第46話
「もう、驚かせるんですから!」
俺とキーファに思いっきり抱きついた後、ぷくっと頬を膨らませるカナだが、浮かぶ表情から嬉しさを隠しきれていない。
俺たちのサプライズ祝福は、大成功のようだ。
「Kana! Happy birthday!!」
「ふふ、お誕生日おめでとうございます」
「タリアちゃんに、凛さんも……本当にありがとうございます!」
「おっと、俺たちだけじゃないぜ?」
俺はプロジェクションマッピングの映像を切り替える。
表示されたのは、カナ公式ちゃんねるのコメント欄。
<カナ、お誕生日おめでとう!>
<あの小っちゃかったカナが、こんなに大きく……推せる!!>
<ドラおじとずっと仲良くね!>
<二人が組めば世界最強だよ!>
<ドラおじ+キーファたん+カナ=最強&最カワ>
「わあああ……!」
キラキラと水面に反射する祝福のコメント。
「わたし、こんなに誕生日を祝ってもらったの……孤児院以来です!!」
「ふふ、これからは毎年過去最高を更新してやるぜ!!」
「!!」
(つまりつまり、これからもずっと共に歩んでくれるという事!?)
(ひょおおおおおおおおおおおおっ!!)
これほど幸せな限界化があるだろうか。
カナは喜びに全身を震わせるのであった。
*** ***
「もぐもぐ……ケーキ美味しいねカナおねえちゃん!」
「ホントに美味しい……ケントおにいちゃんはスイーツも得意なんだよね、凄いなぁ!」
「すーぱーぱてぃしえ!!」
「わ、わたしは料理じゃなくお掃除とかで勝負しようかな……」
おにぎりとサンドウィッチくらいしか作れないカナである。
料理をアピールするのは、素手でドラゴンに挑むくらい無謀だと言えた。
「ぱぱ、おそうじもおせんたくも得意だよ?」
「ど~ん!?」
そういえば、大屋家はチリ一つ落ちていなかった。
お風呂はぴかぴかだし、常にふわふわのバスタオルが完備されていた。
ケントの家事の腕は完璧と言えるだろう。
「おぅふ」
「だいじょうぶ!」
ぐっとこぶしを握るキーファ。
「カナおねえちゃんは綺麗だし……つよいもん!
ぱぱ、カナおねえちゃんと一緒にいると楽しいって言ってたよ!」
「キーファちゃん……!!」
自分をほめてくれるキーファをぎゅっと抱きしめる。
すっかりケントと行動が似てきたカナなのであった。
*** ***
「それじゃまず、俺からの誕生日プレゼントだ!」
宴もたけなわ、カナに渡すプレゼントのお披露目が始まった。
「これは……胸当てですか?
うわ、物凄く軽い!!」
俺から受け取った胸当てを、さっそく身に着けるカナ。
彼女の冒険着である純白のセーラー服を邪魔しないよう、白を基調としたデザインに、赤い縁取りとワンポイントで入れられたカナのシルエットがチャームポイントだ。
「それにカワイイ……!」
========
氏名:緋城 カナ
年齢:18歳
種族:人間
HP:950/950
MP:550/550
攻撃力:650(装備効果+100)
物理防御力:550(装備効果+200)
魔法防御力:600(装備効果+200)
魔力:450(装備効果+100)
必殺率:45
LV2剣技
LV2魔法剣
LV2魔法
レアスキル(グランブレイド)
========
「ふへ?
つっっっよ!?!?」
自分のステータスを確認したカナが、驚きの声を上げている。
<カナも大概、人外の領域に到達していて草>
<これもう、Sランクも近いのでは?>
<……なんで胸当てで攻撃力と魔力も上がるの?>
<ドラおじ作成の装備、買ったら1億くらいするんじゃね?>
<ヤバすぎだろwwwww>
<こんないい装備を貰えて、カナは幸せ者じゃのう!!>
なし崩し的にカナの誕生日配信に突入してしまった。
フォロワーたちもカナを祝福してくれる。
「あ、あとだな……これ」
もう一つのプレゼントをカナに手渡す。
……くそ、装備じゃない普通のプレゼントはなんか恥ずかしいぞ!!
