第20話
「よし。カナ、実戦トレーニングだ!!」
「がんばれ~♪ おねえちゃん!」
「え、いやあの……ええっ?」
ドラゴンズ・ヘブンの奥まで連れてこられたカナ。
ケントおにいちゃんに手を引かれ、さらにダンジョンポイントの解凍の仕方を
手取り足取り教えてもらった。
逞しいおにいちゃんの肉体と密着したぜうへへ、と喜んだのもつかの間。
カナはとんでもないモンスターと相対する羽目になっていた。
純粋種のドラゴンを上回る巨躯、吸い込まれそうなほど深い緑の体色。
恐ろしい威力を秘めた丸太のような腕……どこからどう見ても上位種のドラゴンである。
「あれは抹茶ドラゴンだな! プレーンドラゴンよりちょっと強いくらいだろ!」
「ぐりーんどらごんだよ、ぱぱ!」
「大体一緒じゃね?」
(な、何でこの2人はこんなに落ち着いているの!?)
さきほどまでの天国状態から、いきなり超高ランクモンスターの目の前に叩き出されたカナはひたすらに混乱していた。
<グリーンドラゴンwwwww>
<うせやろ!? S+ランクモンスターじゃねーか!>
<オレ、はじめて見た……>
<草も生えない>
<【悲報】ドラおじ、カナを始末にかかる>
<いやいや、さすがにやべーよ! 誰か救助要請したほうがいいんじゃ?>
<なに考えてんだよ、ドラおじ!!>
「??」
荒れるコメント欄。
何でフォロワー達はこんなに焦っているんだ?
「ははぁ、オマエラ、俺だけじゃなくカナも驚かそうとしてやがんな?」
まったく、物好きな連中である。
まあ、俺よりカナを驚かしたほうが面白そうなのは分かるが。
「エルダードラゴンやグレートドラゴンじゃあるまいし。
カナはAAランク(?)なんだろ、余裕だって。
俺の雑魚パンチでもプレーンドラゴンを倒せたんだから、ちょっと強いだけの抹茶ドラゴンなら絶対行ける行ける!」
<そんなのアンタだけだ笑>
<比較対象が最上位過ぎる……>
<プレーンドラゴンってなに……?>
<抹茶ドラゴンwwwww>
<なんか美味しそう>
<緊張感なさすぎだろ……>
<ドラおじならグリーンドラゴンでも一撃なのか?>
<いやいや>
<ちゃんとカナを助けてくれよ? カナを怪我させたら駄目だぞ?>
……はっ!?
流れるコメントを読んで、俺は改めて気づいた。
これは《《コラボ配信》》だと!
たとえばキーファが別の探索者とコラボ配信したとして、そいつのミスでキーファが怪我したら俺は怒り狂うに違いない。
カナファンへの配慮が欠けていた……不覚っ!!
深く反省した俺は、切り札を切ることを決意する
「キーファ! カナおねえちゃんにいつものやつを頼む!」
「うんっ! 任せてぱぱ!」
むんっ、と胸の前で両手を握るキーファ。
三千世界一かわいい。
「がんばれ~♪ カナおねえちゃん!」
ぱあああああっ
「こ、これは!?」
カナの全身を淡い光が包む。
相手のテンションを上げるだけでなく、潜在能力を大きく引き出すキーファのユニークスキル、”にこにこキーファ”である!
コイツをかけてもらうのはパパの特権ではあるが……キーファとよく遊んでくれていたカナになら許可していいだろう!
「か、身体の奥から力が沸いてきます!?」
両肩を抱き、感動に打ち震えるカナ。
にこにこキーファの威力は絶大だ。当然の反応だろう。
「ダンジョンポイントも解凍しやすくなるよ♪
あと……」
とてててっとカナに走りよるキーファ。
ぴょんっとカナに飛びつき、彼女にそっと耳打ちする。
「ここでかっこいいところを見せれば、ぱぱ……カナおねえちゃんを好きになっちゃうかも!」
「!!
うおおおおおおおおおおおっ!?」
なにを話したのかは分からないが、くわっと目を見開いたカナの全身から膨大な魔力が立ち上る。
「おう、その調子だ、カナ!」
「ケントおにいちゃん!
これ、めっちゃアガります!!」
俺の声に、興奮した返事をするカナ。
ダンジョンポイントの”練り”も上手くできている。
これならダンジョンポイントを使った攻撃も出来るだろう。
「よし、まず俺が抹茶ドラゴンの足を止めるから、お前の日本刀に練ったダンジョンポイントのエネルギーを纏わせるんだ!」
「はいっ!」
カナが得物を抜刀したのを確認し、俺は抹茶ドラゴンに向けて地面を蹴った。




