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第44話

「どういうことだい?」


 マナが含まれた壁の素材……ソイツを昔見たことがあるというと、

 困惑の表情を浮かべるスノウデルさん。


「え、えっと……」


 なんかマズい事でも言っただろうか。

 とはいえ、スノウデルさんの追求をごまかすことは出来なさそうなので正直に告白する。


「実は……駆け出しのころ、キーファの療養も兼ねて温泉に行き、よく近くの野良ダンジョンに潜ってたんです。

 湯に混じるマナが身体に良いかな~って」


「……野良ダンジョン?」


 首をかしげるスノウデルさん。

 うーん、専門用語は難しいな。


「ほら、壁が少し柔らかくて小さめのダンジョンがあるじゃないですか。

 正規探索者の邪魔にならないように、そんなダンジョンに潜ってたんです」


「……え?」


「そういや、不思議なんですよね。

 そこそこいい素材をゲットできたのでまた訪れたら、跡形もなくなってて。

 小さすぎるからダンジョン庁が埋めたんですかね?」


「……!!」


「うそっ?」


 何気なく口にした疑問に、大きく目を見開くスノウデルさん。

 何故だかカナまで驚いている。


 ……あれ?


「ま、まさか……”グロウイングダンジョン”に潜ったのかい!?」


「ぐろーいんぐだんじょん?」


 知らない用語である。


「やっぱり……ふぅ、あのねケントおにいちゃん」


 首をかしげていると、ポンとカナの手が俺の肩に置かれる。

 どうやら詳しく説明してくれるみたいだ。


「わたしたちが普段潜っているダンジョンは”グロウド・ダンジョン”と呼ばれ、成長しきって”固定化”されたダンジョンなんです」


「ふむふむ」


 ダンジョンって成長するのか……初めて知ったぜ!!


「ダンジョンの元となるシードはたくさん地中に埋まっていて、マナと反応して成長し始めます」


「なるほど」


「”固定化”まで至るダンジョンはほんの一部なんだけど……たまにある程度大きくなって地上と繋がってしまう物があって。

 これが”グロウイングダンジョン”と呼ばれるダンジョンですね」


「ほほ~」


 実を付けたスイカが全部収穫されるわけじゃない、みたいな感じだな!


「分かりやすいね、ぱぱ!!」


「ああ、さすがカナ先生だ!!」


(カ、カナ先生!?)


 飛び級で卒業し、ケントの通う学校に赴任した”年下の”先生。

 お互い一目ぼれしてしまった二人は、夕闇迫る教室で禁断の逢瀬を……。


(って、解説解説!!)


 一瞬危険な妄想に浸りそうになったカナだが、僅かに垂れそうになった鼻血を拭いて説明を続ける。


「”グロウイングダンジョン”の中に入ることは出来ますが、ダンジョンの構造は不安定で数時間で消えてしまう事もあり、大変危険なため……原則立ち入りが禁止されています」


「……うげ」


 それはヤバい。

 も、もしかして法律違反だったのか?


「いまさら潜ったという証拠を示すのは難しいだろうから、聞かなかったことにするよ。それにしてもなるほど……”固定化”されているのに”グロウイング”の特徴を示しているダンジョンという事か、きわめて異例だな」


 手持ちノートPCに何かを打ち込み、調査に戻るスノウデルさん。

 入れ替わるように、トージさんがやって来た。


「ま、今となれば時効だが……今後は気を付けるんだぜ、ケント君?」


「はいっ!」


 トージさんの言葉に、背筋を伸ばして答える。

 よく知らなかったとはいえ、駄目なことはダメである。


「いつも30分くらいで奥まで攻略してたんで、ヤバいダンジョンって気が付きませんでした!

 マジ危ないですもんね、気を付けます!!」


「……は?」


「ふへ?」


「「な、なにいいいいいっ!?」」


 反省の言葉を述べたところ、全員に驚愕される。

 あれ、俺またマズいことを言っただろうか?



 ***  ***


「ガチ説教された……」


「ぱぱ、どんまい!」


「うう、キーファっ」


 優しい天使をぎゅっと抱きしめる。


「ホントにもう……気を付けなきゃだめですよ?」


「ごめん、カナ」


 スノウデルさんらの話では、グロウイングダンジョンは状態が不安定であり、周囲のダンジョンとかけ離れた上位モンスターが出現する事もあるらしい。

(そういえば、やけに固いモンスターが出たことがあったな!!)

 入り口付近を探索するならともかく、奥まで入るのはダンジョンの消滅に巻き込まれる危険もあって自殺行為とのことだ。


 <おお、ドラおじが殊勝だ>

 <キーファたんの為にもマジで気を付けろ笑>

 <ていうか、グロウイング状態とはいえ30分で攻略するとかヤバ過ぎね?>

 <ドラおじって昔からドラおじだったのか……>

 <マジで勉強しろwww>

 <【初めて学ぶダンジョン基礎】の購入はこちら>


「……さーせん」


 今回は謝るしかない。

 ヘタをしたらキーファを一人残すことになっていたかもしれないのだ。

【初めて学ぶダンジョン基礎】をポチる俺。


「にはは、やっぱりKentoは規格外なのだ♡」


 <ハートマークwww>

 <こんなので可愛い現地ファンをゲットするとか、ドラおじ無敵か?>


(あうあう、タリアちゃんみたいに甘えたい……でも恥ずかしいっ!!)


 じゃれ合いながら、先行チームについていく俺たち。

 世界ランカーたちのお陰で、たまに出現するモンスターは一瞬で退治され、俺たちの出番はほとんどない。


「ん? これは……」


 その時、先頭を進んでいたスノウデルさんが声を上げる。


「うお、いつの間にこんな所まで……」


 俺たち調査チームは、長大な通路の端まで来ていた。

 目の前は行き止まりであり、中層フロアに続く階段も存在しない。


 コツコツ


「ここだけ壁が薄いな」


 向かって右側の壁を、慎重に調べるスノウデルさん。


「確かに音が違いますね……”壊せる壁”っすかね」


「え、壁ってその気になれば壊せるんじゃ……」


「……それはケントおにいちゃんだけですよ?」


「そーなの? ぱぱいつもやってるよ? ばーんって」


 <この父娘はwww>

 <ナチュラルにダンジョンのルールを破壊すんな笑>

 <ツッコミが追い付かねぇ……>


(今日はもう何も言わないでおこう……)


 全力ダンジョンポイントパンチで壁を壊してショートカットしていた俺のやり方はマズかったらしい。

 協会から怒られたらヤバいので、今後は自重しよう。


 俺とフォロワーが漫才している間にも、スノウデルさんらの会話は続く。


「どうします? 魔法で壊しますか?」


「……いや、壁にマナが含まれているから、最悪誘爆の危険がある。

 ダンジョンポイントを使った破壊を試みてもいいが……我々よりも」


「なるほど」


「……お?」


 スノウデルさんらの視線がこちらを向く。


「ここは有識者の力を借りるべきだろうな」


 スノウデルさんの一言で、本日のプレ探索は終了となり……後日改めて本格的な探索を実施する事になったのだった。



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