第45話
「はい……はい、調査は順調です。
明後日、ケントおに……ケントさんのスキルで中層への突破を試みることになりました」
本島のレストランでの昼食後、マネージャーであるレニィと合流したカナは探索の進捗状況を義父であるジルに報告していた。
「緋城カナが只今報告したように、探査のキーマンは大屋ケントと彼の娘になると思われます」
『ふ、やはりな』
「また、現地部族の娘も興味深い存在であり……」
『”収穫”の方はどうだ?』
「はい、いまだ上層のため特異な素材を持つモンスターは出現しておりませんが、ダンジョンの壁に微量なマナが含まれており、資材として有望かと」
『ほう!』
自分の経過報告後は、レニィとビジネスの話に終始するジル。
(……今日が、誕生日なんだけどな)
ジルに義娘として引き取られてから5年近く……大人として認められる記念すべき18歳の誕生日なのに。
『詳細は随時報告するように。
……おおそうだ』
「!!」
話を終えようとしたジルが、何かを思い出したかのように立ち上がる。
『アレの件は随時指示をする』
「承知しました」
ヴンッ
(なんだ……)
一瞬期待したが、仕事の話だったようでカナの方を一瞥もすることなく、ジルはWeb会議を切ってしまった。
「定時報告はこれで終了します。
明後日の本調査まで自由行動としますが、くれぐれも羽目を外し過ぎないように。
緋城カナのイメージを崩してはいけません」
「…………」
レニィは言いたい事だけ言うと、部屋の外に出てしまった。
「はあぁぁ……」
誕生日だというのに、思わずため息をついてしまう。
プレゼントをくれたから期待してしまった。
義父からの『誕生日おめでとう』という言葉を。
「……早くケントおにいちゃん達と合流しよ」
ただでさえ、定時報告のせいで朝食前から別行動だったのだ。
今はただ、無性にケントおにいちゃんに逢いたかった。
*** ***
――――― 同時刻 ケントたちのコテージ
「ぱぱ! たーげっとKが動き出したよ!」
「よし! フォーメーションB、フェーズ2!!」
「らじゃ~!!」
トランシーバーを持ち、ぴゅーと駆け出すキーファ。
カナの行動はすべて把握している。
なにしろカナより早起きして、彼女の私服に発信機を取り付けたからな!!
「……何をしてるんですか」
ノリノリな俺たちの様子に呆れ気味の桜下さん。
「Secret Birthday Partyでしょ? ワクワク!!」
対照的に、目を輝かせるタリア。
そう、俺たちはカナの誕生日を祝うべく、数日前から動き始めていたのだった。
――――― 島に到着した翌日、早朝
「ふぅ……何とか間に合ったか」
俺の目の前には、貨物船から陸揚げされた巨大なコンテナが置かれている。
「ぱぱ、なにが入っているの?」
キーファも興味津々だ。
「これはな……”カナおねえちゃんのバースディスーパー祝福ウキウキキット”だ!!」
「すーぱーしゅくふくうきうききっと!?」
ばばっ!
コンテナを開け、保護シートを取っ払う。
そこにあったのは数十機のドローンと、でっかい映像装置。
「最新のホログラム発生装置と、プロジェクションマッピング用のドローンだ!」
「ふおおおおおおおっ、つまり!?」
「俺たちの泊まっているコテージを、カナおねえちゃん誕生日仕様に作り変えてやるぜ!!」
「すっごい!!」
「さらにさらに!!」
機材の横に置かれた、小さめのコンテナの蓋を開ける。
出てきたのはくまさんの着ぐるみをはじめとした可愛いもふもふ衣装。
「キーファがこれを着ることで、お姉ちゃんを究極癒してあげるのだ!!」
「やったぁ!!」
「さらにさらにさらに!!」
「カナの防御力を大幅に向上させ、魔力も上げてくれる俺特製の胸当て(抹茶ドラゴンとイカキングの素材をふんだんに使った非売品)と!
……桜下さんにアドバイスしてもらった、カナに似合う髪飾りをプレゼントで用意したぜっ!!」
「うおおおおおおっ」
「装備で感動させた上に、まっとうな女子向けプレゼントのギャップもえでカナおねえちゃんを完ぺきにおとすんだね!
キーファ、お楽しみにそなえてベッドルームを整えとく!」
「……いつの間にそんな言葉を覚えたんだこの娘は」
むにむにむに
「あうあうあう」
おませな事を言うキーファのほっぺをムニムニする。
それはともかく……最強のバースディパーティを見せてやるぜ!!
*** ***
「……ふぅ」
他の探索者さんとのミーティングや諸々の用事を済ませていたら、いつの間にか夕方になっていた。
今日はおにいちゃん成分やキーファちゃん成分を摂取していない。
(き、禁断症状が!)
ぷるぷる震えながらコテージへの連絡船に乗ったカナだったが。
「……あれ?」
気のせいだろうか?
カナたちが滞在している小島がキラキラと光っているような。
「ふふっ」
にっこりと笑った案内係さんが、連絡船をいつもと違うコースに導いていく。
船は船着き場ではなく、コテージの立つビーチの方に進んでいって……。
「えっ?」
色とりどりの光を放つドローンが、連絡船の上を飛んでいき、夜の帳が降り始めた空に光の文字を描く。
『カナ、18歳の誕生日おめでとう!』
「っっ!!」
思わず両手で口を覆い、夜空を食い入るように見つめる。
ぱあああああっ
次の瞬間、カナの背後が明るく輝いた。
「もしかして……」
ゆっくりと振り返ったカナが見たものは……。
「カナおねえちゃん! お誕生日おめでとう!!」
「おめでとうカナ! これで大人だな!」
光輝く砂浜とコテージ。
砂浜には、プロジェクションマッピングでこれまでのカナの歩みが投影されている。
孤児院で頑張る小さな少女、ケントと収まった記念写真。
探索者を始め、ジュニアチャンピオンになった時の映像、AAランク到達の表彰式……。
それに、ケントとキーファの初コラボで満面の笑顔でピースをする自分。
「ケントおにいちゃん!! キーファちゃん!!」
ぱしゃん!
たたたたっ!
愛しい愛しい自分の居場所へ、連絡船が砂浜に接岸するのを待ちきれず、二人の元へ走るカナなのだった。




