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第79話

「ふああぁああぁ~、ちょっとねぶそくかも」


 朝食の席、でっかいあくびをするキーファ。

 ねむねむキーファも最高に可愛い。


「……すまん」


 だが、キーファの寝不足の原因は、完全無欠に俺とカナにあるわけで。


「はうぅぅ……3回、3回」


「まさか早朝にりべんじまっちが始まるとはおもわなかったよ♡

 だいじょうぶ! キーファうさぎさん係に立候補したから、月曜、水曜、金曜の朝は遠慮なく楽しんでね♪」


「「うひゃああああああああっ!?」」


 気回し抜群な娘さんのお陰で、悶絶する事になるのだった。



 ***  ***


「と、という事で……今日は倉庫の整理がてら移籍金の工面をしようと思う!」


 赤面しっぱなしの朝ごはんが終わった後、俺はびしりと宣言する。

 今日は日曜日、時間はたっぷりとある。


「!! あのヤバい倉庫(=パンドラの箱)を解放するんですね!!」


「カナは大げさだな……ガラクタばかりだぞ?」


「それギャグで言ってます!?」


 ひよこさんエプロンを身に着け、洗い物をしてくれるカナ。

 アップに結い上げられた黒髪が、キラキラと朝日に輝く。

 こんな美人な子が俺の嫁になってくれたんだよなぁ……あらためて実感する。


「Tokyo-Zeroでやっつけたモンスターさんの魔石があれば楽だったんだけどね~」


 テーブルを拭きながら残念そうな表情を浮かべるキーファ。


「事件の証拠物件として全て警察に差し押さえられたからな」


 俺とカナはダンジョン最奥部に閉じ込められていたので細かい経緯は桜下さんから聞いただけだが、Tokyo-Zeroで発生した大規模ダンジョンブレイクは、日本全体を揺るがす大事件に発展していた。


「ジルが反ダンジョン組織と呼ばれるシーヴァと組んでいたことも驚きですが……まさか、レニィがあんなとんでもないことをしでかすなんて」


 カナの元マネージャーであるレニィによるテロ行為。

 Tokyo-Zeroに対するハッキングがダンジョンブレイクを誘発したとじーちゃんもといダンジョン協会は主張しているが……。


「ダンジョンブレイク自体は、誕生日プレゼントの首飾りが引き起こしたんですよね?」


「ああ、一瞬ヤバい魔力を感じたからな」


 UGランクダンジョンでも、ダンジョンブレイクの直前に同じ反応があった。

 首飾りにギミックが仕込まれていたのはほぼ間違いない。


「ほんっと、ケントおにいちゃんとキーファちゃんに再会してなければどうなっていたことか」


 もう吹っ切ったと言っていたが、カナの形の良い眉が下がる。

 自分を孤児院から引き取った義父が自分に対してそんな極悪非道な仕込みをしていたのだ。


 ジルを断罪してやりたかったが、重要な証拠である首飾りをダンジョンブレイクのゴタゴタで紛失してしまったのは痛い。


「嫌な事を忘れられるまで、何度でも愛するぞ?」


「!! ふおおおおおっ!?」


 思わずキメ台詞を口に出してしまう。途端に真っ赤になるカナ。


「ほんとぱぱとままはかわいいな~」


 リビングにほっこりした空気が流れる。


「……こほん、という事で改めて倉庫のガラクタもとい素材を売却したいと思う。

 そのために、今日は頼もしい助っ人を呼んであるぜ!!」


「「助っ人?」」


 キーファとカナは、不思議そうに顔を見合わせたのだった。



 ***  ***


 ざざざざっ!


「へ?」


「ふわわ?」


 港湾部にある中型倉庫、野良ダンジョンなどでゲットした素材を保管するために俺が借りている。倉庫の正面に車を停めた途端、どこからともなく現れた黒服集団が車の両側に列を作った。


