第106話 エピローグ
「たっだいま~!!」
「ただいま」
元気な愛娘たちの声が、玄関から聞こえてくる。
「おかえり、キーファ、シリンダ」
「ねえねえぱぱ! 舞人くん起きてる?」
「……先手必勝」
「あっ、ずるいシリンダちゃん!」
リビングに入って来るなり、ランドセルを放り投げてベビーベッドに突撃する二人に苦笑してしまう。
「ミルクはさっき飲ませたから、お昼寝時間まで遊んでやってくれ」
「はーいっ!」
「んっ」
一瞬早くベビーベッドの傍に立ち、ウェットティッシュで両手を拭いたシリンダがベビーベッドから男の赤ちゃんを抱き上げる。
彼の名前は大屋舞人。昨年誕生した大屋家の長男である。
「じゃあ、キーファは尻尾で……ほら、舞人くん! キーファお姉ちゃんですよ!」
きゃっきゃっ
シリンダに抱かれ、キーファの尻尾をにぎにぎしてご満悦の舞人。
尊過ぎる光景である。
(キーファもシリンダも、もうすぐ中学生か)
あのUGランクダンジョンでの最終決戦から、三年の月日がたっていた。
最初はぎこちないところがあったものの、すぐにシリンダと俺たちは打ち解け、4人での楽しい生活が始まった。
何とかギリギリ単位が足りて、無事高校を卒業したカナと俺は、春休みに結婚式を挙げた。
スノウデルさん一家に統次さんに玄武さん。
タリアにアリアタちゃん、そのほか大勢の世界ランカーたち。
もちろんじいちゃんに桜下さんも。大勢のVIPが集まった俺たちの結婚式は、大きなニュースになってしまった。
数十万のフォロワーに祝福され、正式に夫婦になった俺とカナはしばらくじいちゃんと桜下さんを手伝い、世界各地のダンジョンの復旧支援に従事した。
そのうち俺とカナの間に長男である舞人を授かり、今に至る……というワケである。
「えへへ、せーふく楽しみぃ!!」
一通り舞人と遊んだ後、自室のクローゼットから真新しい制服を持ってくるキーファ。白と赤を基調としたブレザータイプの制服……キーファとシリンダが入学予定の桜下総合探索者学園探索者養成課程の制服である。
「間違いなく、初年度から制服モデルに選ばれるだろうな!!」
「えへへ」
小学校6年生になったキーファは大きく成長し、カナに似てすらりとした体躯はスタイル抜群。
あと数年もしたら、グラビアモデルもかくやの完璧ボディになるだろう。
少し伸びた銀髪と、あどけなさを残す童顔と相まって、世界は可愛いの閾値を十段階くらい改定する必要がある!!
「ボクはねえさんほど豊満じゃないけど」
キーファに対抗するように制服を持ってくるシリンダ。
彼女はキーファと比べて身長は低いが、長い手足と艶やかな黒い長髪が特徴である。
全体の雰囲気としては、シリンダの方がカナに似ているだろうか。
長めのスカートに、シックな黒タイツ。
元気いっぱい天真爛漫なキーファと比べ、清楚成分マシマシなのがシリンダだ。
お清楚ボクっ子というギャップも最強である。
「とうさんがあと五分はやくボクを見つけてくれていたら、ねえさんに発育で負けなかったんだけど、残念だよ」
「ぐえっ!?」
シリンダが俺をいじる鉄板ネタが飛んで来た。
ニヤニヤと笑みを浮かべていて全然本気ではなさそうだが、この言葉を聞く度に申し訳なくなる。
「そのかわり、ボクは舞人くんを貰うから。ふふ、シリンダお姉ちゃんの尻尾は最高でしょ?」
さわさわ
きゃううううっ
シリンダのつやつや尻尾に抱き付き、恍惚の表情を浮かべる舞人。
……舞人のヤツ、大丈夫だろうか。重度の尻尾・亜人族フェチにならないか心配になる。
「ずるい! キーファも立候補するんだから!」
「……ねえさんはグレンの方を見てやりなよ」
「????」
