第18話
「よし、それじゃあ攻略を始めるか」
ドラゴンズ・ヘブンの上層に足を踏み入れた俺たち。
今日はソロではなくコラボ攻略だ。
流石に俺でもカナのプロフィールは一読して来たぞ?
「カナの得物は日本刀だったよな? それに魔法も使えるのか……カナに似合っててカッコいいな!」
「ぴうっ!?」
何気なく掛けた言葉に、顔を赤くするカナ。
よく見れば頭の上から湯気が出ている。
やはり魔法使いは大変そうだな……排熱とか!
<カナの反応かわよ>
<パパ、もしかして無自覚ジゴロ系か?>
<パパはいつも本気で天然だぜ>
<……それヤバすぎない?>
<鉄仮面だったカナが開発されていく様子……推せる!!>
<だからなんでカナファンは極まってんだよ!>
なんかコメント欄が俺をオモチャにして遊んでいる。
俺なんかよりキーファを見て欲しいんだが!
「むぅ……なかなか良いはんのう。
現在の総合スコア……85てん、と言ったところかな?」
何故か腕を組み、むむむとカナを見つめるキーファ(超カワイイ)。
いくら相手がAAランクの探索者とはいえ、キーファはすーぱーわーうるふである……彼女の力を見定めているのだろう!
「さすがだなキーファ! おねえちゃんの力が分かるのか!」
「うんっ!
(さっき抱きついた時に感じた身体の)じゅうなん性バッチリ! (惚れる)スピードは神速だね!
(ぱぱのおよめさんに)相性ばつぐんだと思うよ!」
「おお、さすキー!!」
<な、カナの特性を一目で見抜いた!?>
<超かわワーウルフちゃんなにもの?>
<そりゃパパの娘だぞ? これくらいできても不思議じゃない>
<可愛くて天才とか、こいつ無敵か?>
コメント欄にキーファの話題が増えて来た。
良きかな良きかな。
「それじゃあ……俺が前衛でモンスターを引き付けてカナがスピードを生かして剣と魔法で倒す、という陣形で行くか?
あ、もちろん! キーファに見せ場を作ってくれよな!」
俺が声を掛けても、宙を見て何かを呟いているカナ。
「カナおねえちゃん?」
キーファがポンポンと背中を叩くと、ようやく我に返ってくれた。
「…………あ、はい!
その形で行きましょう」
恐らく事前に魔力を練っていたのだろう(適当)
やっぱり魔法使いは大変だな!
俺はカナとキーファを引き連れ、ダンジョンの奥へと向かうのだった。
*** ***
「甘ぇ!」
飛びドラゴン(仮)の噛みつき攻撃を、最低限のモーションで躱す。
「はあっ!!」
そのままがら空きになった飛びドラゴン(仮)の首筋を、ダンジョンポイントを込めた拳でぶっ叩いた。
ドガッ!
ギャ、ギャオオオオオンッ!?
派手に吹っ飛ぶ飛びドラゴン。
今のパンチにはダンジョンポイントを1しか込めてなかったので、大したダメージにはならないはずだ。
「……今です」
ふらふらと地面に降りて来た飛びドラゴンに向かって、カナが襲い掛かる。
じゃりっ!
傷一つない黒いローファーの靴底が地面を蹴り、砂埃が舞い上がる。
「奥義……新月円斬!」
一瞬で飛びドラゴンのそばまで移動したカナは、素早く刀を抜き円を描くように斬りつける。
ザンッ!
大人の身体ほどもある飛びドラゴンの頭は一太刀で身体から切り離され、力尽きた飛びドラゴンは地面に落ちる。
「おお~、かっけぇ!!」
「おねえちゃん素敵!!」
ぱちぱちと拍手をする俺とキーファ。
これが上位探索者の剣技スキルか~。
俺は不器用でまともに武器を扱えないからな、憧れてしまうぜ!!
「お粗末さまでした」
カメラに向かって冷たい流し目を送りながら、刀を鞘に納めるカナ。
だが彼女の内心はドキドキだった。
(うおおおおお、ケントおにいちゃんとの初めての♡共同作業)
(これはもう、お付き合いしてると言ってもいいのでは!?!?)
緋城カナ17歳、特技は表情を1ミリも動かさずに妄想を繰り広げる事。
(……ていうかわたし、一撃でワイバーンの頭を切り落としちゃった!?)
