第88話
「キーファちゃんねる特別生配信!!
新居引っ越し記念、カナとキーファのお料理対決!!」
ばば~ん!!
軽快な音楽と共に”キラキラ紙吹雪”を使う。
ぱああああっ
秋の青空から舞い落ちる色とりどりの紙吹雪。
念願の新居に引っ越した大屋家は、フォロワーたちへの特別配信を行っていた。
「得意料理は目玉焼きと焼き餃子!!
ケントおにいちゃんへの愛は無限大、餃子の爆発率を35%に減らすことに成功したA3ランクお料理マスター!
大屋 カナ!!」
どど~ん!
魔法の爆発 (ガチ)を背景に、フレームインするカナ。
長袖シャツにジーンズ、長い黒髪はポニーテルにし、グリーンドラゴンの表皮を織り込んだ特製ひよこさんエプロン(防御力+200)と三角巾で完全武装している。
<装備がガチすぎる笑>
<防御力+200のエプロンって……なに?>
<そらもう、料理の爆発から身を守る為だろ?>
<古参カナファンにはおなじみだよな!>
<お、おう>
<ていうか、料理ぶきっちょな若妻カナ良すぎない? 推せる!!>
「ふおお! よく分かってますねわたしのファン!!
愛情料理は爆発なんです!!」
さっそくナイス発言をしたファンに投げ銭するカナ。
さすがカナだぜ。
キーファちゃんねるのノリを完全にマスターしている。
<だから投げ銭すんなwww>
<ドラおじとカナ、結ばれるのは必然だったんだな……>
<料理すら武器にしていた、クールなJK配信者の姿はどこに?>
「これがわたしの素でぇす!!」
「流石に爆発する餃子は勘弁してほしいんだが。
ちょっと痛い」
「あれぇ!?」
<草>
<草>
<いくらドラおじのHPが6000越えと言ってもな>
<ドラおじに最大ダメージを与える嫁www>
「と、いうことでみんな分かってるかもしれないが、カナと対決するのは銀河系最カワのお料理マスター、キーファ!!」
ぱあああああっ!!
更にたくさんの紙吹雪が舞い踊り、カメラは可愛い熊さんエプロンに身を固めたキーファを映す。
「…………」
だが、新居の方を見ているキーファはどこかぼーっとしていて。
「…………ふわわ!?」
俺がそっと合図を送ると慌ててニッコリを笑顔を浮かべるキーファ。
「ごめんね、みんな!
新しいおうちが凄すぎて見とれてたよ~!!」
(ん……?)
キーファが生配信中にぼーっとするなんて珍しい。
そういえば、先日の遠足ではしゃぎすぎて疲れたと半日ほど自室で寝ていたキーファである。
念のため治次郎さんのクリニックで診察してもらったが、体調に問題はなかった。
(LPのチャージが安定しないのは相変わらずだが、そちらは治次郎さんに任せるしかない)
<確かに笑>
<敷地面積200坪、小さな裏山もドラおじ所有なんだっけ?>
<まさか野良ダンジョンがあるとかww>
少しこちらで話を繋ぐか。
そう考えた俺は、フォロワーに向けて邪悪な笑みを浮かべる。
<おいwww>
<野良ダンジョンの所有は法律で禁じられています!>
「まあ冗談だが」
野良ダンジョンがあったのは本当だが、5年前に協会によって探索され不安定で危険だという事で埋め戻されている。
栗の木がたくさん生えている緑豊かな小山である。
ちょうど栗がたくさん撮れたので、キーファとカナに栗ご飯を振舞ってやる予定だ。
<ドラおじが言うと冗談に聞こえない件>
「疑うオマエラに、新大屋家プロモーションムービーを見せてやる!
料理対決はその後に、だぜ!」
イイ感じに話がそれたので、生配信からムービーに切り替える。
その間に、キーファの元に駆け寄る俺。
「キーファ、本当に大丈夫か?」
「そうだよ、もし気分が悪いなら延期してもいいんだよ?」
カナも心配顔だ。
もしかしたら、同族であるシリンダが同じクラスに転入してきたことで何か影響があったのかもしれない。
俺も心配になってしまう。
「だいじょうぶ!!
