第30話
「くっ……いくらグリーンドラゴンを倒したとはいっても戦い方は粗削り……。
よくある話題先行型の探索者と思っていたが……」
「ど、どうします? スノウデルさん」
「ふむ……私の極大魔法でも削り切れなかったのだ。
2発当てる間に回復されてしまう……ここはセオリー通り、君と私の連続攻撃と行こう! 彼の回復も無限ではあるまい!」
「”サウザント”とのツーマンセルとは光栄ですね!」
「ふふ、日本トップ探索者の力、見せてもらおう!」
ズオッ!
「……あれ?」
相対するふたりの雰囲気が一変した。
今まではあくまで模擬戦モード……だったのだが、今や完全に”ヤル気”だ。
<やっべ、こっちまで緊張して来た>
<スノウデルとトージの本気……竜神を討伐した時のニュース映像でしか見た事ねーよ>
<気のせいか、画面が揺れてる?>
ゴゴゴゴゴゴ
「ひょえええっ!?」
比喩ではなく、ゆっくりとダンジョン全体が揺れる。
うおお、すげぇぜ!
「え、いやあの……ケントおにいちゃん! あれどうするんですか!」
「大丈夫だ!」
ぽん
涙目なカナの頭に手のひらを乗せる。
「俺が見込んだお前と俺なら……絶対勝てる!!
期待してるぜ?」
なでなで
「ふおおおおおおおおおっ!!」
カナの顔色が変わった。
「それに、俺たちには切り札がある!!」
俺は、キーファに向かって両手を広げる。
「がんばれ♡ がんばれ♡
ぱぱ、カナおねえちゃん!
わお~~ん♡」
紅白のポンポンを持ったキーファの遠吠えが、ダンジョン内に響き渡った。
「ぐはっ!? 可愛すぎる!!」
ぱああああっ
「こ、これはっ!?」
そう!
能力アップ魔法である「テンションアップ」と、潜在能力を引き出す「にこにこキーファ」……禁断の二重掛け!!
これを使うとキーファはとてもお腹がすいちゃうので、エンゲル係数がえらいことになる奥の手中の奥の手だ。
ずごごごごご!
身体の奥からすさまじい力が湧いてくる。
「勝負です! スノウデルさん、トージさん!」
俺は拳を二人に向けて突きつける。
<キーファたんかわいすぎて草>
<鼻血出た……>
<この勝負、どうなる?>
「行くぞ、カナ!」
「はいっ!!」
俺は思いっきり、ダンジョンの床を蹴った。
*** ***
結果としては、勝負は負けだった。
俺がスノウデルさんの魔法攻撃を耐えている間に、カナがトージさんにヒットアンドアウェイ戦法を仕掛ける。
極大魔法発動後の隙をついて二人でトージさんに全力攻撃を仕掛け、何とか戦闘不能に追い込むことには成功したものの……。
想定よりだいぶ早く、詠唱を終えたスノウデルさんの極大魔法が俺たちに直撃する。
なんでも体に負担が掛かる奥義……らしいがスゲェ!
カナは戦闘不能となり、間合いを詰めてきたスノウデルさん相手に回復している暇はない。
俺は起死回生を狙い、研究中のダンジョンポイントを使ったエネルギー波を放つものの……彼を倒すには及ばず、力尽きたのだ。
「くそ~、1000くらいポイントを使えばいいダメージになったかもしれないけど、練るのに時間が掛かりすぎるし。何よりコスパ悪すぎだな!」
「ていうか最後のなに? おにいちゃんビーム!?」
「……いや、その名前はダサすぎるからやめてくれ」
<おにいちゃんビームwwwwww>
<ていうか最後のマジで何? 格闘漫画のエネルギー波みたいだったんだが!>
<【朗報】ドラおじ、サ○ヤ人だった>
<無茶苦茶で草>
<これ、ワンチャンあったんじゃね?>
<つーか、キーファたんの強化スキルもスゲェな!>
<いや、思ったより差は大きかったよ。やっぱスノウデル半端ねぇ>
白熱した戦いに、コメント欄も沸き立っている。
「それはそれとして……【キーファちゃんねるのフォロワー登録よろしく!】」
サイン入り限定グッズをゲットする野望は潰えてしまったが、パパとして義務を果たしておかなくちゃな!
宣伝バナーを広げる俺。
<パパぶれない>
<はいはい、もう登録済みだってば>
「……少しいいかな、ケント君」
息を整えたスノウデルさんが話しかけて来たのは、そんな時だった。
「いい勝負だった。ご所望のグッズはからなず届させよう」
「マジですか!? やったー!」
こちらがあっさり負けたというのに、懐が深い!
俺もすっかりファンになりそうだ。
(粗削りな今のスタイルでこれだけの強さ……下手に探索者理論を学んでないからこその柔軟な発想)
(面白いかもしれない)
「話は変わるが、来月の8月だが、確か君の娘さんの学校は夏休みだったね?」
「え? は、はい」
いまいちスノウデルさんの話が見えない。
確かに8月は夏休みだ。
今年は色々配信をしようと思っていたのだが。
「オーストラリアに出現した史上初のUGランクダンジョン……そこへの調査隊を編成しているのだが、ぜひ君たちに参加をお願いしたい。
考えておいてくれ」
ぽん
スノウデルさんは俺に1つのUSBメモリを手渡してくる。
「詳細はその中の資料に書いてある。
報酬も旨いし……リゾートでのバカンスタイムも用意されているから、期待してくれていいぞ?」
スノウデルさんはそう言い残すと、自家用ヘリに乗ってあわただしく学院を去ってしまった。
「じゃあなケント君。いつかうちに加入してくれることを期待してるぜ?」
トージさんも同じく、俺たちに手を振って帰って行った。
「……さすがにトップ探索者は忙しそうだな。
ふう、さすがに疲れたなー」
「ぱぱ、お疲れさま!」
「お、さんきゅー!」
キーファが手渡してくれた濡れタオルで顔を拭く。
4限の開始までにはもう少し時間がある。
控室に戻っておやつタイムを……。
ビーッビーッビーッ!!
そう考えていた時、耳をつんざく警報音が学院内に響いた。
「……なんだ?」
『実習用Eランクダンジョン中層で中規模ダンジョンブレイク発生!!』
『上層及び近隣ダンジョンにいる生徒は至急避難してください!!』
「!!」
ダンジョンブレイク。
意図しないモンスターの大量発生である。
それを受けて、俺の住んでいた街は……って、実習用Eランクダンジョン!?
あそこには確か……。
「ふーこ!!」
校舎から、一人の女子生徒が駆けてくる。
「ケントにぃ!
ふーこが、Eランクダンジョンの下層にまだいて!!」
「なっ!?」
マヤの声が、新たな事件の発生を告げるのだった。




