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第83話

 キーンコーンカーンコーン


「……おはよう」


 予鈴と共に教室に入って来たシリンダが、キーファの隣の席に座る。


「おはよう! シリンダちゃん!」


 元気いっぱいの返事をするキーファ。

 白銀の尻尾が嬉しそうに揺れている。


「あ、そうだシリンダちゃん!」


「…………?」


 ぱちんと両手を合わせ、シリンダの机の前に立つキーファ。


(今日こそ誘うぞ~!)


 いつも授業が終わるなり、まっすぐ帰宅してしまうシリンダである。


 お友達になって一緒に遊びに行きたい!

 気合を入れるキーファ。


「今日ぱぱとまま少し遅くなるらしいから、ほうかご一緒に遊びに行かない?

 駅前に美味しいクレープやさんができたんだ……けど?」


 シリンダの反応を探るように上目遣いになるキーファ。

 いつもならすげなく断られるところだが……。


 ぴくくん


 艶やかな黒毛の狼耳が、僅かに動く。

 すっ、と深い蒼の目が細められた。


「……ん、いいよ」


「!!

 やったぁ!!」


 思ってもみなかった返答に、思わずその場から飛び上がって喜ぶキーファ。


「あ~、早くほうかごにならないかなぁ♪」


 ぱたぱた


 嬉しそうに尻尾を振るキーファとシリンダ。


(二人とも可愛すぎない? このクラスの担任でよかった……)


((き、キーファちゃんっっ!!))


 あふれ出す圧倒的な可愛いオーラに、授業開始が5分ほど遅れてしまう3年2組なのだった。



 ***  ***


「と、言う事で来週の遠足についてです」


 終業前のホームルーム、女教師が児童たちにプリントを配っていく。


 A4の紙にはポップなフォントで「高尾山わくわく大冒険!」の文字が踊る。


(うわぁ~♪)


 早朝に学校をバスで出発し、山の中腹へ。

 お弁当を食べた後、2~3人の班に分かれて自由行動。


「楽しそう……!」


 高尾山には子供向けのダンジョン体験設備があり、安全な模擬ダンジョンで少しスリルのあるアクティビティが楽しめる。


 ちらっ


 シリンダちゃんと一緒に巡ってみたいなぁ。

 けど、学校行事をおやすみする事も多い彼女である。

 参加してくれないかもしれない。


 こくっ


 おずおずと視線を投げると、無表情なシリンダがわずかに頷いた。


「!!」


 キーンコーンカーンコーン


「はい、それではホームルームを終わります。

 皆さん、また明日!」


「「せんせ~、さようなら!」」


 子供たちの元気な声が響く。


「シリンダちゃん、いこっ!」


「……ん」


 ふたりはランドセルを背負い、午後の街に繰り出すのだった。



 ***  ***


「えへへ~、シリンダちゃんも遠足参加するんだね!」


「……うん、義父の手伝いが落ち着いたから」


「!!

 シリンダちゃん、ぱぱのお仕事てつだってるの!?

 実はキーファもなんだぁ♪」


「知ってる。

 ダンジョン配信? だよね。

 キーファ、有名人」


「へへ~♪」


 イチゴクレープをパクつきながらくるくると回るキーファ。


(やっぱり、この娘は……)


 心底幸せそうなキーファの様子を見て、思わず右手に力が入る。


 くしゃり


 クレープの包み紙が僅かに抗議の音を立てた。


(妬ましい)


 ダンジョンブレイクの跡地から回収され、殺風景なシーヴァの研究施設で圧倒的な力を持つ兵器となるよう育てられてきたシリンダ。別に自分が不幸だとは思っていないが、たっぷりの”愛情”を受けて育ったと思われるキーファの様子にどす黒い感情が湧き上がってくるのを抑えきれない。


 わずか数分の差で。

 《《自分とこの娘の立場は入れ替わってたかもしれないのに》》。


 リヴァーサとジルの計画通り、この娘には不幸な目に遭ってもらわなければ。

 不公平だ。


「このクレープすっごくおいしいよ!

 ……ぱぱのすいーつには負けるけど」


 そんなシリンダの内心を知るわけもなく、キーファは満面の笑みを浮かべてシリンダの左手を握る。


「シリンダちゃんも食べて! ばななくれーぷ!」


 キーファにいわれるがままに購入した謎の食べ物。

 バナナは栄養価の高い戦闘糧食で、訓練後の補給に最適だ。


 それを細かく刻み、白い歯磨き粉のような物に混ぜ込むなんて。


(これは本当に食べ物?)


 だがしかし、キーファを油断させるためには我慢して食べる必要がある。


「……はむっ」


 意を決してバナナクレープなるものにかじりついたシリンダ。


「!!!!」


 その途端、暴力的とも思える甘味がシリンダの味覚を支配する。


 官能的な甘さと芳醇な香り。


 ぴくくん


「あはっ、シリンダちゃん笑った!」


「!?」


 自分が感情を表に出していた?

 クレープの甘味にもだが、そのことに一番衝撃を受けるシリンダなのだった。



 ***  ***


 ――――― 同時刻、治次郎のクリニック


「そ、それは本当なんですか!!」


「……何度も調べたんじゃが、残念ながらほぼ間違いないじゃろう」


「そ、そんな!?」


 その場に立ち尽くす俺。

 先週受診したキーファの定期健診。


 その結果を聞きに来たのだが、主治医の治次郎さんから告げられたのは、衝撃の事実だった。


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