第50話
「ちっ!
タリア、キーファを頼む」
「ラジャ!」
キーファをタリアに託し、後方に下がらせる。
キーファの実力では、このダンジョンのモンスター相手は危険だ。
ぼこん!
グルルルルルル……
ダンジョンの床に穴が開き、おびただしい数のモンスターが出現する。
トロール、飛びドラゴン、ガーゴイル……プレーンドラゴンまでいる。
「ケントおにいちゃん……こ、この数は!」
「大丈夫、俺とお前のコンビネーションを見せてやろうぜ!!」
一瞬驚いたが、全て戦ったことのあるモンスターだ。
俺とカナが力を合わせれば、難しい相手じゃない。
カナの頭を優しく撫でてやる。
ぽんぽん
(ひょおおおおおっ!? つまり愛の交換、だね!!)
「ぱぱ、カナおねえちゃん!! がんばって!!
わおわお~~~ん♡」
テンションアップと”にこにこキーファ”が掛けられる。
「いくぞ!」
「はいっ!!」
絶好調になった俺たちは、モンスターの群れに向けて飛び込んだ。
*** ***
「はあああっ!」
どんっ!
惜しげなくダンジョンポイントを込めた右ストレートが、プレーンドラゴンを粉々に吹き飛ばす。
「Kana! うえっ!」
どがっ
「ナイスですタリアちゃん!
神速円斬!」
ザンッ!
タリアのブーメランが直撃し、体勢を崩した飛びドラゴンの首を日本刀の一閃が切り落とす。
「次は、俺だっ!」
墜ちてくる飛びドラゴンの向こうに、トロールの群れ。
人差し指と中指に、100ポイントほどのダンジョンポイントを込めるとデコピンの要領で解き放つ。
ヴィンッ!
テニスボースほどの光の玉は、トロールの群れに向かって突き進み……。
ズッドオオオオオオンッ!
10体ほどのトロールを粉々に吹き飛ばした。
「……へ?
い、いまの何ですかケントおにいちゃん!?」
「ふふ、ケントキャノン(仮)は消費ポイントが大きすぎるからな!
エネルギーの収束率を高めて、ボール状にして放ったわけよ」
「な、なんかすごい事をしたってのだけは分かります」
「ほら、なんちゃら白書のアレだよアレ!」
「????」
……しまった、ジェネレーションギャップである。
(とはいえ……)
キーファのレアスキルのお陰で疲労は全然ないが、ダンジョンポイントが心もとない。
もともと、壁を破壊する為に5000ポイントも使ってしまったのだ。
残りは370ポイント。
あとどのくらいモンスターが出現するかは知らないが、1000体です! とかだとさすがに困る。
カナの魔法に頼るにしても、MPは有限だし、持ってきた回復アイテムにも限りがある。
「仕方ない……」
天然物のダンジョンポイントはなるべく温存したかったが、フォロワーたちにダンジョンポイントを投げてもらうようにお願いするか。
中層フロアで異常が発生した時点で、公式配信は中止された。
俺はフォロワーに呼びかけようとキーファちゃんねるに接続する。
ドガアアッ!!
次の瞬間、ダンジョンの壁が近くにいたモンスターの群れごと吹き飛ばされた。
グルルルルルル!!
壁に開いた穴から飛び出して来たのは……黄金の皮膚を持つ二体のドラゴン。
「う、うそ……エルダー、ドラゴン?」
掠れたカナの声が、やけにはっきりと耳に届いた。
*** ***
「あれって……スゲー強いドラゴンだよな?」
さすがに俺でも知っている。
確認されている中で、最上位のドラゴン種だ。
「う、うん。
ダンジョン探索の歴史の中で……確認されたのは僅かに5回しかなくて。
しかも、複数同時に出現するのは」
「初めて、か?」
「そ、そうなんです」
カナの両脚ががくがくと震えている。
AAランク探索者のカナが、ここまで怖がるとは……。
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エルダードラゴン
HP:6700/6700
MP:1200/1200
攻撃力:3200
……
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カナのスマホに表示されているステータスがちらりと見えた。
「キーファ! フォロワーたちに、ダンジョンポイントを投げてもらえるようお願いしてくれ!
それまで俺が時間を稼ぐ!」
「う、うんっ!」
「あっ、ケントおにいちゃん!」
エルダードラゴンは既にこちらに向かってきており、スマホを操作する時間はなさそうだ。
俺はキーファに指示を飛ばし、エルダードラゴンに向かって走り出す。
「おらあっ!」
さすがにプレーンドラゴンのように一撃とはいかないだろう。
牽制の意味を込め、30ポイントを込めたダンジョンポイントパンチを放つ。
バギンッ!!
やけに固い手ごたえと共に、エルダードラゴンAの腹がわずかに凹む。
「くっ……あまり効いてないか?」
グオオオオオオンッ!
それでも痛かったのか、真っ赤な顎を開き炎を吐き出すエルダードラゴンA。
「おっと!」
俺は余裕を持って炎の奔流をかわしたのだが……。
バチインッ!!
「ぐっ!?」
ジャンプした瞬間、エルダードラゴンBの尻尾の一撃がしたたかに俺の背中を打つ。
ダンッ!
何とか受け身を取るものの、壁に叩きつけられた俺はそれなりのダメージを受けてしまう。
「ぱぱ!」
「ケントおにいちゃん!!」
「大丈夫だ!!」
キーファとカナに手を上げて答えながら、自分のステータスを確認する。
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氏名:大屋 ケント
年齢:27歳
種族:人間
HP:3700/4500
MP:0/0
攻撃力:1620
……
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「ちっ!」
現在の残りダンジョンポイントは340。
全回復したら、100ポイント以上消費してしまう。
ダンジョンポイントが投げられるまで、時間を稼ぐしかない!
「こっちだ!!」
俺はエルダードラゴンの気を引くため、キーファたちと反対方向に走るのだった。
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「そ、そんな……」
すさまじい威力を込めていたはずの、ケントのダンジョンポイントパンチ。
だが、エルダードラゴンのHPは300しか削れていない。
S4ランク以上と呼ばれる超上位モンスターの強さに、ただ恐怖するカナ。
このままでは……。
「キーファちゃん、どう?」
頼みはフォロワーからのダンジョンポイントの補充だが……。
「あう、ダメ……ネットに繋がらないよぉ」
「うそ!?」
カナも試してみたが同様だ。
濃過ぎるマナが影響しているのか、ネットへの接続が不安定だ。
もしかしたら、先行部隊が設置してくれた通信設備がモンスターに破壊されたのかもしれない。
「ど、どうしよう……」
このままではケントのダンジョンポイントが尽きてしまう。
そうなれば、エルダードラゴンを止められるものは誰もいない。
わたしも、キーファちゃんも……本島の人たちも。
「……カナおねえちゃん、タリアおねえちゃん。
少し離れててくれるかな?」
その時、いつになく真面目な表情をしたキーファがカナの前に出る。
「キーファちゃん?」
青い大きな瞳は、何かを決意したように力強い光を放っていた。




