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第14話

「キーファちゃんねる~♪」


 キーファの甘い声と共に、ぴこぴこ動く狼耳が大写しになる。


「フォロワーのみんな、おはようキーファだよ!」


 そのままカメラはズームアウトし、笑顔で手を振るキーファのシーンへ。


 <今日もキーファちゃんかわいい!>

 <おみみかわよ>

 <あれ、パパは?>


「いまキーファを撮ってくれてま~す。

 今日はリクエストに応えて、ぱぱの強さのひみつを大公開します!

 お楽しみに!」


 映像は無情にもキーファの手持ちカメラの物に切り替わり、配信動画に俺の上半身が映る。


「……大屋ケントだ。

 桜下さんにどうしてもと頼まれたからな!

 こ、今回だけ特別だぞ?」


 俺メインの配信なんて、どこ需要なんだ……わざとぶっきらぼうに言い放つ。

 もちろんキーファの宣伝も欠かさない。


「後でキーファの過去動画も見るように! 絶対可愛いから!」


 <はいはいww>

 <照れてるパパかわゆす>

 <娘の宣伝を欠かさないパパの鑑>


 ぐ……なんかフォロワーに遊ばれてる気がするぞ。


 <ていうかなんだよそのサングラス笑>


 俺がキーファより目立つわけにはいかないからな、ここは譲れないところなのだ。


 今日は桜下プロダクションに移籍後初の配信。

 フォロワーたちから俺のバトルを見たいとリクエストが殺到し、桜下さんの依頼で俺メインでの配信となったわけだ。

 キーファちゃんねるのフォロワー数は50万人を突破……ご祝儀のダンジョンポイントを投げてくれたフォロワーもいたので、お礼もしなくてはいけない。


「ということで~、今日は”メタル・スラッグ”に来ています!」


 <当然のようにAランクダンジョンに来てて草>

 <メタル・スラッグって金属系モンスターが出まくるダンジョンだよな?>

 <せやな、普通は魔法スキルを持ったパーティで来るところのはず>

 <キーファたんもパパも攻撃魔法は使えんくない?>

 <おいおい>

 <金属モンスターには打撃攻撃は効きにくいんだろ? 危ないんじゃ……>


 ざわつくコメント欄。

 フォロワーの中にモンスターに詳しい奴がいるらしい。


「へ~、アイツら魔法が効くのか」


「ほえ~、キーファそのへん詳しくないから……勉強になるね!」


「ああ!」


 <この父娘よwww>

 <……なんでこのふたりはこんなにのんびりしてんの?>


 うぞぞぞぞ……


 フォロワーと雑談をしていると、ダンジョンの奥から金属系モンスターが現れた。

 水銀のような液体金属が流れ出して来たかと思うと、液体の数カ所が盛り上がり人型を成す。


 <メタルパペット!? コイツら動きが速いから危険だぞ!>

 <物理攻撃が効かないんだっけ?>


 盛り上がるコメント欄。

 勉強になるなぁ。


「めもめも」


 愛用のメモ帳に知識をメモするキーファ。

 流石は俺の娘である。


 <ああ。奴らの身体は液体金属だから剣で斬りつけてもすり抜けるだけだし、格闘やハンマー系の武器で攻撃しても液体金属の柔軟なボディが衝撃を受け止めてしまう。

 氷雪系の魔法で凍らせてから砕くか、閃光系の魔法で蒸発させるしかない>

 <なんか物凄く詳しいヤツがいて草>

 <あれ? このアカウントって……”迷宮神技”のトージ!?>

 <マジで!? Sランクランカーがこんな所に!>

 <……バレたか。そりゃこんな興味深いルーキーが出てきたら見に来るだろ? ウチはまだケント君のスカウトを諦めていないぜ?>

 <うおおお!? トージ直々のスカウト? パパスゲェ!!>


『ケントさんはウチ所属ですので……配信内でのスカウトはご遠慮願います』


 <おっと、すまないね凛ちゃん>

 <凛ちゃん×50!?>


『…………(無言でNGワード設定)』


 ……なんかコメント欄が妙な盛り上がり方をしているようだが、トージって誰だ?

 ”迷宮神技”は確か俺にスカウトを出して来たギルドだったような?