「え、これは……かわいいっ!」
綺麗にラッピングされた小箱を開けると、出てきたのは真っ白なレースのリボン。
ミスリル銀で出来ているそれは、星の光を反射してキラキラと輝く。
そしてリボンにはアクアマリンがあしらわれた髪留めが付いている。
「ふむふむ、なるほど~」
俺の意図を察したのか、長い黒髪をポニーテールでまとめ、プレゼントのリボンで留めてくれるカナ。
「へへ……どうかなケントおにいちゃん?」
俺の目の前で、クルリと一回転する。
(……うっ!!)
あらわになる、真っ白なうなじ。
赤く染まった頬に無邪気な笑顔。
「とても似合ってる。
かわいいぞ、カナ」
その言葉が、自然に口をついた。
「ひょおおおおっ!
本当にありがとう、ケントおにいちゃん!!」
ぎゅっ
右腕に抱きついてきたカナのぬくもりが、しっかりと俺の記憶に刻まれたのだった。
<ひゅーひゅー>
<にやにや>
<カナの表情可愛すぎ>
<ドラおじもなかなかだろ>
<お幸せに>
<推しのイチャイチャを眺める……これもまた一つの楽しみ方なのね!?>
<順調に染まってて草>
「次はキーファからのプレゼント!!
キーファを好きなだけモフモフしていい権~!!」
ど~ん!
くまさんなりきりセットを身に着け、もふもふお鼻に尻尾増量ウィッグを付けたキーファが登場する。
「ぐはっ!?
天使が舞い降りた!!」
むぎゅっ
「し、幸せ……!」
抱きついてきたキーファを思う存分モフモフするカナ。
ふふ、この愛らしさに耐えられる生物はこの世にいないだろう。
「ツギはタリアから!
島に伝わる伝統の飲み物!
二人で乾杯すれば、ズッとhappyをもたらしてくれるよ!!」
タリアが持ってきてくれたのは、グラスに入ったオレンジ色のドリンク。
マンゴーのようなフルーティな香りが、辺りに漂う。
「ホラ、Kento、Kana!」
タリアからグラスを受け取る。
「おう、それじゃカナの誕生日に」
「ケントおにいちゃんに感謝を込めて」
「「かんぱい!!」」
きんっ
涼やかな音と共に、グラスを一気に煽る。
芳醇な香りと、僅かな刺激が喉を通っていく。
これは、少しアルコールが入っているのかな?
「La~LaLaLaLa~♪」
タリアが島に伝わるという祝福の歌を歌う。
心地よいその歌声を聞きながら、俺はそっとカナの肩を抱く。
「えへへ」
にっこりと笑ったカナの笑顔が、瞳の奥に焼き付いた。
*** ***
「ぷぅ~、ここまでお膳立てしたのに~」
「にゃは! KentoとKanaらしいね~」
ビーチにおかれたソファーで、気持ちよさそうに寝ているケントとカナ。
タリアが持ってきたドリンクにはわずかにアルコールが入っていたらしく、おかわりをしまくった二人は酔いつぶれてこの通りである。
「アルコールはちょっとしか入ってないはずだけど……ニホンジンはお酒に弱いね♪」
「さすがに弱すぎだよぉ」
二人は爆睡していて、ゆすっても起きてくれないのだ。
せっかく寝室にダブルベッドを置いたのに。
お香も焚いたのに!
キーファ渾身のお膳立ては、不発に終わりそうだった。
「う~、それならキーファ二人の間に挟まって寝るもん!」
「それじゃ、二人をベッドに運ぼうか!」
「は~い」
ひょいっとケントを抱き上げるタリアと、カナを抱き上げるキーファ。
わーうるふさんは力持ちなのだ。
「……んん?」
その時カナの胸元で、首飾りに付けられた赤い宝石がきらりと光りを放った。
(!?!?)
その光を見た瞬間、ぞわりとした悪寒がキーファの全身を襲う。
「?? どうしたのKeyfa?」
「……なんでもない、早く行こう!」
悪寒は収まり、一瞬後には何も感じなくなっていた。
海から吹き込む涼風のせいだろう……そう思ったキーファは、タリアの後について寝室に向かうのだった。




