第65話
「は~い、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!
役に立つ……かもしれない装備がいっぱいだぜ!!」
「安くしとくよ、おに~さ~ん♪」
「いやいやケントさんキーファちゃん、バナナのたたき売りじゃないんですから」
ぺしん!
水色の法被にねじり鉢巻きで、景気よく呼び込みをしていた俺とキーファに桜下さんのツッコミが炸裂する。
「え、法被着なくていいんですか!?」
俺たちと同じように法被を着て、頬にペイントを準備中のカナが驚きの表情を浮かべている。
「あの……普通でいいですから」
「うう、ケントおにいちゃんが気合を入れて売るぞ、と言ったから頑張ったのに~」
「いやてっきり俺……企業ブースだから物販に力を入れるのかと」
「違います」
苦笑する桜下さん。
探索者フェスのDAY2、特に予定が無い俺たちは、桜下プロダクションのブースの手伝いをしていた。
「うわぁ♪ カナさんだぁ!
こういうイベントに参加されるの、珍しいですね。
今日は楽しみにしてました! よろしくお願いします!」
「う、うん!
よろしくね美香ちゃん」
カナが高校1年生くらいの女の子に話しかけられている。
彼女は桜下プロダクションが売り出し中の新人探索者で、カナに憧れているらしい。
「ケントさん、荷物はこれで全部ですか?。
なんかむっちゃ凄そうな装備が入ってますね。
期待してます!」
「うわ、荷物運びさせちゃってすいません!」
プロダクションに所属する男性探索者が、搬入用のトラックから俺の荷物を降ろしてくれている。
慌てて手伝いに行く俺。
「いえいえ、ウチのエースですから! 手伝うのは当然ですよ!」
桜下さんの人柄もあるのか、プロダクションには優しい人が多く、カナを上回る高ランクの探索者も所属している。
(その中で”エース”と言われるなんて……)
確かに、フォロワー数は増えたが俺はプロダクション内ではまだまだ新人である。
「よしキーファ、お兄ちゃんたちを手伝うぞ!」
「らじゃ~!!」
俺はねじり鉢巻きを締めなおすと、ブースの設営に精を出すのだった。
*** ***
「ケントとキーファの……。
クラフトそうびコ~ナ~!!」
備え付けのカメラに向かって、ピースをするキーファ。
毎度のことだがかわいいが過ぎる。
「桜下プロダクションの公式サイトではいしんしている、初心者さん向けの探索チュートリアルとコラボして~ぱぱが拾った素材を使ったさいきょう装備の作り方を説明しちゃうよ!」
「ドラおじことケントだ。
はい、みんなキーファに拍手!!」
「いえ~い!!」
おおおおっ
パチパチパチ
ブースの前に集まった聴衆とカナから万雷の拍手。
桜下プロダクション内部のコンテンツにがっつり出すわけにもいかないので、たまたま居合わせた若手トップダンジョン配信者のカナさん、という設定である。
<またドラおじがなんか変なこと始めたぞw>
<相変わらずキーファたんかわかわ>
<一般参加者カナwwwwどういう設定だよ!>
<そらお前、大人の事情ってやつだろ>
「この配信動画は、プロダクションが提供する探索初心者向け動画だからな、俺も抑えていくからお前らも遊ぶなよ?」
<まったく信用できない笑>
<話五分の一で聞いとくわww>
相変わらずなウチのフォロワーは置いといて、手作り装備の紹介を始める俺。
「まずはコイツからいこうかな!」
手元に置いた、乳白色をした長方形の素材を手に取る。
ワイバーンの爪から切り出したものだ。
「コイツの表面はざらざらしてんだけど、5㎜くらい削ってやれば少し柔らかく、滑らかな手触りになるんだ」
ミスリル製のやすりで表面を削ると、すべすべした内部組織があらわになる。
「肌への刺激も少ないから、手甲として使うのがおすすめだ!
塗料のノリも良くなるから、配信者を目指す子は可愛くデコるのもいいかもな!」
「ぶいっ!」
ハートマークが入った手甲を左手にはめ、ポーズをとるキーファ。
「はいっ、ケントおにいちゃん!!」
聴衆たちの最前列で手を上げるカナ。
「おう、どうした? たまたま通りかかったカナ!」
「お散歩中のカナですが……。
ワイバーンはAランクモンスター、駆け出し探索者が倒すのは無理かと!!」
「なにいっ!?
そ、そうかもしれない……なら先着500名様にワイバーンの爪を使った工作キットをプレゼントだ!!
桜下プロダクションの会員になってもらってこのQRコードから……」
事前に打ち合わせた内容に従って宣伝をしてい行く俺。
こないだの”修行”でゲットした素材が大量にあるからな、世の中に還元だぜ!
おおおおっ!?
どよめく聴衆。
<草>
<なんだこの小芝居笑>
<ワイバーンの爪を気軽にばらまくな笑>
<防御力100くらいありそう……>
<いやこれ、絶対初心者向けじゃないよね?>
「そして、次に取り出したるは抹茶ドラゴン改めグリーンドラゴンの……」
<いやだからやべーって!!×50000>
コメント欄のツッコミが、きれいにシンクロした。
*** ***
(いや~、相変わらずヤバすぎですよケントおにいちゃん……!)
ケントに合わせて小芝居を繰り広げながら、内心汗ダラダラのカナ。
(倉庫にはもっとヤバいのがあったんだよね……)
昨日の出来事を思い返すカナ。
――――― 夕方、大屋家
「え、ケントおにいちゃん、引っ越すんですか?」
トークショーを終え、翌日に備えてケント家に泊まることにしたカナ。
手伝ってほしいことがあると車に乗せられ、レンタル倉庫に向かっていた時のことだ。
「そうだな、いまのマンションは2LDKだけど、キーファも大きくなってきたから自分専用の部屋を作ってやりたくてな」
「ほえ? キーファはずっとパパと一緒に寝てもいいけどな~」
「キーファ……(感涙)!
と、とはいえ、中学生高校生になったらそうはいかないだろ?」
「ふむふむ」
「毎回カナに客間やリビングで寝てもらうのも悪いしな。
《《俺たちの》》城を作ろう!」
どきんっ
ケントの笑顔に、胸が高鳴る。
俺たちの城……つまり、そこに自分も住めるってこと!?
「カナの意見も聞きたいな……幾つか候補を選んだんだが見てくれ」
ぴっ
自分のスマホに家のパンフレットを送ってくれるケントおにいちゃん。
増設可能な建売住宅、資産家の自宅だったと思われる広い敷地を持った豪邸……それのどれもが、自分が通っている学校に近く、彼の気配りを感じることができる。
(わああああああ)
当然のように、自分と一緒に住むことを考えてくれている!!
ワクワクが止まらないカナ。
「倉庫のレンタル費もばかにならないしな……出来れば地下倉庫を設置できるような広い敷地の家がいいな!!」
キキッ
ケントの車が、倉庫街の一角に止まる。
「……え?」
見るからに堅牢そうな造り。
魔法に対応した対爆コーティングが施されていると思わしき倉庫。
「さすがに手狭になって来たから、一度整理したいんだよな~」
ガラガラガラ
ゆっくりと倉庫のシャッターが開いていく。
(ひょえええええっ!?)
パンドラの箱が開いた……のちにカナはそう語ったという。




