第11話
「わーいわーい♪ チーズはんばーぐ♡」
じゅううううっ
あふれ出す肉汁と、とろける北海道産チーズが鉄板で混ざり合い、魅惑の香りを醸し出す。
「はむっ!
ふみゅ~んっ♪」
ハンバーグをひとくちかじり、ルーブル美術館に飾られるレベルの笑顔を浮かべるキーファ。
く、俺の手作りハンバーグはまだまだという事かっ!
「ふふ、実際に会ってみると本当にかわいいですね」
「でしょう!!!!」
1時間後、俺たちは桜下さんと合流し、とある個室居酒屋を訪れていた。
「……改めまして、私こういうものです」
まずはビールで乾杯、チーズハンバーグがあらかたキーファの胃袋に消えたころ、居住まいを正した桜下さんが、胸元のポケットから名刺を取り出した。
「あ、ありがとうございます」
キーファ中心の生活を送ってきて、バイトくらいしか社会人経験のない俺である。
少々オロオロしながら名刺を受け取る。
「キーファと素敵なぱぱです!」
「ふふ、ありがとうキーファちゃん」
そんな俺を尻目に、くまさんポーチから可愛い肉球が描かれた手作り名刺を取り出すキーファ。
彼女はパソコンも得意なのだ。
ああ、可愛くて天才とか俺の娘は最高だな!
己の幸せをかみしめながら、名刺の内容を確認する。
「桜下プロダクション代表……桜下プロダクション?」
どこがで聞いた事のある名前だ。
「……あのねぱぱ、ダンジョン配信の最大手さんだよ?」
「……おお、そうだったな!」
またもやジト目のキーファに睨まれてしまった。
「ふふ、ウチもまだまだ宣伝が足りませんね」
苦笑する桜下さん。
キーファの成長記録なら、分単位で覚えているんだけどな!
「ここからは仕事の話をさせてください」
桜下さんの声色が仕事モードに切り替わる。
「単刀直入に言いますね。
私のプロダクションに、キーファちゃんとケントさんをスカウトしたいです」
まあ、そうだよな。
俺たちとメシを食いに来ただけ、な訳が無い。
「ウチはノルマもありませんし、ケントさんのペースで配信していただいて結構です。それに、手数料は現在ケントさんが利用されている個人向け配信代行業者と同じ……には流石にできませんが、10%で如何でしょう?」
「それは……!」
他のスカウトと比較しても破格の条件である。
「なお、手数料を頂くのは投げ銭についてだけで、ダンジョンポイントに関しては頂きません」
「!!」
桜下さんの言葉に目を見開く。
彼女は……知っているのだろうか?
「……ウチは配信プロダクションの老舗ですからね。
ワーウルフの子が在籍していたこともありましたよ」
「な、なるほど」
腕を組んで考えこむ。
この条件であれば、俺たちにデメリットはほとんどない。
今とほぼ変わらない状態で、桜下プロダクションの集客力を利用できる。
(だが……)
話がうますぎる、とも感じるのだ。
ダンジョンブレイクの後、甘い言葉と共に集まってきた大人たちの事を思い出す。
俺の探索者適性は少々特殊だったらしく、研究対象として……更に珍しいワーウルフの子を保護したとなれば尚更だった。
「……ケントさんもご存じかと思いますが」
考え込む俺を見ながら、言葉をつづける桜下さん。
先ほどまでの真剣な表情と異なり、僅かに悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「投げ銭、ダンジョンポイント共に、収入に対して税金が掛かります。
昨年度と桁が違う収入があったと思いますが、ダンジョン庁の監査は厳しいですよ?」
「う、忘れてた……」
「ウチに所属して頂ければ……様々な優遇措置を利用できます」
「ううううっ!?」
そういえば、浮かれてダンジョンポイントをほぼ使い切ってしまったんだった。
唸る俺に、チャンスとばかりに畳みかけてくる桜下さん。
「それに、ケントさんはキーファちゃんをいい学校に入れたいんですよね?」
「な、何故それを!?」
「キーファちゃんの配信動画はすべて視ましたので」
「神ですか!!」
という事は……俺の願望も把握されているに違いない。
「ウチは探索者養成専門校だけでなく、中高一貫の学院も経営しています。
こちらです」
「うおおおおっ!?」
誰でも知ってるお嬢様学院のパンフレット。
ちなみに制服が超カワイイ。
「私の権限で、キーファちゃんを学院に推薦する事も……」
「……すいません降参です」
これだけの条件を提示され、俺に断るという選択肢は用意されていないのであった。
*** ***
「このせーふく、とってもかわいいね!!
キーファ、着るの楽しみ♪」
パンフレットを嬉しそうに眺めるキーファ。
中学生になったキーファ……もしかしたら叶わないかもしれない、そう思っていた未来が現実のものになりそうで、思わず涙で視界が歪む。
仮契約を終え、個室には穏やかな空気が流れていた。
「ありがとうございます。キーファのことまで考えてくれて」
「ふふ、ケントさんはキーファちゃんのことが本当に大切なんですね」
「宇宙一の娘ですからね!!!!」
「私も全力でサポートさせていただきます。
ウチとしてもメリットが大きいですから」
俺の事情、キーファの事情……気になるところは多いはずだが、必要以上に詮索されない事もありがたい。
……まあ、桜下さんの調査能力なら既にある程度知られてそうだが。
「私も一安心です。ここからは遠慮なく飲みましょう!」
どんっ!
行きつけの店なのか、焼酎のキープボトルを取り出す桜下さん。
この人……イケル口だな?
「キーファのおねむ時間は21時ですから、そこまでという事で」
「……あとはおとなで、ごゆっくり?」
「この子は! どこでそんな言葉を覚えたんだ!」
むにむにむに
「あうあうあう」
「!? カワイイ……これはお酒が進みますね!!」
何かスイッチが入ったらしい桜下さんにしこたま飲まされ、キーファのおねむ時間が1時間遅れてしまうのだった。
ここまで読んで頂き、本当にありがとうございます。
移籍を決めて、パパとキーファの配信無双が始まります!
「面白い」「応援したい」と思っていただけましたら、【ブックマークに追加】を押してくれるとうれしいです!
また、作品下部から【☆】のボタンを押して応援して頂けるとさらにさらに嬉しいです!
どうかよろしくお願いします!




