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第75話

「ば、馬鹿な!?」

「うそだろ!?」


 騒然とするTokyo-Zero中層部。

 突如発生した大規模なダンジョンブレイク。


 フェスに参加していた探索者の働きで、モンスターを順調に殲滅していた時だった。


「れ、レイドボスさんがかってに動いたよ!?」


 掠れたキーファの声が凛の耳に届く。


「そんな……ありえません!」


 ズズズズズ


 巨大なレイドボスがゆっくりと動き、モンスターの群れを守るように立ちはだかる。


「長官、何が起きているか分かりますか?」


 運営本部に通信を繋げる凛。


『レイドボスの制御を乗っ取られてしまったようじゃ!

 全力で取返しにいっとるが……正直状況は芳しくない』


「くっ」


 ダンジョンブレイクの発生に気を取られていた運営本部は隙を突かれ、敵にレイドボスをハッキングされてしまったようだ。

 Tokyo-Zero最奥部で同時発生したダンジョンブレイクに対処する必要もあるし、地上にいる観客の避難もまだ終わっていない。


 ガイトたちの対応は後手後手に回ってしまっていた。


「くそ、攻撃が届かないぞ!」


 どんっ、どんっ!


 モンスターに向かって魔法や剣技を放っても、3体のレイドボスが全て吸収してしまう。


「なんとかレイドボスを破壊できないか?」

「無理に決まってんだろ!」


 レイドボスは攻撃力を持たないのでこちらに被害が出ることはないが、HP換算で80万もの耐久力をもつ鉄壁の防御を抜くことはできない。


「ああっ、モンスターがすり抜けちゃう!」


 モンスターの群れはレイドボスに護られダンジョン上層へと向かっていく。


『!? いつのまにかG-3782ゲートが開いています!』


『なんだと!? 緊急閉鎖!!』


『ダメです、操作を受け付けません!!

 このままではモンスターが地上に!』



『総裁! 資材搬入用のS-231ゲートもアンロック状態になりました! 都心の地下街に繋がってしまいます!』


『馬鹿な!?

 急ぎ都庁に連絡、緊急避難警報を発令させろ!』


「あ……あ」


 事態は刻一刻と、最悪の方向へ推移していく。

 地上にいる数万の観客には探索者たちが護衛についているのだが、ジュニア及びCランク以下の彼らでは、中層に出現したモンスターに対処するのは無理だ。


 それだけではなく、このままでは街中にモンスターが溢れる。


(どうすれば……どうすれば!)


 いまだに自分たちは、誰がTokyo-Zero制御システムにハッキングを仕掛けているかすら把握できていないのだ。


「……ん、タリアお姉ちゃん、むこう」


 その時、タリアの妹のアリンタがダンジョンの天井を指さした。


「え?」


「アリンタ、分かった?」


 タリアの問いに、ゆっくりと頷くアリンタ。


「大きなマナの塊と強い悪意。

 あの子たちを操っているのは多分そいつ」


「アリンタちゃん、レイドボスさんをハッキングした敵がどこにいるか分かるの!?」


「うん。

 ダンジョンの……じょうそうぶ? たくさん車がある辺りかな?」


「すっご~い!!」


「にしし、アリンタはマナの流れと人の意思を感じ取ることができるのだ!」


 どやっ、と胸を張るタリア。


「!! 関係者用駐車場か!!」


 確か、自社配信をするという名目で緋城グループが機材を積んだトレーラートラックの駐車申請を出していた。

 そいつに積まれているのが配信機材ではないとしたら……。


「アリンタちゃん、案内してくれる?」


「はいっ!」


 アリンタの先導に従い、関係者用駐車場に急ぐ凛たちなのだった。



 ***  ***


「……ぐっ」


 泥のような眠りから、覚醒するレニィ。

 そうだ、自分はダークエルフの女に気絶させられて……。


「まさか貴方がこんなとんでもない真似をするとはね。

 ジルの指示なの?」


 目を開けると、目の前に女がいた。

 うしろ手はご丁寧に縛られ、大剣を喉元に突きつけられている。


 ああ、自分は凛に捕まったのか。

 ちらりと周囲に視線を投げると、ジルにリヴァーサ、シリンダの姿はない。


 あの女の言う通り、トカゲのしっぽにされたらしかった。


「凛おねえちゃん! この端末だよ!

