第54話 敵サイド
「な、なんてことだ……!」
UGランクダンジョンで発生した、大規模ダンジョンブレイク。
中層にいたスノウデルら上位探索者や、イレギュラーや義娘もモンスターの波に飲まれた。
ダンジョン協会の公式配信は切断され、レニィとの連絡も繋がらない。
「オ、オレはなぜあんなことを?」
義娘に誕生日プレゼントとして渡した首飾りにはとあるギミックが仕込まれていた。
ダンジョンの成長を刺激する人工的な魔石が織り込んであり、一定の確率でダンジョンブレイクを誘発することができる。
いまだ研究中の技術なのだが、これほどまでに大規模なダンジョンブレイクを発生させてしまうとは。
「これでは、オレの計画が……!」
UGランクダンジョンの優先探索権を契約し、ゆくゆくは手に入れた魔石の売却益でUGランクダンジョンそのものを手に入れる。
そうして、仕上げとして義娘もしくはイレギュラーであるケントをダンジョンに喰わせれば……世界の魔石文明を支配できるランクの素材を入手できるはずだった。
「くっ」
だが、これほどの大事故が発生してしまえば……!
世界ダンジョン協会は危険なダンジョンの廃棄を提言するだろうし、不自然に発生したダンジョンブレイクの調査をするだろう。
協会には優秀な魔法使いもいる。自分が仕掛けたギミックのことがバレるかもしれない!
「くそっ!! イレギュラーだ、アイツが何とかすればいいのだ!!」
大屋ケントの力なら、ダンジョンブレイクを収めることができるかもしれない。
「だが、望みは薄いな……」
レニィから送られてきた最後の情報には、エルダードラゴンをはじめとした超高ランクのモンスターの出現が記録されていた。
いくらトージやスノウデルもいるとはいっても、生還できる可能性は低い。
「……終わった」
どさり
倒れ込むように椅子にもたれかかるジル。
どうやって協会の追及をかわせばいいのか……必死に頭を絞るが、いい案は浮かんでこない。
ぴろん!
「……ん?」
その時、開きっぱなしになっていたジルのノートPCから、メールの着信音が響く。
「なんだ?」
ポップアップしたウィンドウに見えた『緋城ジル殿、貴殿を救う準備がある』という表題。
「はぁ?」
こんな時にスパムメールか。
しかもわざわざ名前を入れて送ってくるところが気持ち悪い。
さっさと消してしまおう。
いら立ちのままに、メールを削除しようとするジルだが、送信元アドレスを見て手が止まった。
「このアドレスは……?」
ダンジョンの存在を危険視し、全てのダンジョンを破壊しろと訴える反ダンジョンのカルト集団。
”始祖”と敵対する亜人族が総帥であり、国内にダンジョン資源の少ない某国から資金提供を受けているという噂だが……。
「なんでそんな所からオレにメールが?」
自分はダンジョン利用を推進するダンジョン関連企業の経営者だ。
コイツらから見ると敵というべき存在だが……。
「どう見てもヤバいだろう、これは」
先日もダンジョン企業に対するテロ未遂行為で世間を騒がせたばかりだ。
このタイミングで自分にコンタクトを取ってくるなんて、ロクな用事とは思えない……。
「だ、だが……」
このままでは自分を待っているのは破滅だ。
ならば、藁に縋ってみるのもありなんじゃないか……。
冷静さを欠いたジルは、導かれるようにメールを開き……。
「これは!!」
もたらされた、福音とも言える提案に思わず椅子から立ち上がるジルなのだった。




