第56話
「さてさて。
タリアから紹介してもらったこのBランクダンジョン……《《あることをしないと》》、出られないダンジョンなわけよ!!」
タリアの親族が出してくれた船に乗って数十分。
本島近くの小島に上陸した俺とカナは、ちょっぴり特別なダンジョンに潜っていた。
<いまさらBランクダンジョン?>
<ドラおじとカナのコンビなら秒で終わるんじゃね?>
<ていうか、”あることをしないと出られないダンジョン”ってなんだよww>
もちろん、修行の模様は配信する。
キーファの為に天然物のダンジョンポイントを集めなくてはいけないからな!!
「ケントおにいちゃん! 腕が鳴ります!!」
むんっ、と勇ましいポーズをとるカナ。
頂点を目指す彼女の姿勢は、見習う所が大きいぜ!!
(むおおおおおおおおおおおおっ!?)
(○○しないと出られない部屋……それはつまりあのなんかマンガでよく見るヤツ!!)
緋城カナ、孤児院を出てからカリスマ配信者として一直線。
初恋=今恋=ケントおにいちゃん!!!!
な乙女なのだ。
ぷしゅううう
(うおおお、カナの排熱スゲェ!!)
(これが本気になった若手No1探索者の力か……憧れるぜ!!)
(うおおおお、ケントおにいちゃんの熱い視線が!!)
がしっ、と固く握手をする俺とカナ。
<なにこれ笑>
<絶対勘違いしてるよねこのふたり>
<もう慣れたぞ>
<このいちゃいちゃが推せるのよ!!>
<ほんと見てて飽きないな>
<キーファです! 今日はお留守番だけどふたりのこと、おうえんしてね! ……いろんな意味で>
<キーファたんwwwww>
<キーファたん苦労人概念笑>
<草>
<娘ちゃんが一番冷静www>
キーファも登場し、盛り上がるコメント欄。
ふふふ、ダンジョンブレイクの時にはどうなるかと思ったが……うちのコメント欄も調子が戻って来たようだぜ!
「ならお前らに発表だ……このダンジョンは!!」
「このダンジョンは(掛かり)!?」
「モンスターを1000匹倒すまで出られないダンジョン、だ!!」
「うおおおおおおおおおっ……って、へっ?」
なぜかずっこけるカナ。
<やっぱりwwww>
<何を期待してたんだカナwwww>
<カナの秘密:実はけっこうむっつり>
<草>
<そんな事だろうと思った笑>
「確かに俺たちダンジョン探索者は、ダンジョンポイントがないと強くなれない……!
だがっ!!」
ありったけの情熱を込めて、両方の拳を握る。
「ふ、ふえぇ?」
「鍛え上げられた肉体は、精神を超越する!!
限界を超えたその先……そこに次の世界があるんだっ!!」
「という訳で、ウェイト付きスクワット1000回!!
行くぞカナ!!」
「ひょおおおおおおおおおっ!?」
俺の言葉に従い、スクワットを始めるカナ。
紅潮する頬に滲む汗。
膝丈スカートから覗くスラリとしたふくらはぎには、しっかりと鍛えられた筋肉が見て取れる。
「いいぞカナ!! 最高に綺麗だ!!」
「うっひゃああああああああ!!」
ハイになった俺とカナは、スクワットを続ける。
<まさかの脳筋www>
<まあ分かってたことではあるが笑>
<なあ、筋肉を鍛えたらステータスって上がるん?>
<ステータスに現れない敏捷性は向上するけど、HPや攻撃力、防御力は変化しないってのが最新の研究成果らしい>
<けど……>
<ドラおじならなんかありそう!!×10000>
コメント欄は、妙な盛り上がりを見せるのだった。
*** ***
「はぁ、はぁ、はぁ……うへへ、ケントおにいちゃんわたし……。
なんかすっげぇハイになってきました!!」
30分後、ダンジョンスクワット1000回を終えたカナが、ふらふらになりながら俺に寄りかかってくる。
びっしりとかいた汗、キラキラと情熱に輝く瞳は、何事にも代えがたい美しさだ。
<オレたちは何を見せられていたんだwwww>
<30分スクワットしているだけのダンジョン配信なんて、見た事ねぇ……>
<カナの顔wwww>
「すべてを燃やし尽くしたその姿……。
可愛いぞ、カナ!」
「うっひょおおおおおおおおおおっ!!」
<アヘ顔すんなwwwww>
<カナたん、よだれwwww>
<草>
<クールなJK配信者の姿はどこへ笑>
<だけどこれが、最高にかわいいんだよな!!>
盛り上がるコメント欄。
視聴者たちには退屈な時間を過ごさせてしまったかもしれないが……ここからが本番だ!!
「カナ、両手両足にダンジョンポイントを込めろ!」
「ふ、ふおおおおおおおっ!?」
疲れ切った体に、ダンジョンポイントのエネルギーが満ち満ちる。
「これがダンジョンポイント・ハイだ。
いまなら、1000匹のモンスターなんざ、楽勝だろ?」
「はいっ!!」
コボコボ
ホブホブ
オークゥ
仕上がった俺たちを待っていたかのように、モンスターの大群が現れる。
「行くぞカナ、千体斬りだっ!」
「うおおおおおおおおおっ!!」
俺は拳で、カナは日本刀で。
俺たちはモンスターの群れに飛び込むのだった。
*** ***
1時間後、無事1000体のモンスターを狩り終えた俺たちは魔石の山に囲まれながら配信のエンディングを撮影していた。
「すぅ、すぅ……」
戦い終えたカナは、満足そうな表情を浮かべて俺にもたれかかって眠っている。
「ということで、少々物足りなかったかもしれないけど。
いつも通りキーファへのダンジョンポイントと、ちゃんねる登録をよろしく!!」
<物足りないどころか胸焼けしたわwww>
<無垢な表情でおにいちゃんの肩を借りて寝るカナ……推せるっ!!>
<そういや、キーファたんは大丈夫なの?>
「おう、すっかり良くなったぜ。
念のため、日本に帰ったら精密検査してもらうけどな」
<よかった!!>
<なんかいろいろ言われてるけど、おれたちはキーファたんとドラおじを応援するからな!>
「頼むぜ!!」
頼りになるフォロワーたちに、投げ銭をしておく。
この日倒したモンスターの数は1178体。
手に入れた大量の魔石を換金し、莫大な人工物ダンジョンポイントを手に入れた俺たちは、ステータスを強化するのだった。
「え? いつの間にこんなにダンジョンポイントを?
ええっ、攻撃力と防御力を+500ですかっ!?」
冷静になったカナが慌てたのは言うまでもない。