シリンダちゃんとお友達になれて、さいきん興奮しっぱなしだったから!
お料理対決、がんばるよ~!!」
むんっ、と力こぶを作るキーファ。
可愛いのだが、どこか無理をしてるように見える。
「今日は、三人で一緒に寝ような」
キーファも大きくなってきたということで、新居にはもちろんキーファの部屋もあるのだが、今までずっと一緒に寝てたから、さみしいのかもしれない。
「!! うんっ!!」
俺がそう言うと、ようやく元気に満面の笑みを浮かべてくれたのだった。
*** ***
「いや~、今日のお料理対決は盛り上がったな!」
配信を終えた俺たちは早めに夕食とお風呂を済ませ、リビングで寛いでいた。
「うおおお! ポイッタートレンド1位、同時接続月間1位ですよケントおにいちゃん!!」
「……コメントの最大風速はカナの目玉焼きが爆発したところだな」
「ぐはっ!?」
リビングの窓からは、大穴が開いている庭が見える。
明日には業者さんに直してもらう予定だ。
「やはり禁断の3玉同時焼きは無茶だったか……いやまて? なんかの武器に使えるのでは!」
あれほどの威力を出せるのである。
さいきん卵も高くなってきたとはいえ、ダンジョンポイントよりコスパがいい。
思わず真剣に考えこむ俺。
「いやいや、ダメですって!
食べ物は大切にぃ!!」
「あはははっ」
いつものじゃれ合いに、大笑いするキーファ。
「ぱぱ~♡ まま~♡」
ぎゅっ!
「おっと」
ソファーに座っていた俺とカナに、抱きついてくるキーファ。
「すりすり~」
「あう~、わたしたちの娘は世界一可愛いなっ!!」
「だな!!!!」
今日のキーファはいつにもまして甘えんぼさんだ。
「よし、そろそろ寝るか!」
「「は~い」」
俺はキーファを抱き上げると、カナと共に2階の寝室へ向かうのだった。
*** ***
「……ふぅ」
ベッドに入って数時間。
キーファは眠れぬ夜を過ごしていた。
「すぴ~」
「むにゃむにゃ」
最愛の両親は、キーファの両隣りで穏やかな寝息を立てている。
「……あったかい」
ケントとカナのぬくもりは最高に気持ち良くて。
いつもならすぐに眠りに落ちてしまうのだけれど、今のキーファにはとても気になることがあった。
『スライム、あなたに喰われちゃったね』
『あなたの大事な人にも……影響が出ているかもね?』
頭の中をぐるぐると回るのは、シリンダの意味深なセリフ。
(まさか……いやでも)
確かめるのが怖い。
でも、本当に影響が出ているのなら。
キーファは迷いながらも、自身のステータスを開く。
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氏名:大屋 キーファ
年齢:8歳
種族:ワーウルフ
HP:440/440
MP:50/50
攻撃力:100
物理防御力:450
魔法防御力:280
魔力:20
必殺率:50
LP:3578日
LV2格闘
LV1射撃
LV1魔法(テンションアップ、防御力強化)
レアスキル(にこにこキーファ)
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「…………」
自分のステータスを穴が開きそうなほど凝視する。
ぱぱとカナおねえちゃんがたくさん頑張ってくれて、積み上げてきた自分の寿命。
数分経ったが、何も起きない。
ほら。
大丈夫じゃないか。
シリンダちゃんのいったことは自分を脅かすためのウソだったんだ。
そう安心しようとしたとき。
ぽっ
己の奥に生じた、暖かな感触。
それは甘美で、気持ちよくて。
ぱああっ
命の光が、キーファの両側に寝ているケントとカナから湧き上がる。
「!?!?」
じわぁ
その光は、キーファの全身に吸い込まれていく。
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氏名:大屋 キーファ
年齢:8歳
種族:ワーウルフ
LP:3596日(+16日)
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「ひいっ!?」
自分がケントとカナから。
大好きな両親から寿命を吸い取っていた。
その事実を把握したキーファは、ベッドの中で恐怖に慄くのだった。




