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第87話

「ね、ねえさんって……まさか」


 もともと大きな目を見開き、耳と尻尾を逆立てて驚くキーファ。

 あまりの衝撃の為か、目線がせわしなく動いている。


「そう。

 同じ場所で生まれ落ちた、狼のふたご」


 キーファに抱きついたシリンダは、少し背伸びして耳元に口を持っていく。


 ぴくん!


 彼女の言葉を聞き漏らすまいと狼耳が反応する。


(ふふっ)


 にやぁ、と嗤うシリンダ。


「わずか数分の差で。

 あなたは優しい”ぱぱ”の元で幸せに。

 私は暗く冷たい研究所で実験動物のように」


「!!!!」

「あ……う、そんっ、な」


 何かを言わなければ。

 ぱくぱくと口を動かすキーファだが、上手く言葉が出て来てくれない。


「ねぇ、不公平だと思わない?」


「あ、ふ……ふえぇ」


 自分には双子の妹がいて。

 自分だけがケントに拾われ、マナ欠乏症に冒されつつもケントの愛情を一身に浴びて幸せに暮らして来た。

 自分と正反対の人生を、この子は歩んできたというのか。


 じわぁ


 全身を包む後ろめたさに、涙をこぼすキーファ。


「まあそれはいい。

 今さら気にしてない」


 ぞくぞく


 打ちひしがれ、怯えるキーファの様子を見て昏い満足感を覚える。


 ちくり


(う……なに?)


 羨ましい、自分もその愛情の中に飛び込んでみたい。

 胸の奥で感じた自分らしくない想い……それを心の闇の奥、深く深くに沈める。


「話を本題に戻そうか」


 すぅ、と表情を消すシリンダ。


「え……これ以上何があるというの?」


 あまりの衝撃に顔面蒼白のキーファ。

 シリンダを振り払う事すらできない。


「魔狼のふたご。

 魔をつかさどる神は、ワーウルフとして究極の力を私たち二人に分け与えた」


 ぶわわわっ


 シリンダの全身から、圧倒的な魔力が湧き上がる。


「私には溢れる生命力と魔力を」


 キラキラ


 それと同時にキーファの全身からこぼれ落ちる輝き。


「あなたには何人も到達できない神狼の力と、何人からも愛される魔性の魅力を。

 その代償として……」


 シリンダの小さな唇が言葉を紡ぎ出す。


(ごくっ)


 そんな彼女から目を離すことができないキーファ。


「あなたはLPいのちを求める……貪欲に。

 分かれた魔狼のふたごが同じ場所でこうして揃った今……あなたの力は強くなってる」


 ぽてぽて


 その時、背後に1体のスライムが現れる。

 訓練用のモンスターではなく、本物のモンスター。

 どこからか迷い込んでしまったらしい。


 ばしゅう!


「!!」


 キーファがスライムに視線を向けた途端、光となって消え去るスライム。


 LP:3512日(+1日)


「こ、これって!」


 次の瞬間、キーファのライフポイントが増えた。


「スライム、あなたに()()()()()()()()

 あなたの大事な人にも……影響が出ているかも?」


「そ、そんなこと!」


 シリンダちゃんが何かしたんだ……必死に否定しようとするキーファ。


「信じるも信じないもあなた次第。

 だけど、私のところに来れば……」


 ぷにっ


「なんとかしてあげる」


 柔らかな人差し指をキーファの唇に押し付けたシリンダは、それだけを言うと

 ダンジョンの外に出て行ってしまった。


「あ、あうっ」


 あまりに多くの事を聞きすぎた。


 ぺたん


 ぐるぐると回る思考に翻弄され、頭を抱えて座り込むキーファ。

 シリンダちゃんはなぜ自分にそんなことを?

 Tokyo-Zeroで出現した魔狼は自分たちの敵さんだった。

 だから彼女が言った言葉も自分を騙すウソかもしれない。

 でも、もし本当だったら……?


 何が正しいのか、答えは出ない。


「でも……」


 そういえば……。

 UGランクダンジョンを抑え込んだ後、二人と一緒に寝た自分のLPが増えていたことが。


 ぶんぶん


 浮かんだ不吉な予感を、頭を振って打ち消す。


 そんなのウソだ。

 これは敵さんのいんぼう、のはず。


 心配した同級生が探しに来てくれるまで、キーファはずっとダンジョンの床に座り込んでいた。

最新話まで読んでいただきありがとうございます!


お話を気に入っていただけましたら、

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大変嬉しくて原稿もはかどります!


今後ともケントとキーファとカナの冒険をよろしくお願いいたします!

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書籍版1巻の立ち読みができるようになっています! エモエモなケントとキーファの挿絵も見れますのでぜひっ!
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