第61話
「ひゃっほ~! Kento、Keyfa、Kana!
スグに会えたね!!」
民族衣装をベースにした、カーキ色の冒険着に身を包んだタリアが、俺たちに向けてぶんぶんと手を振る。
「タリア、お前も招待されてたんだな!」
「ウンッ!! UGランクダンジョン探索で活躍したから、だって!」
「タリアちゃん、こないだぶり!!」
「タリアおねえちゃん、また会えてうれしいな~!」
笑顔でタリアに駆け寄るキーファとカナ。
じーちゃんと和解(?)してから2週間ほど……俺たちはダンジョン庁主催の”探索者フェス”のレセプション会場へと来ていた。
「フェスは明後日からですが、本日は参加者の顔合わせと、4年ぶりに開催されるフェスについて長官……こほん、名誉総裁からご説明があります」
ダンジョン庁の庁舎に隣接する日本ダンジョン協会本部。
きらびやかに飾り付けられたレセプションルームの壇上に、豪華な礼服を身につけたじーちゃんが立っている。
ああしているとお偉いさんに見えるから不思議だ……その内実は超ひ孫バカな脳筋じじぃなのに……。
「あ、あの……Nice to meet you」
俺が世の中の不条理について思いをはせていると、タリアの背後からおずおずと一人の女の子が顔を出す。
年のころはキーファと同じくらいだろうか。
褐色の肌に黒い髪……一目でタリアの姉妹だと分かる。
ん?
この子は、確か……。
「タリアの呼びかけに答えて部族の人たちを呼んできてくれた……」
「アリアタ……です」
「アタシの妹!」
「おお!!」
あの時の妹ちゃんか!
キーファの大恩人だ。
「!! アリアタちゃん、ちょくせつ会うのは初めてだね!」
だきっ
「ふわわわ!?」
キーファに抱きつかれ、目を白黒させているアリアタ。
タリアの話では、かなりの恥ずかしがりやさんらしい。
キーファとも、テレビ電話で話しただけとか。
「すりすり~」
「わわ、キーファちゃん、ふわふわ!」
「アリアタちゃんのお肌すべすべ~♡」
じゃれ合うふたりはとても尊い。
「ふふ、アリアタちゃん。
キーファを助けてくれてありがとな?」
ちゃりん
手持ちの自作装備の中から彼女に似合いそうな紫の魔石が埋め込まれたブローチをプレゼントする。
「わわ、きれい!」
「にしし、良かったねアリアタ!」
なでなで
アリアタちゃんの頭を優しく撫でてやる。
「えへへ……アリアタ、ケントお兄ちゃんの事応援するね!!」
にぱっ、と笑顔の花が咲いた。
うんうん、キーファと仲良くしてくれよな!!
「うおっ、さっそくケントにぃが褐色幼女を篭絡している!?」
「マヤちゃん、ケント様に対して失礼ですわよ」
「……おい!」
人聞きの悪い事を言いながら現れたのは桜下総合探索者学院の制服姿の女子生徒。
「マヤに楓子ちゃんか。
お前らもフェスに参加すんのか?」
「もち! 学院代表だし!!」
びしり、とポーズをとるマヤ。
「こう見えて、マヤちゃんは中等部主席になったのですわ。
私は付き添い……でありますが」
スカートの端をつまみ、優雅に一礼する楓子ちゃん。
「って、ふおおおおおおお、キーファたーん!!」
「本人の許可を頂いてから抱きついてください!」
ずびし!
「ぐえっ!?」
さっそくキーファを見つけて限界化するマヤを成敗する楓子ちゃん。
しっかりマヤの面倒を見てくれているようだ。
「二人はジュニア枠での参加か……がんばれよ!」
「はい、光栄でございます」
一時期毎日A5ランクの牛肉などが送られてきたものだが、最近はすっかり落ち着いている。盲目的に俺を慕ってくれていたが、冷静になったんだな……と彼女の成長を喜ぶ俺。
「ぱぱ! アリアタちゃんと記念写真撮りたい!」
「おう、まってろ!」
パパモードになった俺は、キーファの方に向かった。
「いててて……ふーこ、せっかくケントにぃに会えたのにいいの?」
「私、気が付いたのですわ」
「??」
「ケント様とカナ様……幾多の配信を見させていただきましたが、大変お似合いなお二人の間に挟まるというのは無粋でございましょう」
「そ、そうだね、フリンはいけないよね」
ケントにぃとカナねぇはまだ結婚していないけど。
やけに常識的な事を言う親友に戸惑うマヤ。
「ですのでこの風間楓子……まずは学院で精進し、政界進出を果たします」
「んん?」
なんか変な話になって来たぞ?
思わず首をかしげるマヤ。
「しかる後、SSランク以上の探索者に一夫多妻の選択権を与える法案を通します」
「……は?」
「これで、晴れて風間楓子はケント様の第二夫人になる、という筋書きですわ!!」
「……え~っと」
ケントにぃ、マヤは何も出来ませんでした。
ガンギマリの目でそう語る楓子について、マヤは後年そう語ったという。
*** ***
「ふ~、思ったよりもすごいイベントですね」
「探索者さんがいっぱい!!」
「だな」
さすがに夏休みに参加したUGランクダンジョン探索ほどではないももの、日本のトップランカーすべてと、マヤたち将来を嘱望される探索者の卵が参加するフェスは、予想以上の盛り上がりを見せていた。
「ただ……」
「どうした、カナ?」
先ほどから、彼女の表情はどこか冴えない。
華やかな場所が恥ずかしい……という訳ではなさそうだ。
カナの視線の先を追っていくと……。
「!!」
「大屋名誉総裁、この度はお誘いいただいてありがとうございます。
昔取った杵柄ではありますが、レニィとともに参加させていただきます」
「う、うむ……最近とくに業績を伸ばしているとお聞きしている。
我が国の探索者行政への協力も感謝しておりますぞ」
総裁モードのじーちゃんに話しかけているのは、じーちゃんに匹敵するほど高身長の中年男性にエルフの女性というコンビ。
「あれはレニィさんと……!」
一度だけ、カナに写真を見せてもらったことがある。
「はい、わたしの義父、緋城 ジル・ドミニオンです」
カナのオヤジさんとマネージャーが、探索者として”フェス”に参加するという事なのか!?




