第55話
「キーファ、本当に無事でよかった」
「あうう、ぱぱ……無茶してごめんなさい」
本島に戻り、念のためリモートで主治医である治次郎さんに診てもらった。
現状は落ち着いている、という事で帰国後の精密検査を約束し、俺たちはコテージへと戻ってきていた。
ぎゅっ
今日はもう、キーファを抱く手を離す気にならない。
「キーファ、お尻ぺんぺんとおやつ抜きはがまんするから……」
「…………」
カナやスノウデルさんから状況を聞いたが、キーファが神狼に変身してくれなければ、俺たちは全滅し、本島に大きな被害が出ていたかもしれない。
「まったく、今回だけだぞ?」
「あうあう」
俺はキーファのほっぺをムニムニだけすると、もふもふの頭をわしゃわしゃと撫でる。
「俺たちを助けてくれて、ありがとうな」
「えへへ」
ふにゃり、と笑顔になるキーファ。
この輝きが喪われなくて、本当に良かった……!
「わたしも本当に心配したんだから。
ありがとう、キーファちゃん」
「カナおねえちゃん!」
ぎゅっ
カナも俺たちに抱きついてくる。
「えへへ、あったか~い。
今日は、三人で一緒に寝たいなぁ」
甘えんぼのキーファが顔をだす。
「仕方ないな。
……カナもいいか?」
「う、うんっ!」
(ひょ、ひょえええええええええええっ!?)
(でもでも、いまのケントおにいちゃんはきっとパパモードなんだろうなあああああああああっ!!)
カナの了承も貰ったので、俺はキーファを抱いたままリビングに向かう。
「結局、UGランクダンジョンはどうなったんだっけ?」
テレビの電源を入れてみる。
『本日午前に発生した大規模なダンジョンブレイクは、収束の方向に向かっています。世界ダンジョン協会の指示で、UGランクダンジョンは一時封鎖され……』
「……なあ、ダンジョンは”一時封鎖”なのか?」
あれだけ大騒ぎになったのだ。
永久に封鎖されるか、破壊されてもおかしくないと思ったのだが。
「だ、ダンジョンの規模が大きすぎて破壊は難しいみたいですけど」
なぜか頬を赤らめたカナが解説してくれる。
「噂では、スポンサーが永久封鎖に反対したらしいですね」
「……なるほど」
最近あらためて実感しているが、上位モンスターの魔石は莫大なお金になる。
(イフなんとかの魔石が数億円になったしな!!)
スポンサーを務めていたダンジョン関連企業が待ったをかけたという所か。
エルダードラゴンの魔石はキーファがスーパービームで吹き飛ばしてしまったけど。
そんなことよりも。
『探索隊にも、街にも被害はなかったのですが……』
アナウンサーが話題を変える。
『驚きなのは、ダンジョン内で撮影されたGod Walf(神狼)!!
探索隊に参加していたDora-OjiことKento Ohyaの娘だそうですが。
彼女はたいへん珍しいワーウルフ族で……その神々しい姿と恐るべき力に、世界が驚きました』
「……キーファ、ゆうめいじん?」
「そうだな」
戦いのさなか、一時的にネット接続が回復し、配信モードにしていたカナのスマホがキーファの戦いの様子を記録していたらしい。
配信動画は数千万回以上再生され、キーファに投げられた数万ポイントのダンジョンポイントは大変助かったのだが……。
「結構否定的な記事もありますね」
「むむっ」
世界中のマスコミから取材依頼が殺到しているのはもちろんだが(そちらは桜下さんが対応してくれている)、あまりにキーファが強大な力を示したからか、恐れや懸念を示す論調のニュースも目に付く。
「ダンジョンを敵視するカルト集団もいるみたいだからな……。
だから、万一の場合に備えて!」
「ほえ?」
俺はキーファを抱いたまま立ち上がる。
「キーファを守るため、もっと強くならなきゃな!!」
もう二度と、キーファに無茶な変身はさせねぇ!!
「カナ! 帰国までの時間、修行に付き合ってくれ!!」
「!?!?」
「……申し訳ないが、キーファはお留守番頼むぞ?」
「うんっ!」
回復したとはいえ、ここは異国の地。
主治医である治次郎さんはいないのだ。
無理をさせるわけにはいかない……それを理解しているのか、素直に頷くキーファ。
(ふおおおおおおおおおおおっ!?)
(つつつつ、つまり!! ケントおにいちゃんとふたりっきりのダンジョン♡課外授業♡♡!!)
俺の意図を汲み取ってくれたのか、頬を紅潮させ気合を入れるカナ。
「という事で、今日は早めに寝るか!!」
「わ~い!!」
「え、いきなりですか!?」
そのままの勢いで、ベッドに飛び込む俺たちなのだった。
*** ***
「ぱぱ、カナおねえちゃん、いってらっしゃ~い!!」
翌朝、”修行”に向かうふたりを見送るキーファ。
「おう! お土産期待しとけ!!」
(おおおお、お土産!? キーファちゃんの妹か弟を作るぞとかそんな感じ!?!?)
(ぶはっ、は、鼻血が……!)
「……カナおねえちゃん、絶対勘違いしてる」
ぱぱの天然と、おねえちゃんの妄想のお陰でなかなか進展しない二人にやきもきするが、もうカナは家族みたいなものだ。
まあいっかと思い直したキーファは、リビングでゲームでもしようとコテージの中に戻る。
「そーだ、体調確認しとかないと」
万一、発作の影響でライフポイントが減っていたら大変である。
自分のステータスを開くキーファ。
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氏名:大屋 キーファ
年齢:8歳
種族:ワーウルフ
HP:250/250
MP:30/30
攻撃力:100
物理防御力:250
魔法防御力:220
魔力:20
必殺率:30
LP:512日(+2)
LV1格闘
LV1射撃
LV1魔法(テンションアップ、防御力強化)
レアスキル(にこにこキーファ)
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「……あれれ?」
ライフポイントが増えている。
昨日の夜は”ちゃーじ”してないし、ぱぱが何かしてくれたのだろうか?
だけど、起きてからの行動に思い当るものはない。
「むむぅ?」
まあ、減っていないなら大丈夫かなぁ。
些細な違和感は、ゲームに夢中になっているうちに消えてしまうのだった。




