第64話 凛、凱人サイド&敵サイド
「うんうん、やはりキーファたんは大人気じゃのう♪」
探索者フェスの運営本部。
モニタールームの椅子に座ったガイトは、ケントとキーファのトークショーの映像を楽しんでいた。
「14時時点でフェスの来場者は10万人を突破、公式配信の視聴者も500万人を超えています」
「うむ!」
満足げに頷くガイト。
「……ここ最近、反ダンジョン勢力の暗躍が目立っておる。
こういう人気取りのイベントも必要なのじゃ」
ファンサービスの一環として生歌を披露したキーファにデレデレだったじぃじは、一瞬でダンジョン協会名誉総裁の顔に変わる。
「まったく……ガイト長官がダンジョンの安定にどれだけ尽力され、現在の魔石文明に貢献されたか。野党の連中はそれが分からないようですね」
ガイトの言葉に顔をしかめる凛。
「連中の背後にいるのは某国とシーヴァ……それほどダンジョンにまつわる利権が巨大だという事よ」
「ままならない物ですね」
ガイトと一緒に仕事ができるのは嬉しいが、政治の世界のことになると胃が痛くなる。
ケントさんとキーファちゃんはあんなに純粋なのになぁ……みんなでキーファちゃんを愛でていれば、世界は平和になるはずである。
「……して、ジルの奴が”シーヴァ”のメンバーと接触したという情報は、本当か?」
「断片的な通信記録からの状況証拠ですが……ほぼ間違いないかと」
「うむ……」
ガイトが帰国したことで、国内の情報網も強化された。
ケントとキーファの大ファンだという情報屋から仕入れた情報なので確度は高いだろう。
「解せんな、緋城グループとシーヴァは水と油じゃろう?」
「そうなのですが……UGランクダンジョンのダンジョンブレイクの件、連中の関与で大規模な情報操作が行われた疑いがあります」
「ほぅ、もしかしたらジルにとって、あのダンジョンブレイクは想定外だったのかもしれんの」
「と、いいますと?」
「UGランクダンジョンが廃棄されるとスポンサーになっている緋城グループにとって大打撃となる。焦ったジルがシーヴァの連中に取引を持ち掛けたのかもしれん」
「連中がダンジョン関連企業のCEOと手を組む……そんなことがあるでしょうか?」
「シーヴァは全てのダンジョンの”破壊”をもくろんでいるんですよね?
結局UGランクダンジョンは破棄ではなく当面の封鎖ということになりましたし」
「ワシが関わった”始祖”の作戦で、シーヴァはかなりの打撃を受け、焦っとるはずじゃ……勢力を取り戻すための策なのかもしれん」
「むむ……シーヴァ側の狙いはそうだとしても、ジルみずから表に出てきたことが解せませんね」
「奴らしくない、ということか?」
「はい」
凛が探索者としてジルのパーティに所属していた時も、自分やレニィ、ほかのメンバーに探索の指示を出すだけで自ら前線に出てくることはほとんどなかった。
いま思えば、その頃から協会や政界とのパイプ作りに注力していたのだろう。
「どちらにしろ、こちらから招待した手前、連中の参加を制限する事は出来ん。情報収集の方、頼んだぞ凛たん」
「凛たんはやめてくださいね?」
フェスのメインイベントであるダンジョン攻略デモンストレーション……それまでになるべく情報を集めておこう。
そう決意する凛なのだった。
――――― 同時刻、緋城グループ用ブース控室
「当社ブースへの来場者は2万人を突破……魔石の売買契約も順調です」
「ふん、いいんじゃないか?」
探索者フェスの進捗状況をジルに報告するレニィ。
(いつつ……最近頭痛が酷いわね)
(ええっと……なぜ探索者フェスに私とジル様が)
最近どうにも調子が良くない。
思考を巡らせようとするとよく頭痛に襲われる。
(まあいいか……ジル様の為だものね)
気にしなければ頭痛は去るのだ。
レニィは深く考えないことにした。
「一応、カナ嬢の方も順調です。
本日、ついにフォロワーが200万人を突破しました」
「ほう!!」
義娘の話題だというのに、珍しく相好を崩すジル。
その様子に、イラついてしまうレニィ。
「なるほどなるほど……そろそろ”使い時”かもしれんな」
使い時……何のことだろう。
考えようとするとまた頭痛が襲う。
「”協力者”のお陰で、実験が大きく進捗した。
そろそろ本格的に試したいと思っていたところだ」
「君にも紹介しておこう……リヴァーサ殿!」
ガチャッ
控室の奥にある扉が開き、黒い人影が入ってきた。
身長は190㎝に届こうかという長身の女性。
漆黒の肌に真っ白な白髪。
一番目立つ特徴はピンと尖った耳だ。
(ダーク、エルフ……?)
エルフである自分の仇敵ともいえる種族……だったかもしれない。
何故か頭が上手く働いてくれない。
リヴァーサとは反ダンジョンのカルト組織、その総帥で、自分たちとは相いれない存在。
「……初めまして、レニィと申します」
頭の中に生まれた疑念は、次の瞬間霧のように霧散してしまった。
とてとてとて
続いて、ダークエルフのリヴァーサの背後から小さな影が歩み出てくる。
「…………」
カラスの羽根のような漆黒の頭髪。
もふもふの狼耳と尻尾。
どこかで見たことのある気がする、蒼色の瞳。
「……シリンダ」
ワーウルフの少女は、機械音声のような声でそう名乗ったのだった。




