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第12話

「こんにちは~! キーファだよ♪

 今日は、ぱぱから大事なお知らせがあります!」


 いつもの冒険着に着替えたキーファが、カメラに向かってぶんぶんと両手を振る。


 クマさんのアップリケがついた白いシャツの上にピンク色のジャケットを羽織り、動きやすそうな白いショートパンツからは、ほどよく日焼けしたすらりとした脚が伸びる。


 足元はキーファお気に入りのピンクのスニーカーで、着用者の動きをアシストしてくれる魔石が組み込まれている。


 <今日もキーファたんかわよ!>

 <あれ、少し冒険着変わってる?>


「よくぞ気づいたなオマエ!!」


 ナイスコメントをした視聴者のアイコンをずびしと指さす。

 ついでに投げ銭しておく。


「以前の冒険着でもキーファの可愛さは完成されていたのだが!!」


「えへへ」


 俺の声に合わせ、くるりとカメラに背を向けるキーファ。


「このように!!」


 ふわり、とピンクのリボンがキーファの動きに合わせてハートマークを描く。


「キーファの可愛い尻尾にリボンを取り付けた!

 コイツは魔力を上げてくれるだけじゃなく……キーファの感情に合わせて動く優れもの!」


「ぱぱだいすき♡」


「キーファ……!」


 ぎゅっ


 感極まった俺はキーファを優しく抱きしめる。


 <また始まった笑>

 <だから視聴者に金投げんなwwwww>

 <……初めて来たけどいつもこんな感じなん?>

 <おう、キーファちゃんを褒めると金貰えんぞ>

 <いや、どんな配信だよ……>


 コメント欄もいい感じに盛り上がっているな!


「……そ、そうかな?」


 <ていうかパパ、今日はアンタらの移籍会見だろ? まずは自己紹介しろよww>


「……おっと、忘れていた!

 キーファの可愛さはいくら語っても足りないからな!」


 俺は額に浮かんだ汗をぬぐうと、カメラに向かって立ち上がる。


「かわいいかわいいキーファの父親で、配信者の大屋ケントです。

 趣味はキーファの成長アルバムをつけること、特技はキーファの為においしい料理を作ること!!」


「以上! 桜下さんお返しします!!」


 カメラに一礼する俺。

 まあ、俺のことはこれくらいでいいだろう。


 <パパ、自己紹介の意味わかってなくて草>

 <ただの親バカじゃねーか!>

 <これでクラーケンをパンチ一発なんだろ? 想像以上にやべー奴で草>

 <意外にカッコいいかも……>


 むむ……俺のことなんてどうでもいいからキーファの可愛さをたたえてくれないだろうか?

 そしたら投げ銭してやるのに。


「……申し遅れました、桜下プロダクション代表の桜下 凛です」


 苦笑しながらマイクを取る桜下さん。


 <おお、凛たんじゃないですか!>

 <もう配信はしないの?>

 <アラサー凛たんすこすこ>


 ミシッ……


 桜下さんに対するコメントが書き込まれた瞬間、彼女が座っている大理石製の机にひびが入るのが見えた。

 気のせいか、あの人机を握りつぶそうとしていないか?


「……本日の主役はキーファちゃんとケントさんですので。

 私に対するコメントはご遠慮願います」


 笑顔の桜下さんだが、うっすらと青筋が浮いている。


 <あまりふざけてると成敗されんぞ?>

 <さーせん>


「……只今ご本人から自己紹介があった通り、”キーファちゃんねる”は昨日付で桜下ダクション所属となりました。

 弊プロダクションが提案する配信モデルを説明させていただきます」


 ヴンッ


 桜下さんが手元のPCを操作すると、配信動画が切り替わる。


「ケントさんが主宰する”キーファちゃんねる”は、爽快感と癒しをコンセプトにした新感覚の配信になる予定です」


 軽快な音楽と共に、先日撮影したダーク・アビスでの配信動画が流れる。


「己の拳とスピードを武器に、モンスターをなぎ倒すケントさんが生み出す爽快感……」


 俺がトロなんとかとイカキングを倒すシーンが大写しになる。

 ……これ、マジで恥ずかしいな。

 桜下さんにモザイクかけてもらえばよかった。


 <あいかわらず無茶苦茶で草>

 <パパ動き速すぎだろwwww>

 <ここでトロールに連撃入れてたのか。スローで見ないと分かんねーよww>

 <マジすげぇな……かっけぇ!>


「なん……だと?」


 この俺の探索が、褒められている、だと?

 なんか頬が熱いぞ?


「ちょ、オマエラ! そんなに褒めると恥ずかしいじゃねーか!」


 <照れてるパパ草>

 <【朗報】ドラおじかわいかった>


 コメント欄に抗議するものの、その流れが止まるはずもなく……。


「そう!

 照れてるぱぱは、かわいいんだよ~!!」


 だきっ!


「うわっ、キーファまで!?」


「うりうり~♪」


 <かわいいいいいいっ!>

 <癒されるわ……>

 <この父娘、いいな>

 <”整う”って、こういう事?>


「……このように、激しいダンジョン攻略の後には一服の癒しを用意しています。

 もし楽しんで頂けましたら、ぜひ投げ銭だけでなくダンジョンポイントの方もお願いしますね?」


「二人がどこまで到達できるか、見たくはありませんか?」


 <うおおおおお、さっそくちゃんねる登録するわ!>

 <友達にも勧めよ>

 <うわぁ、こんな暖かい気持ちになる配信ちゃんねる初めて! 絶対応援しますね!>

 <さっそくポイント投げた>


「うおお、すげぇ!」


 桜下さんの宣伝のお陰で、かなりのダンジョンポイント(天然物)を手に入れることが出来たのだった。


「よし! テンション上がって来た!!

 最高なオマエラに視聴者プレゼントを用意するわ!」


 俺はリュックから緑色の魔石を取り出す。


「扇風機代わりに使ってたけど風力が強すぎて押し入れに放り込んでた……ケツァルなんとかの宝玉!

 特別にキーファのサインもつけるぜ!!」


「!? いや、それSレアアイテムですから!!」

 <!? いや、それSレアアイテムだっての!!>


 桜下さんとフォロワーのツッコミが綺麗にシンクロした。


「……あれ?」


 なんか景品法?に引っかかるという事で、視聴者プレゼントは無難にキーファと俺のサイン入りポーションになったのだった。



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書籍版1巻の立ち読みができるようになっています! エモエモなケントとキーファの挿絵も見れますのでぜひっ!
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