第25話
「うおっ、すげぇ! 本物のドラおじだ!」
「ケントさん、だろ? あの人ドラゴンバスターだぜ?」
「ランク認定はしてないらしいけど、Sランク以上ってほんとかな?」
「ああ、カッコいいですわ……」
校舎の窓に鈴なりになった学院生徒たちが俺に向かって歓声を上げる。
まあ、悪い気はしないけど……パパとしてはキーファを見て欲しいな!
「よっと」
キーファを肩車してやる。
「キーファ、みんなに手を振ってあげよう」
「うんっ!
こんにちは、おにーさんおねーさん!
キーファと、カッコいいぱぱだよ~♪」
ぶんぶんと手と尻尾を振るキーファ。
「「超カワイイ!?」」
「あの子がグリーンドラゴンに止めを刺したってマジ?」
「さすがドラおじの娘ちゃん!」
大きくわき上がる生徒たち。
よきかなよきかな。
<ドラおじ人気過ぎて草>
<そりゃそうだろ、俺も学生だったら見に行きたいよ>
<学院制服のキーファたんかわいすぎない?>
<よし、ワイも今すぐ入学してくる!!>
<オッサン無理すんな>
コメント欄も大盛り上がりだ。
よし、アピールするなら今しかねぇ!
俺は背中に背負ったバックパックから折り畳み式のパネルを取り出す。
『キーファちゃんねるのフォロワー登録をよろしく! アドレスはこちら!』
「よろしく~♪」
キーファがニコッと笑うと100人ほどフォロワーが増えた。
さすキー!!
「……何やってるんですかケントさん」
相変わらずな俺たちの行動に、カナからジト目を頂いてしまったが彼女の人気も負けてはいない。
「うお、緋城カナだ……かっけ~!」
「生で見ると配信より美人さんだよな!」
「カナって握手会とかのリアルイベントほとんどしないからな……あとでサイン貰えないかな」
「おねえさま! 素敵です~!!」
男子生徒からだけではなく、女子生徒からの黄色い声援もスゴイ。
長身で抜身の日本刀のような雰囲気を纏う彼女だ。
女子人気が高いのも当然だろう。
(うう、がまんがまん)
(握手会なんて恥ずかしすぎて出来ませんってば!)
クールな表情を崩さないカナの頬がわずかに赤く染まっている。
この後の教導に備えてダンジョンポイントを練っているのだろう。
常在戦場の心得、さすがカナだぜ!!
そんな事を考えながら、俺たちは体育館へ向かうのだった。
*** ***
「ケントにぃ!!」
俺たちの教導は学院付属の体育館の二階で行われる。
第一限の受講者は200名。
俺たちが体育館の裏口から中に入ろうとすると、一人の女子生徒に声を掛けられた。
「ん? お前……真彩か?」
建物の影で俺たちを待ち構えていたのだろう。
たたたっと俺たちの前に走り出ると、びしりとVサイン。
「うんっ! ケントにぃ、久しぶりっ!!」
コイツの名前は大屋 真彩。
俺の父方の従姉妹になる。
キーファを娘にしてすぐの時期、一時的に叔父さんの家に身を寄せていた。
「にひひ~♪」
きれいに日焼けした肌に、真っ白な歯が眩しい。
会うのは1年ぶりくらいだろうか?
やんちゃな悪ガキがそのまま中学生になったような感じだ。
「桜下総合探索学院に入ったんだな、探索者を目指すのか?」
「うんっ! ケントにぃみたいな凄腕探索者になりたくてね!」
びしりとポーズをとるマヤ。
俺みたいな力技探索者になるのはお勧めしないけどな~。
「それにカナさん!」
「あたし、ファンです! 握手してください!」
「は、はい……」
突然声を掛けられたカナは戸惑い気味だ。
「おいマヤ、俺も握手してやろうか」
「にしし~、ケントにぃのはいいよ~!」
いたずらっぽい笑みを浮かべて俺から逃げるマヤ。
コイツ……全然変わってないな。
勝手の分からない子育てに四苦八苦していた俺は、コイツの能天気さに何度も救われたっけ。
(こ、この子は……もしかしてライバル!?)