ドラゴン族の亜種とはいえ、B3ランクのモンスターである。
いつもなら2~3発剣技スキルを当てないと倒せない。
<さすカナ!>
<すげぇ! ワイバーンを一撃で!?>
<ドラおじのアシストがあってこそよ>
<ぱちぱちキーファたんかわゆす>
<ふむ……カナの瞳の動き……おにいちゃん♡とのコンビネーションにドキドキしてるな、推せる!!>
<いやだから、カナファンこえーよ!>
配信コメントも大盛り上がりだ。
「いや~、それにしても白セーラー美少女が繰り出す、舞うような剣技……か!
マジで憧れるな、キーファ!」
モンスターが全滅したことを確認すると、俺はキーファを抱き上げ肩車をしてやる。
「うんっ!
カナおねえちゃん、本当にかっこよくて美人だった!
キーファもあんなの出来るかなぁ?」
「そうだな……お姉ちゃんに教えてもらうか!」
桜下さんに貰った学院のパンフレットには探索者コースも載っていた。
俺はキーファの基礎体力を鍛えてやることしかできないので、カナに剣技を教えてもらい、中学生になったキーファが美少女もふもふ剣士として再デビュー……いいかもしれない!!
「おししょーさま!」
「そんな……わたしはまだまだ修行の身、師匠と呼んでいただくなどおこがましいです」
息を整えたカナが俺たちの元に戻ってくる。
柔らかそうな頬はピンクに染まっている……奥義と言ってたからな、使うと体温が上昇するのだろう!
「ワイバーンを一撃で倒せたのも、ケントおにぃ……ケントさんのアシストがあってこそです。おそらく、ケントさんの一撃で半分以上HPを削られていたものと思われます」
「え、そうなん?
飛びドラゴンだから、プレーンドラゴンより強いと思ったんだけどな~」
「わいばーんは、普通のドラゴンより弱いよ、ぱぱ」
「そっか、だから1ポイントしかチャージしてないダンジョンポイントパンチでそんなにHPを減らせたのか。
さすがキーファは詳しいな!」
<1ポイントであの威力……>
<ねーよwwwww>
<900円=ワイバーンのHP半分>
<コスパ良すぎんか笑>
<ドラおじの配信来たの初めてなんだけど、ダンジョンポイントパンチってなに?>
<ドラおじがダンジョンポイントをエネルギーに変換して拳に込める→モンスターは死ぬ>
<なんそれwwww>
<無茶苦茶で草>
「…………(すごい!)」
こないだの配信で一度見ていたが、改めてケントの技を目の当たりにしたカナは心の底から驚愕していた。
ダンジョンポイントを攻撃に使うという発想もさることながら、ケントはインパクトの一瞬……コンマ一秒以下のタイミングで全てのエネルギーを解放し、最高の効率で相手にダメージを与えると同時に自分の拳を守っている。
AAランクになった自分にも到底できない離れ業だ。
(何よりコスパがいい!!)
フォロワーさんの言う通り、1ポイントのダンジョンポイントであの威力を出せるなら、ダンジョン探索の世界が変わる……。
なら、自分がするべき事は……。
「ケントおにいちゃ……ケントさん!
その技を、わたしにも教えてもらえないでしょうか。
探索者の頂点を目指すためにも、ぜひ習得したいのです」
修行という名目であれば、いつでも合法的におにいちゃんの家に行けるぜやったー!
それに教師と生徒……ちょっぴりインモラルな関係最高!
決意を込めた表情とは裏腹に、カナの内心は欲望まみれだった。
「ん? 俺でよければいくらでも教えるけど」
AAランクの探索者が、俺の雑なテクニックを欲しがるとは意外だぜ。
だがこのあくなき向上心が、あの引っ込み思案だった子をここまで育てたのだろう!
「そうだな、まずはダンジョンポイントの”解凍”からやってみるか」
感動した俺は、カナにダンジョンポイント操作の基本を教えることにした。
「俺が事前に”揉んで”おいたダンジョンポイントがあるから、まずは使ってみ?」
ぴっ
俺は10ポイントほどのダンジョンポイントをカナのアカウントに転送する。
「!!」
(け、ケントおにいちゃんのダンジョンポイント……!)
(これはもう、愛のちゅーにゅーと言っても過言じゃないのでは!?!?)
(やっべ、鼻血が鼻血が……がまんがまん)
クールな表情の下で、大興奮しているカナちゃんなのであった。
<カナの僅かな表情変化……推せる!!>
<パパの力の秘密が明らかに!?>
<うおおおおっ!?>
コメント欄も加速していく。
俺たちのコラボ配信は、次のステージを迎えようとしていた。