「……ぱぱ、ダンジョントゥディくらい読もうね?」


 またもやキーファから叱られてしまった。

 ちなみに、ダンジョントゥディとはダンジョン業界の業界紙である。


「まあいいや、さっさと倒しちまうか」


 今回の配信では、一応俺が主役としてモンスターを倒さねばならない。


「キーファ、アレを頼む!」


「うんっ!」


 俺はキーファに声を掛ける。

 かわいくて天才な俺の娘は、いくつかの補助魔法を使えるのだ。


「ぱぱ、がんばって♡

 てんしょんあっぷ!」


 ぱああああっ


 キーファの魔法が発動し、俺の全身が淡く輝く。


 <お、珍しい! 精神高揚系か>


 テンションアップとは、対象の闘争心を掻き立て攻撃力と敏捷性を増強する補助魔法である。

 ワーウルフの遠吠えを応用した魔法で、使える人間は少ない。


「うおおおおお、キーファ!

 パパ頑張るぞ!」


「いけ~!」


 両手を振り上げて応援してくれるキーファ。

 身体の奥からどんどん力が湧き出てくる。


 <これはアガるな!>

 <魔法効果以上に高揚してそうww>


「よし、いくか!」


 だんっ!


 俺は高揚した気分のままに、地面を蹴った。


 右の拳を振りかぶり、力を込める。


(相手は3体……10ポイントくらいでいいか)


 ヴィイインッ


 右の拳がわずかに光り、ほんのりと熱を持つ。


「くらえっ!!」


 ドンンッ!!


 掛け声とともに突き出した拳は、人型液体金属を粉々に吹き飛ばしたのだった。


 <……は?>

 <うっそだろお前!?>

 <うえええええええええええっ!?>


 その瞬間、なぜかコメントが殺到した。



 ***  ***


 ばしゃっ!


 液体金属が支えを失い地面にまき散らされる。

 しばらくすると、空気中に溶け消えるように消滅した。


「……一応拾っておいた方がいいかな」


 あとに残された魔石を拾い上げる。


「桜下さん、コイツをプロダクションに寄付しますよ!」


 魔石自体には興味はないが、桜下プロダクションの収入になるなら回収しておいて損はない。


『……メ、メタルパペットのコアですよ?

 本当にいいんですか?』


「??」


『分かりました。今回の配信では手数料をサービスしますね』


「!! ありがとうございます」


 言ってみるモノである。

 ラッキーだ。


 <……メタルパペットのコアってレア魔石だよな?>

 <マジで興味ないんだなパパww>

 <んなことより! なんでパンチでメタルパペットを倒せるんだよ!?>


「?? ダンジョンポイントを10ポイントほど拳に込めてぶん殴っただけだぞ?」


 ……そんなに驚く事だろうか?

 もしかして、エフェクト的に地味過ぎたか?

 だが、あまり込めすぎると威力が大きくて危険だし何よりもったいない。


 <……は?>

 <なにそれ怖い>

 <そんなこと出来るなんて初耳なんだが……>

 <えぇ……>


 何故か引き気味のコメント欄。

 ダンジョンポイントはマナ(魔力)の結晶が具現化したものだ。

 ならばソイツのエネルギーを直接使えば、なかなかの威力を発揮できる……こんなの常識じゃないのか?


「……ははぁ、オマエラ、またドッキリだな?」


 先日の配信の時にも思ったが、ウチのフォロワーはすぐキーファや俺を驚かそうとしてくる。

 多分どっかの匿名掲示板で事前打ち合わせをしているに違いない。


「こんなの、キーファも使えるぜ?」


 スラスラ


 都合よく、ダンジョンの奥から金属スライムが現れた。


「ぱぱ、キーファが倒せばいいの?」


「ああ、ダンジョンポイントは人工モノから使うんだぞ?」


 念のため、俺のアカウントからキーファに10ポイントほどのダンジョンポイントを移す。


「うんっ、間違えないようにするね!」


 にぱっと笑ったキーファは、金属スライムに向けて駆け出す。


 ててててっ


「え~いっ、ひっぷあたっく♪」


 ぽみゅっ!


 かわいい効果音(俺が入れた)と共に、お尻を突き出し金属スライムに体当たりするキーファ。


 どかっ……ぱっきいいいいいいんっ!


 充分なダンジョンポイントを込めたキーファのヒップアタックは、金属スライムをあっさりと消滅させたのだった。


 <はああああああああああああああっ!?>


 ワザとらしく盛り上がるコメント欄。

 もうだまされないっての。

 懲りない連中である(やれやれ)。



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書籍版1巻の立ち読みができるようになっています! エモエモなケントとキーファの挿絵も見れますのでぜひっ!
https://over-lap.co.jp/Form/Product/ProductDetail.aspx?shop=0&pid=9784824009722&vid=&cat=NVL&swrd=
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