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第62話

 ――――― 数日前、緋城グループ本社ビル、ジルの執務室


「……ご説明したように、ダンジョン協会名誉総裁の名で、緋城プロダクションに”探索者フェス”への参加招待が届いています。

 大屋名誉総裁が帰国したタイミングでの招待……正直、警戒すべきかと。

 先日のダンジョンブレイクについてもしつこく問い合わせが来ていますし……我々の企みに気づいているのではないでしょうか?」


「……ふん、いいんじゃないか?

 オレと君で参加するとしよう」


「ジ、ジル様!?」


 敬愛する上司の意外な返答に、思わず取り乱すレニィ。


「プロダクションに所属しているSランク探索者じゃなく、ですか!?」


 ジルの意図が読めず、混乱するレニィ。


 確かに”探索者フェス”は日本最大級のダンジョン関連イベントで、これをきっかけにトップ探索者への道を駆け上ったものも多い。

 ダンジョン庁とのパイプができることもあり、”招待”はプロダクションにとって美味しい、のだが……。


 プロダクションやギルドの力を示すためにトップ探索者を出場させたり、今後売り出したい有望株を参加させるのが一般的だ。

 過去に上位ランカーだったとはいえ、プロダクションの経営者自ら参加するなんて聞いた事が無い。


「……自信が無いのかね? それとも、オレでは力不足だと?」


「い、いえ! 決してそのような事は!!」


 一線を引いて久しいとはいえ、レニィは”桜鬼の凛”と双璧を成した探索者であり、二人が所属するパーティを率いていたジルは世界ランカーであった。

 過去の実績から言えば申し分はないのだが……。


「し、しかしですね」


 探索者を引退後、経営者としてダンジョン界や政界への影響力を強めていたジルである。今さら表舞台に出て何をしようというのか……上司に翻意を促すべく、何とか説得しようと試みる。


「廃棄は免れたとはいえ、無期限封印状態のUGランクダンジョンの件もあります。

 ダンジョン封印施設の維持、警備など毎月数十億円の費用が掛かるうえ、現地住民から観光業に影響があると訴訟も起こされています。そちらの対策に注力して頂かないと」


 実はグループの財政は火の車である。

 只でさえ上位ランク探索者の獲得に巨額の資金を投入した後なのだ。

 債務の返還期限も迫っている。


「な、何故あの時……」


「オレが義娘に仕込んだギミックを発動させたのか……と言いたいのかレニィ?」


「うっ……」


 あの時ジルが余計な事をしなければ、今頃探索権を獲得したUGランクダンジョンで高価な魔石を思いのままに収集できていたはずである。

 ダンジョン庁の疑念が緋城グループに向かう事もなかった。


 ジルは『些細な実験だ。魔が差しただけだ』と言っていたが、些細な実験にしては被害が大きすぎる。


「とにかく、私は反対で……」


 ぱちん!!


「…………」


 なおも言い募るレニィに向けて指を鳴らす。

 その途端、彼女の瞳から光が消えた。


「……問題ないかと存じます」


「ふん、下手に事情を知る探索者を出して、大屋凱人に探りを入れられても敵わん。

 奴も俺自らが出てくるとは思わんだろう?」


『そのとおりだな、ジル』

『…………』


 何者かの声が執務室に響くが、レニィは何の反応も示さない。


 ズオオオオッ


 ジルの背後にわだかまる闇の中から、二人の人影が姿を現した。



 ――――― 1週間ほど前、緋城プロダクションビル前


「う~ん、なんか久しぶりに来たかも」


 通い慣れたはずの緋城プロダクションのエントランスが、知らない場所のような感じがする。


「うへへ、最近ずっとケントおにいちゃんとコラボ♡してたんだもん」


 周囲に誰もいない事をいいことに、限界化した笑みを浮かべるカナ。


 オーストラリアから戻って20日ほど。

 自由裁量という名の放置プレイを食らっていたのだ。


 ケントおにいちゃんとのコラボ配信や単独配信もいつも通り。

 コラボ配信は凛さんがフォローしてくれるし、ケントおにいちゃんは配信機材に詳しいから、何の問題も発生していない。


(わたしが緋城プロダクションに所属している意味って、一体?)


 思わず疑問を抱いてしまうが、義父であるジルが移籍を認める可能性はゼロで、50億に設定された移籍金を自分で払えるはずもない。


「おっと、そんなことより……」


 今日は探索者ライセンスの手続きに来たのだ。

 18歳未満の探索者は、半年ごとにライセンスの更新が義務づけられている。


 晴れて18歳になったカナは、今回の更新で成人ライセンスへ切り替わるので、今後は数年に一度の更新でよくなるのだ。


「ふふふ、これで大人の仲間入り♪」


 エントランスに入り、所属探索者向けの事務カウンターへ足を向ける。


「すみません、緋城カナです」


「……ライセンスの更新ですね、ジルCEOから書類を預かっています」


 受付の女性から、”保護者”のサイン入りのライセンス更新書類が入った封筒を受け取る。


「…………」


 今まで一度も、義父に直接この書類を手渡されたことはない。

 18歳になり、成人ライセンスに切り替わる記念すべき更新……もしやと期待したがいつも通りである。


(はぁ)


 ため息を一つ、カナは事務棟に併設された訓練施設に向かう。

 更新審査には体力・技術測定もあるのだ。



 ***  ***


「むふふ」


 更新審査を終え、成人ライセンスを受け取ったカナは思わず笑みを浮かべていた。

 青色のジュニアライセンスと違い、ゴールドのライセンスカード!!


「これでケントおにいちゃんと一緒!」


 隣に立つ愛の♡パートナーとして、よりふさわしい姿になった気がして嬉しくなる。


「……あれ?」


 協会の電子印が押された書類を受付に提出しようと封筒の中身を整理していたカナ。

 奥の方に、半分破れたコピー用紙が挟まっている事に気付く。


「なんだろ?」


 単なる興味本位で、紙を取り出してみる。


「!! え、これって!?」


 思わず声を上げてしまった。

『迷宮災害死亡者特別給付金控え』

 と書かれた書類の氏名欄に書かれていた苗字。

 書類が破れており、下の名前まで確認する事は出来なかったが……。


「あのひと、探索者をやめて実家に帰ったんじゃ?」


 以前コラボ配信をした、30代の女性配信者の物だったのだ。


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