「なんていうか、そういう所とうさんそっくりだよね」
さ、さて。後は我らが大屋家最強メンバーの紹介が残っているのだが……。
ずずんっ
「出来たぁ!!」
僅かな振動と、涼やかな女性の声が聞こえた瞬間、俺は愛娘たちに指示を飛ばす。
「耐爆防御!!」
「ダンジョンポイントシールドっ!」
「……バリヤー」
フイイイインッ
キーファとシリンダの前に、光の壁が出現する。
ダンジョンポイントのエネルギーを利用したシールドで、あらゆるダメージから部屋全体を護ってくれる。
ごごごごごっ
キッチンから巻き起こった爆風が、シールドに跳ね返って渦を巻く。
「ふぅ、間に合ったか……」
額に浮かんだ汗をぬぐう。
「今回はサンドウィッチだから助かったものの、カレーとかの煮込み料理だとヤバいな……もうちょいキッチンの壁と床を補強すべきか。抹茶ドラゴンの素材がもう二体ほど必要だな」
「ドラゴンさん倒しに行くの? それならキーファが行くぅ!」
ぴょんっと飛び跳ねるキーファの世界ランクは第18位。ちなみにダンジョンポイントを纏わせたキーファぱんちは抹茶ドラゴンくらいならワンパンである。
「相変わらずボクの家族の会話、異次元で草」
かくいうシリンダの世界ランクは22位。ダンジョンポイントエネルギーを射出する銃を得物とする彼女は集団戦を得意としており、倒したモンスターの数では世界トップに肉薄する。
「こら~! みんな大げさすぎだってば!!」
煙渦巻くキッチンから現れたのは、青みがかった黒髪が美しい赤い瞳の超絶美女。
長い手足に抜群のスタイル。
ピンク色のくまさんエプロンですら完璧に着こなす、俺の最強お嫁さん……大屋カナである。
世界ランキングは堂々の3位、21歳にして世界最強の魔法剣士である。そして可愛い可愛い俺の自慢の嫁だ!
「は、はうううううっ、恥ずかしいよケントおにいちゃん!」
おっと、途中から声に出ていたか。
完成したサンドウィッチをテーブルに置いたカナは、顔を真っ赤にしてつむじから湯気を噴き上げる。
「事実を言っただけだからな。愛してるぜ、カナ」
ちゅっ
桜色の唇に、優しく口づける。
「わたしも愛してる! あなた♡」
「くうっ!?」
結婚から三年を経ても、俺たちはラブラブだ。
「はぁ、朝からごちそうさま」
「あはは、弟か妹が増える日も遠くなさそうだね」
「ねえさん、昼ご飯のあと出かけない? 娘として配慮が必要でしょ」
「はうううぅぅ、シリンダちゃん!?」
更に真っ赤になるカナ。
「ああ、いいなぁ」
幸せな光景をうっとりと眺める。
俺たち最強家族の伝説は、まだまだ始まったばかりである。
「よし、昼飯食ったらダンジョンに行くか!」
「……まさかのダンジョン内プレイ?」
「ちっが~うっ!」
「あははははっ!」
食卓に、笑顔の花が咲く。
俺は配信機材の準備をしながら、カナ特製のサンドウィッチを堪能するのだった。
第一部、完
===== あとがき =====
皆さま、ここまで読んでいただきありがとうございます。
一旦ケントたちの物語としては、ここで一区切りという事で。
もちろん続きの構想もあるのですが、少しお時間を頂きたいと思います。
書籍版も三巻が発売され、物語も佳境に差し掛かっています。
三巻が売れれば続刊、第二部の可能性も高まりますので、
なにとぞよろしくお願いします!!
↓書籍版のご購入はこちらからどうぞ!
https://www.amazon.co.jp/dp/4824012600/ref=nosim?tag=overlapofficial-22
https://books.rakuten.co.jp/search?sitem=4824012600
なっくる