第35話
「遅いです!」
ザンッ
カナの日本刀が、オークを両断する。
上層で出現するのはホブゴブリンにオーク。
典型的なB+ランクダンジョンだ。
コラボ相手のはずの女性探索者はさっさと中層フロアへ行ってしまった。
ホブホブ
次に現れたのはホブゴブリンの群れ……20体以上いる。
普段なら、少々面倒な数なのだが。
「試してみましょう」
カナは目を閉じると、ダンジョンポイントを”練る”。
ヒュオオオオオッ
鞘の周りに、ブリザードが巻き起こった。
刀に纏わせるのはカナの得意な……。
「氷雪乱舞!!」
ビュオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
全てを凍らせる、ブリザード系魔法。
ホ、ホブホブッ!?
バキバキ、バキインッ!
荒れ狂う嵐は、ホブゴブリンたちだけではなくダンジョンそのものも凍らせていき……。
「はあっ!」
がっしゃああああん
剣圧により、粉々に砕け散るホブゴブリン。
「…………すご」
我ながら、すさまじい威力である。
「♪♪」
やはりケントおにいちゃんから貰った装備は最高だ。
すりすり
「……んきゃっ!?」
思わず鞘に頬ずりしてしまい、その冷たさに悲鳴を上げるカナなのだった。
――――― 30分後
「これでよし、と」
フロアの写真を撮り終え、出現したモンスターの傾向を記録する。
調査を終えたカナが次のフロアに行こうと歩き始めた時。
「……ん?」
ギイッ
足元に僅かに違和感を感じた。
見れば、右足部分の床が、僅かに凹んでいる。
「んん?」
珍しい現象である。
地中に出現するダンジョンの構造は基本的に安定していて、歩くだけで崩れるような床などないはずだが……。
「た、食べ過ぎてませんよ!?
そんなに重くありません!」
ケントおにいちゃん作のスイーツが美味しいのは事実だが、体重は維持しているはずのカナである。
一人ツッコミしながらダンジョンの奥へ向かうカナなのだった。
*** ***
―――――― 同時刻、配信中のケントとキーファ。
「くまさんなりきりセットは、来月23日はつばい~よろしくね♪」
両手に肉球もふもふグローブをつけ、両足にもふもふブーツを履いたキーファがカクテル光線の中でポーズをとる。
ぴこぴこ
もふもふの狼耳と尻尾が可愛く揺れ動く……耳と尻尾はキーファの自前だ。
ここから導き出される結論は……。
「可愛すぎるだろ……!!」
<キーファたん過剰摂取警報!!>
<いやマジで鼻血が>
<昇天しそう……!>
<★投げ銭が届きました:¥1,000,000>
<誰だ100万も投げ銭した奴wwwwww>
<”ふこふこ”? このアカウント、こないだも高額投げ銭してたよな>
<石油王現る>
「楓子だな……やりすぎないように言っておかないと」
「だね~」
新作冒険着の紹介を一通り終え、俺たちは一休みしていた。
背中に背負ったクーラーボックスからプリンとお茶を取り出すと、キーファに手渡す。
「わ~い! プリンだぁ!」
歓声を上げたキーファは、くまさんなりきりセットを身に着けたまま器用にプリンを頬張る。
よほど気に入ってくれたようだ。
もふもふの付け鼻が反則的にかわいい。
「カナおねえちゃんに送ったげるか!」
「うんっ!
カナおねえちゃん、お仕事頑張って~」
スマホのカメラに向かってにぱっと笑うキーファ。
「カナ、今日の晩御飯はお前の好きなカツカレーだぞ。
くれぐれも気を付けてな!」
スマホで撮ったキーファとのツーショット動画をカナに送る。
「そういえば、カナが潜っているダンジョンはここの近くらしい。
配信も終わったし、サプライズで迎えに行くか!」
「いこういこう!」
今日宣伝した冒険着は、サンプルを貰えることになっている。
俺はくまさんなりきりセットを身に着けたキーファと手をつなぐと、ダンジョンの外へと向かった。
*** ***
―――――― 同時刻、お仕事中のカナ。
ぱっぱらぱっぱ~♪
「!!」
ケントおにいちゃんからの通知は特別な着メロにしている健気なカナである。
「うっはあああああああああっ!?」
メールに添付されていた動画を開くなり、歓声を上げる。
キーファちゃんの天元突破な可愛さも最高だが、ケントおにいちゃんの優しい言葉。
「もちろんこのカナ、ご安全に参ります!!」
だんっ!
テンションが上がったカナは、一気にモンスターの群れを飛び越え下のフロアへ。
バキッ、ガラガラガラガラッ
数十秒後、先ほどまで彼女がいたフロアがモンスターの群れごと崩落したことに、気付かないカナなのだった。
―――――― 同時刻、ダンジョン下層フロア。
「メガファイア!!」
ゴオオオッ
爆炎魔法がオークを跡形もなく焼き尽くす。
「くっ!!」
女性探索者は焦っていた。
配信者として成功できなかった自分だが、まだ探索者としてなら!
このコラボは最後のチャンスである。
緋城カナより成果を上げることができれば……!
「んっ?」
勢い込んでダンジョンの最奥に足を踏み入れようとした女性探索者。
僅かに、足元に違和感を感じる。
カチッ
「……えっ?」
何かを踏んだ?
そう思った瞬間、足元の床があっさりと崩れ去る。
ガラガラガラッ!
「あ、ああああああああああっ!?」
なすすべもなく空中に放り出され、女性探索者は底の見えない闇の奥へと落ちていった。