 なんかもやもやしたマナを感じるの!」


「ありがとうキーファちゃん!」


「タリアさん、この女を見ておいて……変な動きを見せたら容赦なくぶん殴っていいから」


「ウ、ウンッ」


「ふん、抵抗なんてしないわよ。

 ……詳しく話すつもりも無いけど」


 ダークエルフ連中はどうでもいいが、ジル様は無事に逃げおおせただろうか。

 いまだジルに忠誠を誓うレニィは時間を稼ぐため、彼の身代わりに捕まるつもりだった。


「ロックされているけど……これくらいなら!」


 ハッキングツールが入っていると思わしきコンソールを操作し、Tokyo-Zero制御装置のコントロールを取り戻そうとする凛。


「凛おねえちゃん、がんばれ!」


 ケントとカナはダンジョン最奥部に閉じ込められている。後からロックを解除してくれなければ、二人を助けに行けないのだ。


「くっ……防壁が固い、でもっ!」


 凛の奮闘は続き……なんとかハッキングツールを停止しTokyo-Zeroの制御を取り戻せたのは、30分後のことだった。



 ***  ***


 ――――― 同時刻、Tokyo-Zero地上部にある公園。


「このっ、どいてよっ!」


 ばしっ!


 目の前のホブゴブリンをロングソードの一閃で切り捨てるが、モンスターは後から後から湧いてくる。

 比較的高位のモンスターはダンジョン内にいる探索者が倒してくれているようだが、先ほどからモンスターの数は増える一方だ。


「マナちゃん、無茶はいけませんわ!」


 ぱあああっ


 楓子の回復魔法が傷を塞いでくれる。


「ありがとうふーこ、でも……もう持たないかも」


 二人の背後には、数万人の観客がおびえた表情で一カ所に固まっている。

 マヤたちはモンスターの群れに囲まれていた。


 他の探索者と協力しながら護衛しているのだが、探索者の間にも次々と被害が出ており、辺りには血の匂いが漂う。


「救援部隊は、なんで来ないの!」


(ケントにぃ!)

(ケント様!)


 ふたりは絶望的な戦いを続けるのだった。



 ***  ***


 ――――― 同時刻、東京都心部


「避難誘導を急げ!!」


「Cランクモンスター5体、地下鉄駅構内に出没!」


「く、すぐに始末しろ!」


「駄目です、人が多すぎて現場に向かえません!」


「な、なんてことだ!」


 晴海ふ頭に向かうはずだったダンジョン庁とダンジョン協会の救援部隊は、行先の変更を余儀なくされていた。

 東京都心部にTokyo-Zeroから溢れたモンスターが出現したからだ。


 天気の良い日曜午後……街中にごった返していた群衆はパニックに陥り、救援部隊の探索者がモンスターの出現ポイントに向かう妨げになっていた。


「う、うわああああああああっ!?」


「ぎゃああああああああっ!!」


 地下鉄駅の入り口から血まみれの人々が飛び出してくる。

 駅構内には、断末魔の悲鳴が響き渡る。


 東京の街は、地獄絵図と化していた。



 ***  ***


「なんてこと……」


 レイドボスの制御を取り戻し、あたらなモンスターの発生を抑え込んだものの、その対処は少し遅かったようだ。


 モニターに映るテレビ放送はモンスターの群れが東京都心に出現したことを伝え、Tokyo-Zero上部の公園で孤立している数万人の観衆を空撮映像でとらえている。


 頼みの上位ランク探索者は、ダンジョン内に残る高ランクモンスターの対処に追われ、地上まで手が回っていない。



 ウ……ウオオオオオオオオン



「……ふえ?」


「え? こ、この声は……」


 凛たちが絶望に沈みそうになった時、狼の遠吠えのようなモノが周囲に響き渡る。


 ヴンッ


 次の瞬間、テレビ放送の画面が切り替わった。


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書籍版1巻の立ち読みができるようになっています! エモエモなケントとキーファの挿絵も見れますのでぜひっ!
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