「えっと、ケントおにいちゃん……誰ですか、この人たち?」


「「ケント様、カナ様、キーファ様ご到着でございます!!」」


 クルマを降り唖然とするカナの前で、黒服の皆さんが一糸乱れぬ礼をする。


「これはな……」


「みなさま、お待ちしておりましたわ」


 からん、ころん


 二人に事情を説明してやるか、そう考えていると下駄の音も軽やかに、薄紫の着物に身を包んだ中学生くらいの少女が現れる。


「楓子ちゃん?」


「楓子おねえちゃん!」


「ケント様、カナ様におかれましては一度ならず二度までも私の命を救って頂き、この楓子どれだけ感謝しても感謝しきれません」


 俺たちの目の前まで歩いてくると、深々と一礼する楓子ちゃん。

 着物の隙間からちらりと覗いた肩口や手足には包帯が巻かれているが、元気そうでよかった。


「もう少し早く助けに来れたらよかったんだけど、ケガさせてごめんな?」


「いえっ、助けに来ていただいただけで十分でございます。

 私もマヤちゃんも何とか無事でしたし」


 頬を染め、もう一度礼をする楓子ちゃん。

 一緒にいたマヤは一週間ほど入院が必要とのことで、まだ病院にいる。


「いきなり無茶を言って申し訳ない。

 ガラクタ素材が多いと思うけど、遠慮なく持って行ってくれ」


「いえいえ、命の恩人のケント様、カナ様、キーファ様のお願いですもの。

 風間財閥の総力を上げて協力させていただきますわ!」


 楓子ちゃんの笑顔が頼もしい。

 優雅な笑みを浮かべたまま、カナの方へ向き直る。


「改めてカナ様、ケント様とのご結婚おめでとうございます。

 カナさまの移籍金の件、この楓子にお手伝いさせてください」


「えへへ、ありがとう楓子ちゃん!

 ケントおにいちゃん、もしかして……?」


「ああ、カナの移籍金を作るため、倉庫の素材を買い取ってもらうんだ」


 楓子ちゃんの背後に控えているのは、財閥お付きの鑑定士さんだ。


 ガラガラガラ


「ご、ごくっ」


 息をのむカナの目の前で、倉庫のシャッターがゆっくりと開いていった。



 ***  ***


「あ♪ これってキーファがちっちゃいときに着てたろんぱーすだ!」


 倉庫の片隅から、真っ赤な羽根で作られた赤ちゃん着を取り出すキーファ。


「おー! 昔のキーファは寒がりだったから、火を吐く鳥の羽根で作ったんだけど……」


「ちょっと暑すぎたよね!」


「は? なんかフェニックスの羽根に見えるんだけど!?」


「こ、こほん! 斎藤?

 いかほどになりますか?」


「こ、これほど見事なフェニックスの羽根、見た事がございません!

 最低5億円はくだらないかと」


「うひ~っ!?」


 ただの古着である。

 そんなになるわけないのだが……楓子ちゃんが気を使ってくれたのだろうか?


 何とかもう少しいい品物はない物か……足元にあった段ボールの中を探る。


 がさがざ


「おっ、3年前に作った扇風機じゃん!」


 段ボールの中から埃をかぶったサーキュレーターを取り出す。


「なつかし~! 風が強すぎて窓がとんじゃったんだよね!」


「うえっ!? 真ん中にハリケーンキマイラのコアを埋め込んでる?

 風属性の最強モンスター……あれ、見間違い?」


「……斎藤」


「わ、わたくしも現物を見るのは初めてでございます。

 超一級の発電プラント用素材になりますので、最低15億からのスタートかと」


「ひゃあああああああっ!?」


 鑑定士の斎藤さんはものすごい勢いで電卓に数字を打ち込んでいる。


 古着とサーキュレーターだぞ?

 いくらなんでも貰い過ぎだろう。


「あの、無理に買い取り額を上乗せしてもらわなくていいですから」


「い、いえっ!

 これほどの素材……この程度の金額で買い取らせていただくなど、恐縮でございます」


「そ、そうなんですか?」


「あ、これってあまり使わなかったキッチンフライヤーだよね!」


「「ひええええええっ!?」」


 その後も大屋家のガラクタ処分市は続くのだった。



 ***  ***


「ず、頭痛がしてきましたわ」


「不詳斎藤、ケント様を侮っておりましたことお詫び申し上げます」


 ざざざざっ(90度の礼をする黒服さんたち)


「お、お粗末さまでした?」


「すっきり片付いたね、ぱぱ!」


「あ~、わたしの見たものはゆめ、まぼろし?」


 なぜか疲れ切った表情を浮かべるカナと楓子ちゃん達。


 さてさて、カナの移籍金の足しになっただろうか?

 足りなけりゃ、風間財閥から借金してでも払うつもりだが!


「ケント様、詳細な鑑定が必要な特殊素材を除いた分の仮払いとなりますが、こちらをお受け取り下さい」


 鑑定士の斎藤さんが、風間財閥の実印が押された小切手を手渡してくれる。


 そこに書かれていた数字は……。


「いちじゅうひゃくせんまんじゅうまんひゃくまん……ふえ?」


 ずらっとゼロが並んでいる。


「おおおおお!?」


 見間違いでなければ、俺たちが手にしたのは……。


「「にひゃくごじゅうおくえん!?」」


 俺とキーファの驚愕の叫びが、綺麗に重なったのだった。


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書籍版1巻の立ち読みができるようになっています! エモエモなケントとキーファの挿絵も見れますのでぜひっ!
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