第60話
「……何のつもりじゃ?」
白いセーラー服を基調とした冒険着を身に着けたカナが俺の隣に立つ。
「単独では、アンタに届かなくても。
いまの俺には、頼れるパートナーがいる!!」
(ひょおおおおおおおっ、最高だぜぇ!!)
「俺はもう、あの頃のソロ(ぼっち)じゃねぇ!!」
「!! なんと!!」
俺の啖呵に、目を見開いて驚くジジィ。
以前は手に入れた素材を全部キーファの為に使おうと、一人でダンジョンに潜っていた。
(……本音を言うと、どうやってほかの探索者と組めばいいか分からなかっただけだが!!)
キーファと配信を始めた後は、キーファとふたりで。
だが、上位ランカーのカナとのコラボを通じて、俺は頼れる仲間と組むことを覚えた。
カナの情熱と優しさが、俺を一人前のダンジョン探索者に成長させてくれたのだ。
「ふ、ふふふ……。
キーファたんのみを見て、周りの声に耳を傾けてこなかったお前が……!
成長したのう、ケント!!」
ずおっ!!
ジジィから感じられるダンジョンポイントのエネルギーが、より大きくなる。
「うわっ、これがお爺ちゃんの……本気!?」
「大丈夫だ!」
俺はポンとカナの頭に手を置く。
「ケントおにいちゃん?」
「カナ、お前は強い!
俺には使えない魔法をたくさん使えるし、何より武器が日本刀ってのがカッコいい!!」
「ふおおおっ!?」
「スキルを放つ前の凛とした横顔は息を飲んで魅入ってしまうくらい綺麗だし……頂点を目指す努力を怠らない姿勢も尊敬してる!!」
「うひゃあああああっ!?」
「キーファを本当の妹のように可愛がってくれるし、ふとした時に見せる素の表情もカワイイ!!
つまり……俺たちの、俺の最高のパートナーだ!!」
「わ、わわわわわ、わたしだって!!」
顔を真っ赤にしたカナが、俺に向き直る。
「ケントおにいちゃんは、絶対世界で一番強いし、風のように舞ってモンスターを仕留めていくその動きにいつも魅了されちゃう!!」
「うおおおっ!?」
「何よりその横顔がめっちゃカッコいいし、キーファちゃんのパパをしてるケントおにいちゃんは甘えたくなるほど最高で!!」
「ぬおおおおおおおっ!?」
「料理も上手だしお掃除も完璧だし……ちょ~っと天然さんな所もまた推せる!!
なにが言いたいかというと……一生一緒に居たい!!」
「ぐおおおおおおおおおおっ!?」
気恥ずかしさと共に、膨大な力が身体の奥底から湧き上がってくる。
……なに恥ずかしい告白をしあっているんだと思われるかもしれないが、
これはオーストラリアでの”修行”を通じて身に付けた新しい技である!!
少し話はそれるが、キーファのスキルであるテンションアップとにこにこキーファは、仲間の精神を高揚させ、潜在能力を引き出し一時的にステータスを強化することができる。
俺は考えたのだ……最初から精神がアゲアゲなら、もっと効くんじゃないかと!!
と、言う事で俺とカナはお互いを褒める言葉を考え……こうして言い合っている訳なのだ!!
……ま、8割くらい本気だけどな(照)
「よ、よし。
そろそろ行くか」
「う、うんっ!!」
カナの瞳が、高揚に潤んでいる。
俺はカナと手をつなぐと、ジジィに向き直った。
「わおわお~ん♡」
その瞬間、キーファのスキルが俺たちに向けて放たれた。
*** ***
「なっ……こ、この効果は!?」
3人のステータスをチェックしていた凛が驚きの声を上げる。
「ケントさんとカナさんの基礎ステータスが20%アップ!?
「キーファちゃんのバフスキルは、5%程度の効果だったはずでは!?」
「にひひ~」
いたずらっぽい笑みを浮かべるキーファ。
「これはぱぱとカナおねえちゃんの新ひっさつわざ!!
お互いをほめ合って、らぶらぶはいめんたる(おねえちゃん命名)状態になると、キーファのスキルの効果が数倍になるの!!」
「ぱぱが言ってた、”せいしんはにくたいをちょうえつする”、ってやつだね!!」
「え、なにそれ知らん、怖……」
思わず素の反応を返す凛。
テンション……つまりメンタルの差が、魔法の威力に”僅かに”影響する事は知られている。
だが、バフスキルと組み合わせてこれほどの効果を発揮させるなど……。
「まったく、ケントさんたちは底なしですね……」
『ば、ばかなあああああああっ!?
え、なにそれチート!?』
『ジジィ、覚悟っ!!』
『ちょ、まっ!』
どおおおおおおおんっ!
ケントとカナのコンビネーション攻撃により、見事な一本がガイトに炸裂する。
祖父と孫の会話も、どうやら無事に終わったようだった。
*** ***
「あれほどの力を発揮する絆の強さ……この凱人、感服したわい!
カナさん……いやカナたん!! 末永く孫を頼む!!」
「ひゅおおおおおおおっ(おじいちゃんの公認ゲット!!)!?
おじーちゃん♪ と呼んでもよろしいでしょうか?」
「ぐはっ(鼻血)!?」
「おじーちゃーん!?」
すかさずカナがじいちゃんを追撃している。
激闘を終えてなお、油断しないその姿勢……見習いたいぜ!!
「ふ、ふぅ……すさまじい威力じゃカナたんよ。
だが、正直あの孫はアホじゃからな、苦労しておるだろう?」
「い、いえ……そんな事は!!
優しくてカッコ良くて最高なんですが……ただ、天然なんです!!」
「さもありなん。
我が孫ながら、ヤバい天然さじゃからな……攻略の鍵は推して推して押しまくる、じゃ!!」
「はい、頑張ります!!」
がしっ
健闘をたたえ合うじーちゃんとカナ。
なんていうか……拳を交えたことで、随分とすっきりした気がする。
「じぃじ! おつかれさま~!」
だきっ
「おおお、キーファたん!
じぃじはかわいい孫たちに囲まれて幸せじゃのう!!」
「…………」
俺以上に脳筋な祖父だが、カナはじーちゃんを気に入ってくれたようだ。
キーファもじぃじとして慕っている。
「ふぅ」
いつまでもパパが、へそを曲げているわけには行かないだろう。
「ま、まぁ……たまには遊びに来ていいぜ、じーちゃん」
「!!
ふ、ふふっ……仕方ないから週一で行ってやろう、孫よ!!」
「なあっ!?」
「ぱぱもじぃじもつんでれ!!」
「ぷっ、あははははははっ」
「ふふっ、ふふふふふふっ」
「しゃ、しゃーないな!」
思ったよりも来まくろうとするじいちゃんに一瞬焦るものの、キーファの一言でみんな笑顔になるのだった。




