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第74話 告白

『よぉ、元気そうだな』


「え、あ……は?」


 高ランクダンジョンの奥底に閉じ込められ、ダンジョンブレイクに巻き込まれている。窮地に陥っている義娘に掛けるにはあまりに場違いな言葉に、面食らうカナ。


「ジル! いったい、何のつもりだ!」


 奴がカナにプレゼントした首飾り、そこに何かのギミックが仕込まれていてダンジョンブレイクを引き起こした……俺はその事をほぼ確信していた。


『南米に送る予定だったが気が変わった。

 ダンジョンブレイクに紛れて処分するつもりだったのに……しぶといヤツだ』


「……え?」


 今度こそ呆然と立ち尽くすカナ。


「な!?」


 あまりに非道な物言いに、思わず絶句してしまう。


『リヴァーサ殿の手配で、新たな贄となる義娘むすめを手に入れたからな。

 オレ様にたてついたお前は、もう不要ということだ』


『だから、せめてオレとリヴァーサ殿の計画の礎となれ。

 民衆のダンジョンに対する恐怖心……その象徴となるのだ』


「え……あ……?」


 奴が何を言っているのかさっぱり分からない。

 だが一つだけ確かなのは、ヤツは義娘カナを見捨てたという事だ。


「ふざけるな!!!!」


 へなへなと座り込むカナの肩を抱きながら、俺は思いっきりジルに向かって叫ぶ。

 怒りが収まらない……目の前にジルが居たら全力でぶん殴っていただろう。


「いう事を聞かなくなったから捨てる?

 カナはお前のペットでも道具でもねぇ!!」


 ぎゅっ


 カナを思いっきり抱きしめる。

 彼女の悲しみが、少しでも癒えるように。


『何をきれいごとを……血のつながった娘ならともかく、孤児院から”買った”のはオレだぞ? 好きに使う権利があるだろう』


「違う!!」


 身勝手な物言い。

 俺はコイツに反論しなくてはいけない。


「キーファだって俺の実の娘じゃない」


 キーファを拾ってからすぐの事を思いだす。

 生まれたばかりのキーファは狼の因子が強く、俺の言う事を聞いてくれず暴れることもあった。

 どうすればいいんだ……悩んだ夜も多かった。


「だけど」


 キーファの事をいらない、なんて思ったことは一度もない。

 俺の腕の中で眠る小さな命。


『ぱぱ!』


 キーファが初めて言葉を発し、にっこりと笑った瞬間は今でも鮮明に思い出せる。

 それが自然なのに、この男は!


「娘に愛情を持てないお前は、親である資格はない!!

 カナは……お前を信じてたのに!!」


「け、ケントおにいちゃん~!

 わたし、わたし……!」


 涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしたカナを優しく優しく撫でてやる。


「よしよし。

 ……ヤツに言いたいことはあるか?」


「う、うん!」


 カナは強い子だ。

 涙を拭くと、キッとした表情で画面の向こうのジルを睨む。


「お、お義父さま……やっぱり貴方はわたしの事も、プロダクションの事も道具としか見ていなかったんですね!

 わたしとコラボしたあの女性探索者のように!」


『ほぉ……そこまで気付いていたのか。

 答えは……Yesだ』


「っっっっ!!」


 その回答が決定打だった。


「もうお前には、この子は任せられない!

 カナは……俺が幸せにする!!」


 俺はカナの両肩を掴むと、深紅の瞳をまっすぐに覗き込む。

 大きく息を吸い込み、告白した。


「カナ、お前を愛している!!

 結婚しよう!!」


「ひゅああああああっ!?」


 一瞬で真っ赤になったカナは大きく深呼吸すると……。


「はははは、はいいっ!!」


 全力で返事をしてくれた。


「カナ……!」


「んっ……」


 ジルに見せつけるよう、口づけをかわす俺たち。


『……ふん、好きにするがいい』


 カナはもう18歳、結婚に親権者の同意は必要ないのだが言質は取った。

 もちろんこの通話は記録している。


『お前たちが生きてここを出られたらの話だがな……移籍金は1円たりともまけてやらんぞ。無理だろうがな……ふ、ふふふ』


 ジルの負け惜しみが耳に心地よい。

 移籍金を叩きつけてやるから覚悟しろ。


「ぷは」


 いつまでもカナの唇の感触を楽しんでいたかったが、地上に戻るのが先決だ。

 ゆっくりと身体を離す。


「……えへへ」


 にっこりと微笑んでくれるカナ。


「どうしても我慢できなかった。

 唐突だったか?」


「ううん、ずっと待ってたんですから!!」


 ちゅっ


 今度はカナの方から、もう一度口づけしてくれるのだった。

 義父に対する想いを断ち切るかのように。


『うっ……は、ぐうっ』


 その時、突然ジルが呻きだした。


『な、なんだ……オレは何を?

 なぜこんな不合理な……うわっ!?』


 がしゃ、がしゃん……ぶつっ


 何かが倒れるような音と共に回線が切れる。


「「??」」


 何だったのだろう?

 思わず顔を見合わせる俺たち。


 グルルルルル!


 だが詮索する暇もなく、新たなモンスターが出現する。


「いくか、カナ!!」


「うんっ!!」


 本当のパートナーとなった俺たち。

 どんなモンスターが来ても、負ける気は全くしなかった。


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