第51話
「キーファちゃん、なにを!?」
すたすたとエルダードラゴンに向かって歩いていくキーファ。
「危ないよ! ここはケントおにいちゃんに任せよう!
ネットさえ繋がれば、ダンジョンポイントが手に入るんだから!」
キーファは8歳にして相当な強さを持っている。
だが、エルダードラゴンの前では何の役にも立たない。
AAランクである自分すら誤差レベルなのだ。
慌ててキーファを止めようとするカナ。
「キーファはわーうるふ。
カナおねえちゃん、知ってる?」
「!!」
振り返ったキーファの双眸が、ギラリと強い光を放つ。
「わーうるふは、狼さんに変身することで……すっごく強くなれるの」
キーファの可愛い声が少し低くなる。
ぞくり。
彼女から放たれる”力”に、思わず鳥肌が立つ。
「変身すると、すっごくすっごく《《疲れちゃう》》から、ぱぱには絶対ダメって言われてるけど……このままじゃみんなやられちゃうよね」
ブワッ!!
キーファの尻尾と狼耳が、一斉に逆立ち膨張していく。
「そんなの、絶対ダメ!
大丈夫……キーファがみんなを守る!」
がるるる……
「あ、ああああ……!?」
小さな体躯は、白銀の毛並みを持つ美しい狼へと変わっていく。
「God Wolf(神狼)……?」
ウオオオオオオオオオオンッ!
辺りを圧する遠吠え。
畏れすら含んだタリアの声が、カナの耳に届いた。
*** ***
「くっ!?」
どがっ!
エルダードラゴンAの前足の一撃を、ダンジョンポイントパンチではじく。
今のカウンターで指の1~2本は折れたはずだが、エルダードラゴンは怯んだ様子を見せない。
このままではじり貧だ。
一撃で、大きなダメージを与える必要がある。
ダンジョンポイントはまだか……!
伸びきったエルダードラゴンの前足を踏み台として、空中に飛び上がる。
その隙にキーファたちの様子を確認しようとして……。
「なあっ!?」
俺は、信じられない光景を見た。
神々しい光を放つ、白銀の神狼。
「な、なんてことを!」
数年前の出来事を思い出す。
ようやくダンジョン探索にも慣れたころ……どうしてもダンジョンが見たい!
とせがむキーファを、ダンジョンに連れて行ってやった時だ。
そこそこ強いモンスターが出現し、油断していた俺はちょっとだけ怪我をしてしまった。
『ぱぱを、いじめるなぁ~!』
怒ったキーファが、狼に変身したのだ。
ワーウルフは、狼形態に変身することでステータスが十数倍の強さに跳ね上がる。
その分体力の消耗も激しいので、本当に奥の手だ。
だが、キーファが変身した狼は神狼と呼ぶべき特別な強さで……しかも重いマナ欠乏症に掛かっているキーファは、変身により大きくLPを消耗してしまった。
当時2500日分以上残っていたライフポイントは半分近くに激減し……慌てた俺は、変身絶対禁止をキーファに言い聞かせてきたのだ。
「キーファ、待つんだ!!」
現在のLPは1500日ちょい。
大きくなり、強くなったキーファの変身は数年前より体に与える影響が大きいに違いない。
一気にLPを消耗してしまう危険がある。
「大丈夫だキーファ!
パパ、こんな金ぴかドラゴンなんてすぐに……!」
何とか変身を止めようと、キーファに向かって叫ぶ。
だがエルダードラゴンは二体いるのだ。
それが、致命的な隙になってしまった。
グオオオオオオオンッ!!
「!! しまっ!?」
背後から飛び掛かってきたエルダードラゴンBの丸太のような腕の一撃が、俺の背中に命中する。
ザシュッ!!
「ぐはっ!?」
なすすべもなく吹き飛ばされた俺は、壁に叩きつけられ意識を失った。