(いや待てカナ! 相手は中学生、従姉妹って言ってたし大丈夫じゃないか……って、いとこ同士は結婚できるじゃんんんんっ!?)
カナは自分の手を見ながらブツブツ呟いている。
マヤの実力を推し量っているのだろうか……流石である。
そんなことより、従姉妹には重大な欠点が……。
「マヤおねえちゃん! ひさしぶりっ!」
「……ほうっ!?」
走り寄ってきたキーファが、マヤの腰のあたりにギュッと抱きつく。
その瞬間びしりと固まるマヤ。
「ひ、久々のキーファたんかわいすぎるってえええええええええええ!?
え、なに? 髪の毛もお耳もずっともふもふになってるじゃんっっ!!」
「ふお?」
「ていうか学院の制服姿可愛すぎなんだが!!
お肌もモチモチですりすりしたいいいぃぃぃぃいっ!
ああもう我慢できない! 吸うよ! 吸うね? ケントにぃ!
あ、やば……ちょっとヨダレが」
「やめい!」
べしっ!
限界化しているマヤの頭にチョップを食らわせ、キーファを取り戻す。
「ふぎゃっ!?」
ちょっとばかし強めにチョップしたので、地面にべしゃりと倒れるマヤ。
「あはは、マヤおねえちゃん変わらないね!」
「まったく……」
この従姉妹は……重度のケモナーでもふもふフェチなのだ。
いやむしろ悪化してる気がする……キーファを近づけない方がいいかもしれない。
「うああああっ!? ケントにぃ、それだけはご勘弁をっ!
吸わないから、モフモフするだけにするからあっ!」
「ぱぱ、許してあげよ?」
「しょうがないな……」
なんやかんやとキーファもマヤを慕っている。
俺はしぶしぶキーファをマヤに手渡してやる。
「もふもふ~♪」
「あ、もう! くすぐったいよぉ!」
これはこれで尊い光景ではある。
(えっと……ライバル? ていうか親近感を感じる!?)
その横で、なぜかシンパシーを感じていたカナなのであった。
「あ、あのう……」
「ん?」
ドタバタと漫才を繰り広げる俺たちから隠れるように、遠慮がちな声が掛けられる。
建物の影から、おさげの女子生徒がこちらを伺っていた。
「あ、その子は友達の風間 楓子! ケントにぃの大大大ファンなんだって! サインしたげてよ!!」
「マ、マヤちゃん! そんな大きな声で恥ずかしいってば!」
ふむ……俺のファンとは物好きだな。
だが、カッコいいキーファのパパとしてファンは大事にする必要があるだろう!!
「よろしく、楓子ちゃん。
あんなだけどマヤを頼むよ。
いい探索者になるんだぜ?」
彼女の得物らしきマジックロッドにサインを書き、握手をしてあげる。
「はうううううっ、ありがとうございますっ!
私、この手を一生洗いません!」
うん、それは困るからちゃんと洗ってくれ。
俺はバックパックを漁ると、小さな首飾りを彼女にプレゼントした。
作ってはみたものの、大人っぽ過ぎてキーファには似合わなかった防御の護符である。
うん、似合ってるじゃないか!
「ふわっ、こんなものまで頂いて……大切にします!」
「やべぇ、ケントおにいちゃんやべぇ……JCを速攻落としてるよ……」
「にしし、ケントにぃはいつもこうだぜ!」
「ぱぱ、ひとたらし!」
……なんか好き勝手言われてる気がするが聞かなかったことにしよう。
「こら! お前ら勝手な行動をするんじゃない! 風間! お前は実習Eランクダンジョンに潜るんだろ、開始時間過ぎてるぞ!」
「うわやべ、見つかった!!」
「ケント様、私は4限目なのでよろしくお願いしますっ!」
教官と思わしき男性に怒られ、脱兎のごとく逃げ出す二人。
「ふふ、実習生さんたちは元気ですね。昔を思い出します(高校生の余裕)」
「ちょっと元気すぎるけどな」
俺はカナと雑談しながら、体育館の中に入るのだった。




