第9話
「ぱぱ、ボスが出た~!」
「あれは俺でも知ってるぞ!
イカキング、だな!!」
「くら~けんだよっ、ぱぱ!」
「……そうなの?」
2時間ほどの探索の末、俺たちはダーク・アビスの最下層までやってきていた。
このダンジョンのボスモンスターらしい、巨大なイカがじゅるじゅると部屋を埋め尽くしている。
「イカ焼き1万人分くらい作れそうだな……ていうか、なんで地下に巨大イカが?」
「そういうのは気にしちゃダメなの。
ダンジョンのことわり、だよ?」
「そ、そうか……キーファは賢いなぁ!」
<クラーケンすら知らなくて草>
<そう言われれば、なんで水生モンスターがダンジョン内に出るんだ? 気にしたことなかった……>
<パパ症候群の患者がここにもwwwww>
<AAランクダンジョンの最下層まで2時間……? 俺は夢でも見てんのか?>
「モンスターの出現回数が少なかったからな、非番だったんじゃね?」
<なわけないでしょwww>
<パパの動きが速すぎて、モンスターの出現が追い付かなかった説>
「そうなん?」
今日はキーファの好きなアニメの放映日だし、病み上がりのキーファに無理をさせるわけにはいかない。
いつもより少しだけ駆け足だったかもな。
「あ、いけね……急ぎ過ぎてキーファの見せ場を作ってねーわ。
チア・キーファは最強にかわいかったけど!」
「えへへ」
「ぱぱの動きが、すっごく速かったんだもん。
でも、楽しかった~♪」
「キーファ……!」
パパの落ち度を褒めてくれるとか、天使か?
……天使だったわ。
ぎゅっ!
「ぱぱ~♡」
キーファを優しく抱きしめる。
<いつもの!>
<初めて来たけど、神業攻略に可愛い娘ちゃん……やば、ハマるかも>
<これが整うってことか!?>
<多分違う笑>
「……んん?」
夢中で戦っていたので気付かなかったが、いつの間にかコメント欄が復活している。
「え?」
「コメント数が……いち、じゅう……11万!?」
よく見ればコメント数がとんでもないことになっている。
「ぱぱ、しちょうしゃさんの数もスゴイことになってるよ!」
「な、なにっ!?」
慌てたキーファの声に配信動画のキャプションを見れば、【視聴者数:1,273,452】の数字が。
「百万人……以上?」
思わず唖然とする。
今までの最高記録は2,850人である。
い、一体何が起きたんだ?
<カナの配信切り抜きがバズりまくったの、まさか知らないの?>
<ドラゴンを素手でブッ飛ばした男がいる、って朝のニュースでも特集されてたのに>
<桜下プロダクションが注目配信としてトップに載せてたんだぜ?>
<さらにいきなりトロール退治劇場だもんな、バズって当然でしょ>
<キーファちゃんも可愛いし!!>
最後のコメントには100%同意だが……プレーンドラゴンを倒しただけのアレが、そんなに人気になったという事なのか?
普段テレビは見ないが、桜下プロダクションは俺でも知っているダンジョン配信の最大手だ。
(まて、これはチャンスかもしれない)
何が何だかよく分からないが、これだけ視聴者が集まっているなら都合がいい。
キーファにダンジョンポイントを投げてもらえるようにアピールするべきだろう。
「あ~、そういう事なら視聴者のみんなにお願いがあるもふ。
キーファちゃんをより輝かせるために、沢山のダンジョンポイントが欲しいもふ。
ボクの配信が面白いと思ってくれたなら、キーファちゃんにダンジョンポイントを投げて欲しいもふ!!」
とりあえず、かわいくお願いしてみる。
<顔だけくまさん怖い笑>
<え、投げ銭じゃなくていいの?>
「ぜひ、ダンジョンポイントをお願いするもふ!!」
<オレ今5ポイントしかないんだけど……パパが最後に凄いバトルを見せてくれたら投げるわ>
<あ、俺も見たい>
<私も!!>
<カナ@凍結中 おにーちゃーん!!>
<……なんかいま、カナいなかった?>
「よしきた!!」
つまり、俺がド派手にイカキングを倒したら、ダンジョンポイントを投げてくれるという事だろう。
やる気の出た俺は、イカキングに向き直る。
イカ焼きにしてやれないのは残念だが、キーファの為に俺はコイツを倒す。
「おおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「わ~♪ ぱぱカッコいい!!」
キーファの歓声に後押しされた俺は力強く大地を蹴り……。
「ケントパパ、スーパーフィニッシュブロウ!!」
ドンッ!!
適当な技名と共に(今付けた)放たれた渾身の右ストレートは、イカキングを粉々に吹き飛ばしたのだった。