第19話
「いまのところは大丈夫かしら……」
突然持ち掛けられた緋城プロダクションとのコラボ。
緋城 ジル・ドミニオンが総帥を務める緋城グループは、日本トップクラスのダンジョン企業集合体であり、配信事業における最大のライバルだ。
なにか悪意を持ってコラボを仕掛けて来たのかと警戒していたが……。
「想像より盛り上がっているわね」
緋城カナはケントに好意的であり、ケントとカナの息の合ったコンビネーションは双方のフォロワーにも好評だ。
「最初は炎上狙いかと思ったけど」
女子高生ダンジョン配信者が成人男性とコラボする。
これだけでも炎上必至なのだが、カナがアイドル的売り方をしていない事、何よりキーファの存在が良い癒しとなっているのか、コメント欄は多少雑然としているが炎上はしなかった。
「視聴者数……230万人!」
若手トップの女子高生配信者と、ここ1週間ほどポイッターのトレンドを独占しているケントとの異色コラボは世界的な評判を呼び、SSランクの配信者でも中々見ない数字を叩き出していた。
「それにしては、向こうの出してきた条件が旨すぎるのよね」
あのいけ好かない女、レニィが先ほど持ってきた契約書に視線を落とし、眉をしかめる凛。
「投げ銭、ダンジョンポイントの取り分はこちらが7割、定期的なコラボを希望し、コラボ実施時には最優先でスケジュールを空ける……か」
緋城カナは緋城プロダクション内でトップの若手配信者で、全国的な人気を確立している。
ダンジョン庁や企業案件も多く手掛けており、学生でもある彼女のスケジュールは多忙を極める。
これほどの条件を提示してまでコラボをするメリットはないと思えるのだが……。
「あの男が考える事だものね」
警戒はしておいた方がいいだろう。
しばらく自分はふたりの専属になった方がいいかもしれない。
そう考えた凛は、部下に指示を飛ばすべくノートPCを開くのだった。
*** ***
「よし、まずはダンジョンポイント操作の基礎から教えるぞ」
「わ~い♪」
(どきどき)
ドラゴンズ・ヘブンの中層まで移動してきた俺たちは、周囲にいたモンスターを掃討するとカナに対して臨時のダンジョンポイント活用講座を開いていた。
<息をするようにモンスター退治してて草>
<なあ、気のせいかドラおじが倒したモンスターの中に純粋種のドラゴンがいなかった?>
<ま、まあ今さらだろ>
<ダンジョンポイント操作っていったいなんだ?>
フォロワーたちも興味津々である。
「まずダンジョンポイントについてのおさらいだけど……マナと魔力が結びついて、人間の中に蓄積される結晶のようなもの、というのはみんな知ってるよな?」
「うんっ、キーファの中にもあるよ!」
「探索者特性が現れた者は、体内でエーテルゲートが覚醒するため、マナと魔力が反応しやすくなり一般人よりポイントを多く獲得できる、という仕組みですね」
落ち着いた声色で、解説を挟んでくれるカナ。
「へ~、そうだったのか」
「べんきょーになるね!」
<知らんかったんかい!>
<まったくこの父娘は笑>
「通常はこのダンジョンポイントを使ってステータスにチャージするんだが……。
ある時俺は、チャージが完了するギリギリのところでキャンセルすると……スキルポイントが”柔らかく”なることに気付いたんだ。
俺とキーファはこの現象を”解凍”って呼んでる」
「レンチン、みたいなものだね!」
「は、はぁ……」
<訳の分からん話になってきて草>
<冷凍食品じゃないんだぞキーファたんw>
キーファのたとえは分かりやすいな!
何故か困惑しているカナとフォロワー。
「解凍状態のダンジョンポイントは数時間ほどで揮発してしまうんだが……この状態なら簡単にダンジョンポイントが持つエネルギーを取り出せるってワケだ」
ブンッ
俺は右手の人差し指に解凍状態のダンジョンポイントを込めると、手近なダンジョンの壁を指ではじく。
ドガッ!
それだけで直径10センチほどの穴が開いた。
「こんな感じで、まあそれなりの威力を出すことができる。
純粋なエネルギーを爆発させるから、打撃の効かない敵にも通じるぜ?」
<無茶苦茶すぎるwww>
<チートww>
<やろうとしたけど解凍なんかできないぞ? ステータスにチャージされた>
「ん~、そのあたりは慣れるしかないな。
ダンジョンポイントをグッとする時、がっと弾ける瞬間にバシッと引き戻す感じで!」
<まったく参考にならねーww>
<天才の説明www>
とはいってもなぁ、感覚的なモノだし。
「はいちゅうもく!」
どうやって説明したもんか……悩んでいると、とてとてとキーファがカメラの前に歩み出る。
カワイイ。
「キーファが分かりやすく説明するね!
まず、ダンジョンポイントを1ポイント準備してくださ~い!」
キーファが両手を頭の上にあげる。
楽しそうに振られるしっぽ。
当然俺もキーファと同じポーズをとる。
「そしたら、これを魔力さんにチャージしてみましょう。
とーぜんポイントが足らないので、えらーが出ちゃいます」
魔力を1上げるには、100ポイントが必要だ。
「そーすると、ダンジョンポイントはアプリにもどろーとしますが……そのタイミングでアプリの接続を切ってつかむの!
ほら……ぷにぷに!」
ぱああっ
キーファの両手の中にダンジョンポイントの輝きが生まれる。
「凄い……わたしにもできたよキーファちゃん!」
何かコツをつかんだらしいカナが、感激の表情を浮かべている。
「そう、その感覚が大事だぞカナ!
さすがキーファは説明が上手いな、天才だ!」
「えへへ~」
かわいくて賢いキーファを抱き上げる。
この微妙な感覚を言語化してしまうとは……さすが俺の娘である!
<おお、なんか分かったかも!>
<キーファちゃん説明上手で草>
<ドラおじもっと頑張れw>
「よし、この流れのまま……。
ダンジョンの最奥に行くぞ!!」
「ごーごー!」
「…………へ?
ここSランクダンジョンですよ? もう少し慎重に……」
「行こう、カナおねえちゃん!」
「ちょ、ま!?」
気分が良くなった俺たちは、カナの手を引いてドラゴンズ・ヘブンの最奥へ向かうのだった。




