第43話
「キーファちゃんねる~」
カメラに向かって手を振るキーファ。
「ぱぱとカナおねえちゃんと、日本だいひょうとして、UGランクダンジョンの調査にきてますっ!」
「俺の拳が火を噴くぜ!
という事で、面白かったらダンジョンポイントよろしくな!」
「わ、わたしからもよろしくお願いします!
あ、どうも……緋城カナです」
いつも通り視聴者にアピールする俺と、おずおずと一礼するカナ。
背景には絶景が映っているが、俺たちはいつも通りだ。
<平常運転すぎるだろwwwww>
<オレたちの日本代表、可愛すぎる(パパ含む)>
<ドラおじの拳はマジで火を噴くから困る>
「そして~、今日はトクベツなコラボ相手もいます!」
<おお?>
キーファのフリに、興味津々なコメント欄。
「だんじょんの案内役で、カッコいいぶーめらんを使いこなす……タリアおねえちゃん!!」
「Nice to meet you、ニッポンの皆様!!
Kento、Keyfa、Kanaの大ファンのタリア・レヌルスなのだ!」
キーファとコラボした冒険着を身に着け、腰にはキーファとカナのアクセサリ。
おまけに頬にはKento Love♡のペイントまでしてくれている。
……俺的にちょっと気恥ずかしいぞ。
「アコガレの3人とのコラボレーション……タリア、大感激!!」
ドローンカメラに向かってぴょんぴょん飛び跳ねるタリア。
<また美少女出現!>
<かわよ>
<現地の子かな?>
<【悲報】ドラおじ、またもや現地JKを引っ掛ける>
<ライバルが増えれば増えるほど、カナの気持ちは燃え上がるのじゃよ! 推せる!!>
<お、おう>
<もうツッコまねーぞ>
「これがコメント欄……アタシも書く書く!」
<タリアです!>
<KentoってCoolだよね! Keyfaたんも可愛いし……推せる!!>
<タリアちゃんもカワイイよ!>
<ドラおじとのコラボ期待!>
「ふぁ、ふぁんたすてぃっく!」
興奮して鼻血を垂らすタリア。
<かわいい>
<かわいいww>
<鼻血でてるよ>
<おれらみたいな反応のタリアちゃんかわゆす>
<配信はしてこなかったみたいだけど、この子B+ランクの探索者みたいだね>
<褐色元気っ娘すこすこ>
無邪気なタリアの様子に、フォロワーたちも好感を持ったようだ。
「ウチのフォロワーたちと仲良くしてやってくれ」
ぽんぽん
嬉しくなった俺は、タリアの頭を撫でる。
「にゃは♡」
<さりげない頭なでなでwwww>
<ドラおじwwww>
<こうして、また一人堕ちるのであった>
「??」
これでも撮影前、タリアは緊張していたからな。
緊張をほぐしてやっただけなんだが……相変わらずうちのフォロワーは俺で遊ぶぜ!
(ふおおおお、タリアちゃんの無邪気さ……これは強力なライバルなのでは!?)
(か、かくなるうえは!!)
キーファにタリア。
カメラの前では無邪気な可愛いが溢れている。
どうしても撮影中は表情が硬くなってしまう自分だが……ここらでアピールしとかないとケントおにいちゃんの好感度が!!
クールな表情の下にたまに覗く恥ずかしがり屋さんの素顔がファンたちの推しポイントなのだが、混乱したカナは全力でかわいさアピールに走る。
「タリアちゃんの得意技はブーメラン。
わたしの剣技と、ケントおにいちゃんの格闘技……魅惑のコラボを楽しんでください……んにゃっ♪」
決意を込めて繰り出したきゃるるんポーズは……。
<草>
<草>
<草>
<カナ無理すんなwww>
<恥ずかしさを我慢してる表情すこ>
「カナおねえちゃん、笑顔引きつってる」
<キーファたん、ツッコみキツイwww>
「あ、あれえええええええっ!?」
どっ!
豪快な空振りに終わるのだった。
*** ***
「なんと! これは……!」
上層フロアに入った先行チームがざわついている。
今日は本格的な探索に備えたプレ探索という事で、部族の巫女であるタリアに聖地の封印を解いてもらった俺たちは、UGランクダンジョンの上層部へ足を踏み入れていた。
「うわ、中は広いですね……!」
「だな」
カナの感想に同意する。
ダンジョンの入り口は思いのほか狭く、どうなる事かと思っていたが、長い下り階段を降りた途端一気に視界が開けた。
幅数十メートルはある部屋……というか通路が、はるか向こうまで続いている。
通路の端は霞んで見えないくらいだ。
「もしかして、隣の島までつながっているのか!?」
「馬鹿な! いちばん近い島でも10㎞は離れているぞ!?」
「海底の下に広がるダンジョンも珍しいが、この部分だけで断トツの世界記録だ!」
「へ~」
ダンジョンの規模が平均どれくらいか、良く知らない俺。
なんかすごいデカいらしい!
「あうあう」
「……ん?」
感心していると、キーファの様子が少しおかしいことに気付く。
頬を紅潮させ、もじもじ足踏みをしている。
おトイレか?
とも思ったのだが、どうやら違うようだ。
「どうした、キーファ?」
「あうっ……このダンジョン、マナが少し濃いみたい。
ムズムズするだけだから、心配しないで、ぱぱ」
「ふむ」
キーファは重いマナ欠乏症に掛かっている。
少しでもライフポイントの減少を押さえようと、日本の秘湯に”マナ浴”に行ったこともある。
(パパ調べでは、温泉の近くはマナが比較的濃いめなのだ……その分ダンジョンも良く出現する気がする)
「むしろ健康にいいかもな……気持ち悪くなったらすぐ言うんだぞ?」
「は~い」
キーファの身体は繊細だ。
マナの異変が体調に影響する可能性もあるし、気を付けておくに越した事はない。
「……彼女の言う通りだな」
ダンジョンの壁を調べていたスノウデルさんが、感心したように唸る。
「え?」
「みたまえ」
削り取ったダンジョンの壁をスノウデルさんが見せてくれる。
「コイツに魔力を込めると……」
ぱあああ……ぱしゅん!
小さな壁の欠片は、いきなり光を放つと燃え上がるように消えてしまった。
「微量なマナが含まれている証拠だ。
マナと魔力は反応するからね」
顎に手を当て、唸り声を上げるスノウデルさん。
「見たことのない素材で出来ている……これはいったい?」
「野良で潜ってた時、似たようなのを見かけたことありますよ。
確かに珍しかったですけど、温泉の近くとかで」
「……なっ!?」
「え?」
「え?」
……どうやらまた、何か常識の食い違いがあったらしい。




