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第82話

「ワーウルフ族の転校生!?」


 その日の夕食、キーファから学校での様子を聞かされた俺は、思わず左手に持った茶碗を取り落としそうになった。


「うんっ、おととい日本についたばかりなんだって」


 山盛りの白ご飯を受け取り、ぱくぱくと幸せそうにパクつくキーファ。

 ちなみに、今日のおかずは豚の生姜焼きである。


「ケントおにいちゃん、これって……」


 キーファに負けず劣らず、大盛りの白ご飯を掻き込んでいたカナもびっくりした表情を浮かべている。


「まさか、と思うがタイミングが良すぎるな」


 カナのほっぺに付いたおべんとうを取ってやる。


「はうっ!?」


 とたんに赤くなるカナ。

 可愛い。


「Tokyo-Zero防衛戦で姿を現したワーウルフ、緋城グループは詳細情報を公開していないからな……じーちゃんや凛さんも掴んでいないらしい」


「むしろ髪を染めたキーファちゃんじゃないか、って取材が来たくらいですからね」


「う~。銀髪はキーファのじまんなのに!

 染めたりしないよぉ!」


「そうだな、世界の宝だからな!!」


 もふもふの銀髪をぽふぽふと撫でる。

 相変わらず最高の撫でごごちである。


「そ、その子があの魔狼なのかな?」


 圧倒的な力を示した漆黒の魔狼。

 UGランクダンジョンでエルダードラゴン2体を翻弄した白銀の狼。

 ……もちろん白銀の狼とはキーファの事だが、その切り抜き動画が世界的にバズっていたことにより、今回の魔狼も大きな話題となっていた。


「う~ん、シリンダちゃんとちょっとお話したんだけど……狼さんに変身したことはないんだって。いままでマナが薄いちゅうおうあじあ?に住んでたみたいだから」


「う~ん、中央アジアとは……」


 キーファの言葉に腕を組む俺。

 転校生のワーウルフは、シリンダという名前らしい。


「中央アジアってマナがあんまり出ないんですか?

 ……というか中央アジアってどの辺だっけ??」


「……カナおねえちゃん」


「こほん!」


 高校生にあるまじき発言をしたにカナに替わり、俺が解説する事にしよう。


「中国奥地からカスピ海にかけてのユーラシア大陸中央部、それにロシア方面、アフリカ内部にはほとんどダンジョンが出現せず、マナの濃度も薄いんだ」


「ほ、ほへ~」


「一説には火山がほとんど無いことが影響してるんじゃないか、と言われてるけど……」


「おーすとらりあにはたくさんダンジョンあるもんね!」


「だな」


 詳しい事は今だ調査中、というヤツである。


「ううっ、魔法やスキルやモンスターの事はあまり知らないのに、そんな難しい事には詳しいなんて!?」


「……いや、中学レベルの地理だぞ?」


「ぐはっ!?」


 いささかカナの卒業が心配になってきた俺。

 留年した高校4年生の嫁とか斬新すぎる設定である。


「それはともかく……そのシリンダちゃん、変わった所に住んでたんだな?」


「ママの仕事の都合だったみたい」


 重いマナ欠乏症を患っているキーファほどではないが、ワーウルフ族が生きていくにはある程度のマナが必要だ。

 中央アジアに住んでいたのなら、マナの調達も大変だったろう。


「もしかしたら、へんしん能力を封印してたのかもしれないね?

 キーファより体がすこしちっちゃかったし」


「むむぅ」


 間もなく9歳になるキーファは、平均的なワーウルフの子供に比べたら背が高い方だ。

 マナ欠乏症の影響で大量のマナやダンジョンポイントを摂取しているからか、能力も高い。


(確か、キーファがこの年で強力な狼に変身できるのは異例なんだっけ)


 キーファの主治医である治次郎さんの言葉を思い出す。

 マナが薄い地域に住んでいたのなら、狼に変身したことが無いのも有りうるのかもしれないが……。


(うむむ)


 さすがにあの魔狼がキーファと同世代ということは考えにくいのか……?

 欧州には世界ランクは低いものの裏世界で仕事をこなすワーウルフの探索者がいると聞いた事もある。

 キーファに同族のお友達ができるのは、パパとしても大歓迎である。


「……仲良くするんだぞ?

 もし変なことがあったらすぐに報告な?」


「は~いっ!」


 ぱたぱたと尻尾を振りながら、生姜焼きをパクつくキーファ。

 同世代で同種族の子が同じクラスに転校してきたのだ。

 嬉しくないはずがない。


(念のため、じーちゃんと桜下さんに報告しておくか。

 治次郎さんの所にも顔を出したいし)


「……カナ、明日なんだけど市ヶ谷に行きたいから、お前より先に家を出るわ。

 戸締りをよろしく」


「え……は、はいっ!」


 一瞬残念そうな表情を浮かべるカナ。

 ああそうか、朝が早いとどうしても……。


「あ~キーファ、今日はひとりで寝たいきぶんだな~♡」


 ちらり、と意味深な笑みを浮かべたキーファが俺たちを見る。


「ぴいっ!?」


「うおおおっ!?」


「あははははっ♪」


 大屋家の夕食は、いつも賑やかである。


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