第41話
ざざ~ん
ざざ~ん
真っ白な砂浜に打ち寄せる波。
透き通った海中に、色とりどりのサンゴが見える。
「うわわわ! すっごい!!」
美しい小島の中央部には、白壁のコテージが一棟。
プライベートビーチを持つこの小島が、俺たちの宿舎となる。
……ていうか、豪華すぎだろ!
大丈夫だろうか、経費とか。
思わず心配になる庶民な俺。
「……専用のアプリで呼び出していただければ、いつでも迎えの船が参ります。
コテージにはキッチンもありますので、自炊して頂くことも可能ですが、本島のレストランがおすすめです」
案内係の女性が、流暢な日本語で島内の設備を説明してくれる。
心なしか、彼女の頬が紅潮しているような?
「……そういうことか。
よかったら俺とキーファのサイン入りアクスタをどうぞ」
「!! ああああああ、ありがとうございます! 大切にします!
キーファちゃんねる、いつも見てます!!」
「おねえさん、よろしくねっ!」
「ふあっ!?」
キーファの可愛さに、よろめく案内係さん。
やはり、俺たちのファンだったようだ。
とてもありがたい事である!
(こういう時は、察しが良いケントおにいちゃん!?)
「ほら、カナもサイン書いたげて」
「はいぃ~」
何故か涙目でサインを書くカナ。
ファンサービスが苦手と言ってたような……悪い事をしたかもしれない。
「皆さまの為に、誠心誠意お世話させていただきます!!
本日の予定ですが、2時間後に来客があります。
そのほかの時間はゆっくりとお過ごしください」
「……来客?」
そういえば、桜下さんが何か言ってたような……。
「ぱぱ! 泳ごう!!」
さっそく砂浜に駆け出すキーファ。
南国とはいえ、南半球の8月は冬。
寒くはないが、7分袖でちょうどいいくらいの陽気だ。
「ちゃんと長袖の水着を着ろよ?
水に入るのは腰まで、きちんと準備運動もするんだぞ」
「は~いっ!」
コテージに併設された更衣室に突進していくキーファ。
俺はその後を追う。
(ケントおにいちゃんたちとひとつ屋根の下で10日間……)
(寝室は別とはいえ、いくらでも機会はあるはず!!)
(南十字星の下で、二人は愛の誓いを……うおおおおおおおおおおっ!?)
(は、鼻血がっ!!)
美しすぎる青空のもと、無事限界化しているカナなのだった。
*** ***
ぱちゃぱちゃ
「カナおねえちゃん、わ~い♪」
「ぷはっ、やったなぁ!」
ばしゃっ
「きゃ~♪」
水着の上からパーカーを羽織り、波打ち際でじゃれ合うキーファとカナ。
尊い光景である。
(良かった)
減る一方のライフポイント。
定期的に襲ってくる発作。
のんびりと長期間の旅行など、考える事も出来なかった。
(ふふふふっ)
ようやく実現した夢の光景に、思わず笑みが漏れてくる。
「売店で、スイカとか売ってるだろうか?」
ビーチパラソルを立て終えた俺は、次の仕掛けの為に動き出す。
スイカ割りはキーファの希望の一つ。
さすがにコテージの冷蔵庫には入ってなかったからな。
本島まで行く必要があるかもしれない。
「さっそくお楽しみですね」
「おっ」
案内係の人に聞いてみるか、腰を浮かしかけた俺に声が掛けられる。
桜下さんだ。
いつの間にか時間が経っていたらしい。
「お疲れ様です」
船着場からこちらに歩いてくる桜下さんは、パンツルックのスーツ姿だが、上半身は上着を脱いでおり頭にサングラスを乗せている。
少しだけ、リゾートモードな彼女が可愛いかもしれない。
「桜下さんはどこに泊まってるんですか?」
「私たちスタッフは本島の大型ホテルに……色々調整ごともありますし」
「俺たちだけ遊んですみません」
「ふふっ、大丈夫ですよ」
柔らかく微笑んでくれる桜下さんだが、何か手伝えることはないだろうか。
とりあえず配信機材の準備をする俺。
「凛さんこんにちは!
……うちのレニィ知りませんか?」
桜下さんの来訪に気付いたカナが、キーファを抱いてこちらに走ってくる。
「レニィ女史は……なにやらスポンサーと打ち合わせがあるらしく、どっかに行きましたよ。
滞在中は桜下プロダクションに緋城カナの管理を任せる、とだけ言い残して」
「が~ん、放置プレイ!?」
まさかの扱いに、ショックを受けるカナ。
緋城グループはこの調査案件のスポンサーとして名前を連ねている。
色々仕事があるのかもしれないが、自分とこの配信者を放置するのは少しヒドイ。
「カナ、遊びまくってレニィさんに見せつけてやろうぜ!!」
「!!
ありがとうケントおにいちゃん!!」
笑顔になったカナの頭を優しく撫でてやる。
「へへへへ……!」
「……リン、そろそろイイカ?」
青くなったり赤くなったり……カナの反応を楽しんでいると、桜下さんの背後から一人の少女が駆け出てくる。
外はねした黒髪のショートヘアー。
褐色の肌に、緑の瞳が印象的だ。
「Nice to meet you、Kento、Keyfa、Kana!
タリア、なのだ!」
そう名乗った少女は、びしりとポーズを決めたのだった。




