第39話
「は~い、みんなおはよ~!
なんとなんとキーファたち、みなみはんきゅうのリゾートに行きますっ!」
手持ちカメラに向かって両手を振るキーファ。
もふもふの銀髪をアップにし、爽やかな水色のTシャツにジャケット、パレオのついた真っ白なショートパンツ、かわいい足指が覗くサンダルとリゾート全開!モードである。
「おっとオマエラ、キーファの水着姿が見れると思うなよ?」
<キーファちゃんは可愛いけど、二人ともリゾート気分で草>
<一応日本の代表だろ? しゃきっとして笑>
「ちっ」
いつになく真面目なコメント欄に諫められてしまった。
<舌打ちすんなww>
<それはそれとして、水着姿は見たい……パパの!>
「なんでやねん!」
オーストラリアに出現したUGランク(?)ダンジョンの調査のため、招待された俺たち。
スノウデルさんは”リゾートでのバカンスタイム”って言ってたからな、どちらかというと観光案内がメインだろう!
「いやいや、ケントさん……コラボとはいえお仕事ですよ?」
真面目な事を言うカナはいつもの制服姿ではなく、薄緑色のワンピースに麦わら帽子を被り、避暑地に向かうお嬢様のようないで立ちだ。
<カナの服装もそこそこバカンスモードで草>
<つ、ついにひと夏の思い出を……推せる!!>
<最初は無理しないんやで>
<後方保護者面なカナファンやべぇ>
「ぴうっ!?」
しゅうう
フォロワーのコメントを読んで、頭から湯気を出しているカナ。
遊びがメインとはいえ、先日の模擬戦で敗北したスノウデルさんらも来るのだ。
気合を入れなおしているのだろう……さすがカナだぜ!!
「ちなみに、8月の南半球は冬だからな。
寒くはないが、出来て水遊びくらいだぞ」
「えっ!? そうなのぱぱ!!」
ビックリした表情を浮かべるキーファ。
本格的な旅行は初めてだからな、知らなくても無理はない。
キーファのマナ欠乏症の具合は、過去一番安定している。
主治医の治次郎さんのお墨付きに、万一の場合の薬まで貰って来た。
旅行を楽しませてやりたい……俺は心の底からそう願っていた。
「ということで、本格的な海水浴はお預けだ」
「あうう、でもぱぱ、プールは行けるよね」
「もちろん!!」
「やった~♪」
<こういう所で年相応なキーファたんかわゆす>
「……………(知らなかった)」
キーファの隣で立ち尽くすカナ。
右手に引いたキャリーケースの中には、渾身の勝負水着が入っているのであった。
*** ***
「…………」
「…………」
仲睦まじい3人の背後。
お互いのマネージャーである凛とレニィの間には、どす黒い緊張感(物理)が漂っていた。
「…………なんで付いてくるのよ」
「アナタたちと同じ飛行機なのだから、当然でしょう?」
当たり前と言えば当たり前である。
深夜に出発する、羽田ーケアンズ便。
エコノミークラスでいいというケントたちを説き伏せ、ビジネスクラスでの移動とした。
二人は既に相当の有名人である。
飾らないその姿勢は素敵だけど、騒ぎになるのはなるべく避けたい。
「ウチなら迷わずファーストクラスを取るのだけれど……一緒に行動したいという緋城カナのたっての希望だし。
……ケチねぇ?」
(ピキッ!)
いちいち厭味ったらしい女である。
控えめな二人の良さが分からないのだろうか……そんな彼らに緋城カナもとても好意を持っている。
いっそのこと、桜下プロダクションで獲得してやろうか、そんな事を考える凛。
「まぁ、緋城カナの移籍金は最低50億からだけど、アナタのとこでは払えないでしょうねぇ?」
そう、緋城グループはカナに対して法外な移籍金を設定した。
他にも上位ランクの探索者を札束でかき集めており、急に羽振りが良くなった連中のことを、凛は警戒していた。
「それにしても、アナタ肌が荒れてるわね?
いやぁ、人間族は三十路が近づくと嫌だこと」
(ビキビキビキッ!)
やけにツヤツヤしているレニィの様子が癪に障る。
ゴゴゴゴゴゴ……
二人の間に漂う緊張感が具現化し、空気を揺らす。
意図せず、ちょうどよい人払いになっているのであった。
*** ***
「ん? どした?」
離陸を待つ飛行機の中、興奮しっぱなしのキーファの相手をしていると、後ろの席に座っていたカナが俺たちの所にやってくる。
「いや、特に何でもないんですけど。
ケントおにいちゃんたちと一緒に旅行に行ける……嬉しいなって」
「一応は仕事だけどな」
「ふふっ」
柔らかな笑みを浮かべるカナの指先は、小さな首飾りを弄んでいる。
赤い宝石があしらわれた、大人っぽいアクセサリ。
「そういえばもうすぐ誕生日だよな?
もしかしてそれ、オヤジさんからのプレゼントか?」
「!!」
やっぱりケントおにいちゃんはわたしの誕生日を覚えててくれた。
見る見るうちに頬が赤く染まっていくカナ。
「緋城ジル……わたしの義父がくれたんです。
いつもはメールすらくれないんですけど……珍しくわたしの元を訪れて」
仕事の合間、僅か数分間だったとはいえ……義父の心遣いが嬉しくないはずがない。
「大事にしないとな」
「はいっ!」
「カナおねえちゃん、いっぱいお祝いするからね!」
「ふふっ、ありがとう」
実は俺とキーファ、フォロワーたちとも共謀してカナのサプライズバースディパーティを企画しているのだ。
機材は既に現地に送り済みだぜ!!
『皆様、当機は間もなく離陸いたします。
座席にお戻りになり、シートベルトをしっかりとお締めください』
「それじゃ、ケントおにいちゃん、キーファちゃん、また後で!」
「おう、機内食食べ過ぎるんじゃねーぞ?」
「だ、大丈夫ですよ!」
「わくわく! ぱぱ、ケーキがおかわり自由ってほんと?」
「……4つまでだぞ?」
「わ~い♪」
ケアンズまでは8時間余り。
興奮するキーファがちゃんと寝てくれるか、心配になる俺なのだった。




