第49話
『中層では、B+ランク~Sランクのモンスターが次々に出現しています。
回収される素材もSレア以上ばかり……まさに金鉱脈かと』
「くく、素晴らしいじゃないか!」
世界ダンジョン協会の公式配信と、レニィから送られてくるUGランクダンジョンの測定結果を眺めるジル。
(勝負に出た甲斐があったな……)
発見当初は、あまりに高ランクのダンジョンであること、観光地に近いことから封印してはという話も出ていたと聞く。
スノウデルら現役探索者の要望で調査が決まったそうだが、探索費用が不足しており……緋城グループをスポンサーとしてねじ込むことができた。
世界ランカーたちの派遣費用に、周囲の安全を確保するための工事費用など。緋城グループが支払った金額は数百億円を超えるが、大口スポンサーである緋城グループには調査後に優先探索権が付与される。
このくらいの出費、すぐに回収出来そうだった。
「これほどのポテンシャルを持つダンジョン……もし”アレ”をすれば」
『……ジル様?』
レニィからいぶかしげな声が掛けられる。
「……いや、何でもない」
現在UGランクダンジョンには、数十名の高ランク探索者がいる。
彼らの一人でもダンジョンに喰わせれば、どのような果実が実るのだろう。
そいつを試してみたい衝動に駆られるジル。
(いかんいかん、急いては事を仕損じる……だな)
さすがに世界ダンジョン協会が主催する公式調査で、事故が起これば大騒ぎになるだろう。
最悪の場合、ダンジョンの廃棄にまでつながるかもしれない。
(だ、だが……少しだけならば)
非合理的であることは分かっている。
だがなぜか、湧き上がる衝動を止められない。
『やってしまえ……ジルよ』
頭の中に、何者かの声が囁く。
ちりりっ
どす黒いマナが、ふわりとジルの背後に舞った。
何かに魅入られるかのように、アプリを起動する。
昏い欲望に耐え切れず、ひそかにギミックのスイッチを入れるジルなのだった。
*** ***
「ひゅああああっ!?」
突然、素っ頓狂な悲鳴を上げるカナ。
「どうしたカナ? お花摘みか?」
「違うよぱぱ! カナおねえちゃん、朝ごはんにフルーツ食べ過ぎてたから、たぶんおっきい方だよ!」
「なに!? それは一大事じゃないか!」
だが心配しないでほしい!
探索者たるもの、急なおトイレに備えて便意を抑えるアイテムを携行するのは常識である!
最悪、登山用の簡易キットが……。
「ちーがーいーまーすぅ!!」
ぶんぶんと手を振って抗議するカナ。
「キーファちゃんと同じで、濃いマナにびっくりしただけです!」
「そ、そうか……それならよかった」
(ん?)
一瞬慌ててしまったが、女の子に対してデリカシーのない発言だったかもしれない。
反省した俺だが、カナの胸元に下げられた首飾りの宝石が、僅かに光を放っているのに気づく。
あれは確か、オヤジさんから貰ったという誕生日プレゼント。
マナに反応する魔石を使っているんだろうか……そう思った瞬間。
ズドオオオオオッ
轟音と共に、ダンジョンの床が大きく揺れた。
*** ***
「何事だ!?」
「だ、ダンジョンの上層部で大規模な崩落が発生……い、いえ」
マッピングを担当していた探索者が悲鳴を上げる。
「ダンジョンが急速に拡大して!? 皆さんのアプリにも情報を転送します!」
ヴンッ
ダンジョンアプリに、UGランクダンジョンのマップが表示される。
「な、なんだこりゃ?」
「うそ、ですよね……?」
上層部を構成している長大な通路。
その両端部分がぐにゃりと曲がったと思うと何本にも枝分かれ、四方八方に伸びていく。
「ば、馬鹿な!?
この規模でまだ成長するのか!?」
信じられないとばかりに、頭を抱えるスノウデルさん。
だが、マップ解析をしていた探索者から、さらなる凶報が告げられる。
「こ、この方角は……このままではあと1時間ほどで本島の地下に到達します!」
「What!?」
驚きの余り、タリアが髪を逆立てている。
「ぱぱ、それって……!」
本島にはタリアの部族を始め、沢山の人が住んでいる。
それだけじゃなく観光客や、凛さんらスタッフの皆さんも……。
「本部に緊急連絡!!
我々も急いで脱出を……!」
ドドドドッ
次の瞬間、目の前の壁が轟音を立てて崩れる。
「な、なんだ!?」
ギンッ
土煙の中に見えたのは無数の赤い目。
グルルルルルル……
ダンジョンの異変に呼応するように、モンスターの大群が出現したのだった。
*** ***
「カナ、こっちだ!」
「はいっ!」
上層部へ続く通路を駆ける俺たち。
トロトロトロ
目の前に、数体のトロール(覚えた)が現れる。
「どけえっ!」
どがっ!
ダンジョンポイントパンチで、そのうちの一体を吹き飛ばす。
「え~いっ、てんしょんあっぷ!」
キーファの補助魔法のお陰で、調子は最高だ。
「わたしも……はあああっ!」
ザンッ
「アタシも!!」
ドガッ
カナの剣技とタリアのブーメランの連携攻撃で、残りのトロールを掃討する。
「ふぅ、これで上層部へのルートは繋がったな……スノウデルさんたちは大丈夫か?」
「あそこには世界トップの魔法使いが揃ってますから……絶対大丈夫です!」
どおおおんっ
なんかスゲェ魔法が炸裂したのか、ダンジョン全体がわずかに揺れる。
スノウデルさんたちに比べると魔法が得意でない俺たちは、その突破力を買われ上層部へと続くルートの確保を担当していた。
「うう……部族のみんな、心配」
タリアは不安そうな表情を浮かべている。
彼女には長老を務める年老いた祖父と、両親、小さな妹たちがいる。
本島には10万人ほどの人が住んでおり、短時間での避難は現実的じゃない。
「大丈夫だ、本島には待機している探索者もいるし」
「凛おねえちゃんも!」
「……そういや、桜下さんって凄い探索者だったんだよな?」
「そうですよぉ!
”桜鬼”、って呼ばれてて! 実はわたしも憧れてるんです!」
「……確かに怒ったら怖そうだもんな」
「がお~♪」
タリアを安心させるため、わざとおどけた態度をとる俺たち。
「くすっ♪」
上層にはそこまで強いモンスターは出現しなかったし、中層のモンスターはスノウデルさんたちが抑えてくれている。
「ま、ちょっとくらいのモンスターなら、俺たちがブッ飛ばしてやるさ!」
後はモンスターの掃討が完了すれば……そう考えていたのだが。
ビーッビーッビーッ!!
接続状態にしていたダンジョンアプリがけたたましい警告音を立てる。
『UGランク上層部で、大規模なダンジョンブレイク発生!
繰り返す! UGランク上層部で、大規模なダンジョンブレイク発生! マナの濃度が急上昇し……!』
「んなっ!?」
もたらされたのは、さらなる凶報だった。




