第47話
「これぐらい離れれば良いですかね?」
「あと50センチ右に……OKだ!」
「了解です!」
スノウデルさんの声に、右手を上げて答える。
「いよいよか……」
カナの誕生日から二日後、俺たちはUGランクダンジョンの本格的な探索に挑んでいた。
「ぱぱ、くれぐれも気を付けてね!」
「任せろ、おれたちが全力でケント君をガードする」
「キーファちゃんを心配させたりしないよ」
「うんっ!」
俺を遠巻きに囲む、トージさんら上位ランク探索者たち。
「それじゃ、ダンジョンポイントの解凍を始めます!」
俺はグッと両手に力を込め、ダンジョンポイントを練り始める。
その量……なんと5000ポイント!
中層への道を阻む、マナを帯びたダンジョンの壁。
そいつを誘爆させずに破壊する方法は……色々考えてこれしかなかった。
「スーパーおにいちゃんビーム!!」
「いやマジで、そのネーミングやめてくれ……」
<草>
<カナのネーミングセンスwww>
<ていうか、マジでドラおじのビームで壊すのか……>
<魔法だとマナが反応して誘爆するから、純粋なエネルギーであるダンジョンポイント攻撃で壊すんだって>
<それだけ聞くと、意味不明な字面だな笑>
ダンジョン協会の意向で、この様子は全世界に配信されている。
日本語だけでなく、沢山の言語でコメントが。
現在の視聴者数は……なんと1200万人!!
(あとでキーファにダンジョンポイント投げてもらえるよう、アピールする時間あるかな?)
それも壁の破壊を成功させてからである。
「ふうぅぅ~」
解凍し、練り終えたダンジョンポイントを両掌に集めていく。
ぱああああっ
膨大なエネルギーが、黄金の光を放つ。
さすがに俺も、5000ポイントものダンジョンポイントを一度に解凍するのは初めてだ。
暴走させないように、細心の操作が必要となる。
「よし、私たちも準備するぞ」
「「おおっ!」」
「マジックシールド!」
スノウデルさんの合図に従い、トージさんたちが防御魔法を発動させる。
ヴンッ
ヴンッ
ブンッ
俺の前に張り巡らされる、何重もの防御陣。
万一ダンジョンの壁に含まれたマナが誘爆したとしても、俺の安全を保障してくれる絶対の防御陣だ。
「はあああああああっ!」
防御の事を考えなくてよいのはありがたい。
俺はより多くのダンジョンポイントを解凍していった。
*** ***
<やべ、緊張する>
<世界ランカー総出の防御陣……スゲェな>
<エルダードラゴン10体のブレスでも破れないだろうな>
<その中心にいるドラおじwwwww>
<オレたちのドラおじが世界のセンターに!!>
「がんばって、ケントおにいちゃん!」
両手を組み、祈りをささげるカナ。
あれほどの世界ランカーが揃っているのである。
自分に出来ることはあまりない。
真剣な表情で祈りをささげるカナは、女神のように見えたとフォロワーたちはのちに語ったという。
だがその内心は……。
(ふおおおお、絶対大丈夫だと思うけど……心配だよぅ!!)
(そして、気になると言えば昨日の朝!!)
(なんとわたし、ケントおにいちゃんと一緒のベッドに寝ていたんですが!!!!)
思い出すのはおとといの夜~昨日の朝のことで。
プレゼントをもらい、いい雰囲気になった自分とケントおにいちゃん。
タリアちゃんがくれたドリンクに酔い、ケントおにいちゃんは自分の肩を抱いてくれた。
ひょおおおおおっと頭が沸騰し、一緒にソファーに座った所までは覚えている。
(いや待てカナ、流石にキーファちゃんも一緒に寝ていたから、そういう事はなかった……と思う)
(朝ごはんの席では普通だったし……なぜかキーファちゃんはジト目だったけども!)
(いやでも、ケントおにいちゃんは後片付けとかもしっかりしてるからなああああああああああああっ!?)
無事限界化していた。
ちなみにケントはお酒を飲むと、飲んだ以降のことはすっかり忘れてしまううえ、キーファと一緒に寝ると保護者モードになってしまうのだ。
「ヤバ、Kana……Kawaii!!」
そんな少女たちの内心はさておき、いよいよ準備が完了しようとしていた。
*** ***
「スノウデルさん、ダンジョンポイントの準備完了しました!
いつでも撃てます!!」
10分以上の時間をかけ、5000ものダンジョンポイントをエネルギーに変換する事に成功した。
両掌が燃え上がりそうなほどに熱い。
トージさんの冷却魔法が抑えてくれないと、火を噴いてしまうだろう。
「よし、カウントダウンだ!!」
「10、9、8……!」
カウントダウンに従い、目の前にそびえる白い壁に意識を集中させる。
全てのエネルギーをビーム状にして、いちどにぶつけるのだ。
(やっぱりこれ、漫画みたいでカッコイイよな!)
スノウデルさんらのアシストがあって初めて実現するこの攻撃に、テンションが上がってくる。
「7、6、5……」
(……まてよ)
その時ふと気づく。
……技名どうしよう。
さすがに「なんとか波」は著作権的にマズいだろう。
全世界に中継されているのだ。
「4、3、2……」
ヤバい、なにも思いつかない。
さすがにおにいちゃんビームはダサすぎる……最終的に俺が叫んだ名前は……。
「け、ケントキャノン!!」
ヴィイイイイイイイイイイイイイインッ!!
黄金色に輝くビームは、一直線に壁に向かって突き進み。
ズッドオオオオオオオオオオオオンッ!!
大音響と共に、俺たちの行く手を遮っていた壁が吹き飛ぶ。
「「おおおおおおおっ!?」」
どよめくスノウデルさんたちと沸騰するコメント欄。
<ケントキャノンwwwwwww>
<草×2000000>
その瞬間、配信サーバーが一時的に落ちたらしい。
しょうがねーだろ!
名前を思いつかなかったんだから!!
「ふむ、カナおねえちゃんのネーミングよりはましだね!」
「ええっ!?」
偉業を成し遂げたというのに、いまいち締まらない俺たちなのだった。




