第37話
「へへへ~、またケントおにいちゃんに助けてもらっちゃった~。
うへへへ~」
B+ランクダンジョンから自宅に戻るクルマの中で、カナはずっとこんな調子だった。
「カナおねえちゃんのRPがげんかいを突破しました!」
そんなカナをキーファはむにむにして遊んでいる。
RPって、なんだ?
そうこうしているうちに、クルマは自宅に到着した。
カレーの下ごしらえは朝のうちに済んでいる。後は煮込むだけなので、その間にカナを風呂に入れてやった方がいいだろう。
キーファに手を引かれて歩くカナの姿を見やる。
既に冒険着から私服に着替えているのだが、すらりとした手足は土埃で汚れている。
髪もぼさぼさだし、女の子として身だしなみを整えたいだろう。
「カナ、まず風呂に入って来い」
「ぴうっ!?
い、いきなりですか!?
……そそそそ、それじゃ、上がったらベッドルームに行けばいいですよねっ!」
「……いやだから、飯だって」
激しい戦いで疲れているに違いない。
今日は早めに寝かしてやった方がいいな!
「カナおねえちゃん、一緒におふろ入ろっ!」
もふっ!
「き、キーファちゃん!?」
カナの腰のあたりに抱きつくキーファ。
「……お風呂の中で、ぱぱの好み……教えてあげるね!」
「ふおおおおおおっ!?」
じゃれ合いながら風呂場に向かうふたりは、本当の姉妹のように仲がいい。
「いやぁ……家族が増えたみたいで嬉しいな!」
「ぬおおおおおおおおおっ!?」
「カナおねえちゃん、鼻血たれてる」
なぜか興奮しているカナだが、驚くのはまだ早い!
キーファの為にリフォームしたバスルームには……。
「え? これってまさか、ウンディーネのコア!?」
「ばしゃばしゃジェット水流、すいっちお~ん!」
ぽちっ
ずごごごごごっ
「お風呂に、巨大な渦が!?」
「わ~いわ~い!」
賑やかなキーファたちの歓声を聞きながら、俺はとびきり美味しいカレーを煮込むのだった。
*** ***
ぱくぱくぱくぱく
「美味しいね、カナおねえちゃん!」
「うん、本当に美味しい!」
さくっ
揚げたてのカツを噛みしめる小気味よい音が、食卓に響く。
「そういや、孤児院のキャンプ遠足でカレーを作ったこと、覚えてるか?」
「もちろんですよぉ!
今まで食べたごはんの中で、一番おいしかったです!!」
「おいおい、大げさだな」
ほっぺにご飯粒をつけ、力説するカナ。
懐かしいな……あの時も今みたいに頬を紅潮させ、沢山おかわりしてくれたっけ。
「カナおねえちゃん、ほっぺにお弁当が付いてるよ?」
「うわっ!?
って、キーファちゃんも、鼻の頭にカツの衣が」
「あれあれ?」
「……いいな」
仲良くじゃれ合うふたりは本当に尊い。
キーファとの二人暮らしも幸せだが、もう一人家族が増えるのもいいな!
(ちらっ)
(ちらちらっ)
先ほどから、視線を投げて来るカナ。
そういえば、風呂から上がったカナは長い黒髪をポニーテールにしている。
すべすべとした白いうなじがあらわになっていて、思わずどきりとする。
(にやにや)
何故か満面の笑みを浮かべているキーファ。
「カナ……その髪型すごく似合ってるな!
綺麗だぞ」
「ひょおおおおおおおおおっ!?」
思わず柄にもない誉め言葉を口にしてしまう俺なのだった。
*** ***
じゃ~
美味しい美味しいカツカレーをたくさんおかわりした自分とキーファちゃん。
台所に立ち、洗い物をするケントおにいちゃんをうっとりと眺める。
(こ、この後はもしかして……!)
部屋着として持ってきた白いショートパンツはこの日のために購入したとっておきで、カナの美脚を引き立たせてくれるローライズ。
下着だって、一番かわいいのを身に着けて来た。
キーファちゃんもいるし、いきなり今日……とならない事は分かっているけど、ドキドキが止まらないカナ。
「むにゅ~、カナおねえちゃん」
お腹がいっぱいになっておねむなのか、ソファーに座ったカナにキーファが抱きついてきた。
「ふふっ」
キーファの銀髪と狼耳は信じられないほどふわふわで、彼女の柔らかな身体を抱きしめていると何とも言えない多幸感が全身を包む。
(うわ、これは反則だよ……)
ケントが親バカになるのも分かる。
これはヤバい、チートだ。
しゅるるるるっ
キーファのふわふわ尻尾が、自分の腰に回される。
(うひゃああ……!)
人間より少し高いキーファの体温。
全身を包むふわふわ。
心地よいエアコンの風に当てられ、襲い来る睡魔に抗えるはずもなく……。
「すぅ、すぅ……」
カナはキーファを抱いたまま、眠りに落ちてしまったのだった。
*** ***
「キーファ、カナ、ゲームでもして遊ぶか……って」
洗い物を終えた俺が見たのは、リビングのソファーで抱き合って眠る
二人の姿だった。
「ふふっ、この光景がこれからもずっと続けばいいな」
何とも言えない幸せな感覚が俺の全身を包む。
「寝室に連れてってやるか」
俺は眠ったままのふたりを抱き上げ、寝室へ向かう。
カナ用の客間は準備していたけど、二人を引き離すのはかわいそうだ。
「……って、結構重いな」
「んぅ!」
ぱこっ
「いてっ」
まどろみ状態のカナから抗議のパンチを受けながら、俺はふたりを寝室へ運ぶのだった。
ここまで読んで頂き、本当にありがとうございます。
いよいよ敵の陰謀も、物語も本格的に動き始めます。
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