第52話
ドガッ!
「ぐはっ!?」
エルダードラゴンの一撃をくらい、壁に叩きつけられる”ぱぱ”。
気絶してしまったのか、地面に倒れ込んだまま動かない。
(!!)
その光景を見た瞬間、キーファの中で何かが弾けた。
(ぱぱを、いじめるなぁああああああああっ!!)
ウオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
びりびりと洞窟全体を震わせる、神狼の遠吠え。
「ひ、ひえっ!?」
「Unbelievable……」
あまりの迫力に、思わず後ずさるカナとタリア。
ケントに追撃をしようと、顎を開くエルダードラゴンB。
もちろん、それを許すキーファではない。
ウオオオオンッ
だんっ
百メートル近い距離を一気に跳躍すると、エルダードラゴンBの首に噛みつく。
ガシュッ!
ギャオオオオオンッ!?
飛び散る鮮血、悲鳴を上げるエルダードラゴンB。
ヴオンッ!!
ケントを守るように立ちはだかり、次の攻撃に移るキーファ。
がぱっ
キイイインッ
エルダードラゴンBに向けて開いた口の前に、膨大なエネルギーが収束する。
ヴィッ--ドオオオオオオンッ!!
放たれた光線は、エルダードラゴンBの肩から腹にかけてを貫き、地面に大きな穴を穿つ。
グオオオオオオオオンッ!?
悲鳴を上げ、苦痛にのたうつエルダードラゴンB。
形成は、一気に逆転していた。
*** ***
「す、凄い……」
目の前で繰り広げられる光景が信じられない。
まるっきり、怪獣大戦争である。
「ケントおにいちゃん!」
キーファがエルダードラゴンBをブッ飛ばしてくれたおかげで、ケントを助けに行く時間ができた。
一気にケントの元まで走り寄ると、肩に担ぎ上げタリアのいる場所まで運ぶ。
「ヒールLV2!」
「ヒールLV1!」
タリアも回復魔法を使えるらしく、二人で同時に魔法をかける。
ケントのHPはぎりぎり尽きていなかったようで、順調に回復していく。
(でも、背中の傷がヒドイ……安静にしておかないと)
念のためLV7ハイポーションを練り込み、衛生用パッチで傷口を覆う。
「キーファちゃん! ケントおにいちゃんは大丈夫だから!!」
よほどの衝撃だったのか、まだ目を覚まさないケントだが……これでまず大丈夫だろう。
キーファを安心させてやろうと叫ぶカナ。
ウオオオオオオオオオオンッ!!
カナの声に応えるように遠吠えが返される。
(凄い!!)
キーファはエルダードラゴンを圧倒している。
ぴっ
その時、腰に下げたスマホのネット接続が回復し、カメラモードにしたままのスマホからカナ公式ちゃんねるにダンジョン内の光景が映された。
*** ***
<お、カナの配信繋がった!>
<なんかむっちゃモンスターが出現したところで協会の配信切れたけど、何が起きたんだ?>
<この画角は……え、カナがドラおじ抱いてる!?>
<なにっ!? ついに進展!?>
<いやいや、ダンジョン内だぞ……ねーだろ?>
<ん? ドラおじ気を失ってんのか?>
ざわつくコメント欄。
その時、カナが体勢を変えたのかカメラの角度が変わる。
<……は?>
映し出されたのは、エルダードラゴンを圧倒する白銀の神狼。
ウオオオオオオオオンッ!
開かれた神狼の顎が、真っ白に光輝く。
手負いのエルダードラゴンBに飛び掛かり、その首に思いっきり噛みつく。
ガブリ……ドシュッ!!
直径5メートルはあるだろう、エルダードラゴンの首がひとくちで切断される。
<はあああああああああああ!?>
<あ、あれってエルダードラゴンだよな……い、一撃で?>
<と、というかあの銀色の狼なんだよ!! あんなモンスター、見たことないぞ!!>
<多分だけど、あれってワーウルフが変身した姿じゃね?>
<え? それじゃあれってキーファたんなの?>
<ウソだろ……あんなに強いのかよ>
<もしかして、傷ついたパパを助けるために……?>
<感動するんだが!!>
<いやでも、強すぎてちょっと怖くね?>
エルダードラゴンを圧倒している神狼がいる、その口コミはダンジョン協会の公式配信を見ていた人だけでなく、全世界に広まっていき……。
カナ公式ちゃんねるの視聴者はとてつもない数字になっていた。
だが、キーファの戦いに釘付けのカナは気付かない。
(こ、これは……どうにかなっちゃうんじゃ?)
恐らくだが、今回の大規模ダンジョンブレイクの原因はあのエルダードラゴンだろう。
キーファが残りのエルダードラゴンAを倒してくれれば、ダンジョンブレイクは収まる!!
「がんばれ……キーファちゃん!!」
カナが見つめる先で、キーファはエルダードラゴンAを追い詰めていく。
ガ、ガルルルルル
後ずさるエルダードラゴンA。
明らかにヤツはキーファを恐れている。
がばっ
止めとばかりに顎を開き、膨大なエネルギーを収束させるキーファ。
ギャウッ……ギャウウウウウンッ!
ついに背を向けて逃げ出すエルダードラゴンA。
ウオオオオオオオオオオオオンッ!!
だが、パパを傷つけられ怒り狂うキーファが逃亡を許すはずがない。
ヴィイイイイイイイイッ!!
ドッガアアアアアアアアンッ!!
この日最大の光線がエルダードラゴンAを直撃し、巨大な爆発を引き起こす。
「きゃああああっ!?」
「うわわわわっ!?」
大きく揺れるダンジョンに、その場に立っていられない。
ぶつっ
強力な光線は、ダンジョン内に設置された中継機器を根こそぎ破壊してしまったのか、スマホの回線がまた切れる。
「か、勝った……の?」
そのことに気付かず、カナは呆然と呟くのだった。




