ?』


 何かの機器を操作する治次郎さんが、タブレットの中に映っている。


「ごくっ……」



 永遠とも思える数分が過ぎ……。



『分かったぞ!』


 待ちに待った知らせが届いた。


『これは……日本国内ではないの。

 高速移動しておる……行先は、おそらくオーストラリアじゃ!』


「!!」


「ケントおにいちゃん、これって!」


「ああ!」


 キーファが変身するきっかけとなったUGランクダンジョン。

 因縁のその地へ、キーファを攫ったシーヴァ共は向かっているようだ。



 ***  ***


「ううっ、それにしてもオーストラリアか……どうやって追いかけたらいいのかな?」


 不安そうな表情を浮かべるカナ。

 時刻はもう夜。

 オーストラリアへ向かう定期便は早くても明日の夜だ。


 治次郎さんの話によれば、シーヴァの連中は自分たちで保有している機体を使っているようで日本時間の明日未明には現地に着いてしまうという。

 明日の夜まで待っていたら、奴らはキーファに何をするか分からない。


「大丈夫だ、カナ!」


 可愛いひ孫のピンチに、じーちゃんが黙っているはずがない。


「まあ、そうでしょうね」


 ピリリリリッ


 俺のスマホが呼び出し音を立てる。


『おう、ケント!

 例のものを準備した。

 2時間後に羽田集合じゃ!』


「了解だ!」


「ふおおおおおっ!?」


「カナ、着替えを準備してくれ! キーファの大好物のプリンも!」


「う、うんっ!」


「俺はその間に、”切り札”を使う!」


 シーヴァの連中の妨害が予想される。

 俺が準備しておくべきは。


 スマホの電話帳から、とある番号をタップする。


『ケント様、事態はおおよそ把握しておりますわ!』


 ワンコールも経たずに、優雅な少女の声がスピーカーから聞こえた。


「第二倉庫を解放する!!

 ありったけのアレをかき集める。斎藤さんにも連絡を!」


『合点承知ですわ!!』


「ひょ、ひょえええええええっ!?」


 シーヴァの連中め、俺たちを本気にさせた事……後悔させてやる!


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