第40話
「すごいすごい! 海がキレイ!」
南国の風が俺たちの頬を撫でる。
直行便でオーストラリアのケアンズに到着し、港から専用船でグレートバリアリーフへ。
その中心となる大きな島に、俺たち探索者が集まることになっていた。
「!! ぱぱ、イルカさん!」
どこまでも透き通ったサンゴ礁の海。
船に付いてくるイルカの群れに、歓声を上げるキーファ。
「イルカは鳴き声で、仲間どうしのコミュニケーションを取るらしいぞ」
「ほんと!?
イルカさん、わお~ん♡」
きゅいきゅいっ♪
キーファの遠吠えに、返事をしてくれるイルカたち。
船の周りを遊ぶように泳ぐ。
「わ~い♪」
「「可愛すぎか!!」」
俺とカナの声が、綺麗にシンクロした。
<青い海にイルカとキーファたん……癒される>
<オレたちは何を見せられてるんだ?>
<キーファちゃんねるとカナのコラボ動画だろ? 期待通りじゃないか!>
<ガチの観光動画になってて草>
人類の宝になるべき光景に、フォロワーたちもメロメロだ。
良きかな良きかな。
「あそこが港か……ん?」
船はイルカたちと離れ、港の方へ向かっていく。
目を凝らせば、俺たちの船が着くであろう桟橋に黒山の人だかり。
この船には他の探索者も乗っている。
ホテルの出迎えかな、と思っていたのだが……。
*** ***
「やあ、ケント君。
待っていたよ」
人だかりの中から、ロマンスグレーの偉丈夫が歩み出る。
探索者チームのリーダーを務めるスノウデルさんだ。
「こないだぶりです、スノウデルさん。
サイン入りグッズ、ありがとうございました!」
「そんなもの、お安い御用さ」
「スノウおじさん、こんにちは!」
「こんにちは、キーファちゃん。
今日も可愛いね」
「えへへ~」
スノウデルさんに撫でられ、はにかむキーファ。
「えっ……こんな自然に談笑を?」
何故か冷や汗を垂らしているカナ。
「お返しは届きましたかね?
大したものじゃなくて恐縮ですが……」
グッズのお礼に、日本のグルメ詰め合わせを送ったのだが、よく考えたら相手は世界ランカー。
庶民すぎるお返しだったかもしれない。
「いやいや、家族で美味しく頂いたよ。
保冷剤代わりに入っていたコキュートスのコアにはびっくりしたけどね!
わっはっは!」
「ははっ、ありがとうございます」
俺の雑なお返しを、笑って喜んでくれるスノウデルさん。
やっぱ、器がでかいぜ!!
「ぶっ!?
コキュートスのコア!? え、あれ……聞き間違いかな?」
<異次元すぎる会話で草>
<ドラおじ、スノウデルだぞ? 久々に会った親戚のオジサンじゃないんだからさ……>
<え? コキュートスのコア? まえイフリートのコアをゲットしたって言ってたよな? 炎と氷のSランクモンスターを狩ってんの?>
<なんか感覚がマヒして来た……>
なぜかコメント欄が引いてるぞ?
う~ん、保冷材にちょうど良かったんだけどな。
なんか貴重な素材だったらしい。
どよどよ
俺とスノウデルさんの会話に、どよめくギャラリーたち。
よく見れば、探索者らしき服装をしている人が多く、ホテルの送迎じゃなさそうだ。
テレビカメラを持ったマスコミもいる。
「あれが”ネクスト・サウザンド”と呼ばれるドラ・オジか……」
「ぱっと見、無害そうに見えて……とんでもない力を秘めているな」
「コキュートスのコア? さすがにブラフか?」
「思ったよりも小柄ね……噂は本当か、手合わせしてみたいかも」
みんな俺の方を見て、ひそひそと会話をしている。
(ちなみに、外国語は翻訳魔法でバッチリだ! 便利な時代になったもんだぜ)
「……なあキーファ、もしかして寝癖が付いてるとか?」
「ぱぱはいつも通り、カッコいいよ!!」
「キーファ……!」
いつも俺を褒めてくれる。
感極まった俺はキーファを優しく抱きしめる。
おおおおおっ
「あれが彼の娘か」
「8歳にして、素晴らしい力を持つと聞くが」
「ああして、高め合っているのかもな」
「……えーと、なにこれ?」
どよめく探索者たちを見て、立ち尽くすカナ。
(せ、世界ランク3位のヴィーダ!?)
(あそこにいるのはジュニア探索者チャンピオンのミルシィ!!)
(レジェンドの玄武さんまで! ひょおおおおおおっ)
<バケモノの見本市じゃねーか!>
<え、この人ら、ドラおじを見に来たってこと!?>
<世界のドラおじwwwwwww>
<なのにパパはいつも通りなのな笑>
「こほん。
本格的な調査は明後日から開始される予定だ。
明日にはレセプションパーティがあるから、ぜひ参加してくれたまえ」
「ありがとうございます!」
「!! おにく食べ放題かな?」
「おう、多分A5ランクだぜ?」
「やった~♪」
係の人から宿舎のカードキーを受け取り、大喜びのキーファを抱き上げる。
「よし、カナ。
そろそろ宿に行こうぜ」
「う、うんっ」
世界ランカーの出迎えにも動じないケント。
そういうものだと達観したカナは、ケントたちの後に続くのだった。




