第104話 ラストバトル(その3)
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ!!」
断末魔の悲鳴にも似た、絶叫を上げるリヴァーサ。
どう見ても普通ではない。
「カナ!」
「はいっ!」
リヴァーサを中心に拡がり始めた闇の(?)マナから距離を取った俺とカナは、キーファとシリンダの傍に移動する。
「あ、あれは……まさか!」
周囲を侵食していく深い闇を見て、目を大きく見開き狼耳と尻尾を立てるキーファ。
(そういえば)
キーファは俺の娘であると同時に『向こうの世界』から転生して来た存在だ。何かを感じ取っているのだろうか。
「……まずい、世界が割れる」
「え?」
ぼそり、とシリンダがつぶやいた瞬間。
グオオオオッ!?
リヴァーサの前にいた何たらデーモンが闇に呑まれる。
ぶわあああああああああっ!
フライパンに氷を落としたときのように、一瞬で溶け消えるデーモンの下半身。
同時に闇の広がる速度が一気に加速した。
「ちっ!」
急いでケントキャノンを闇に向けて放ったのだが……。
バシュウッ!
ダンジョンポイントのスパークは一瞬闇のマナを吹き払うものの、その勢いを完全に止めることは出来ず、数秒後には波のように染み出してくる闇のマナに上書かれてしまった。
「無駄だあ”あ”あ”ああああっ! ニンゲンごときのマナ量でごのヒジュツがあああああっ!!」
狂気を孕んだリヴァーサの絶叫が辺りに響く。
リヴァーサの姿は万華鏡をのぞいた時のようにぶれ、歪み、闇のマナと一体化しようとしている。
ビシッ!
次の瞬間、リヴァーサの背後の空間に大きな亀裂が入り、ヤツの足元の地面がぐにゃりと大きくへこむ。
まるで鍋の底が抜ける前兆かのようだ。
「くっ、どうする!?」
リヴァーサはどう見ても普通じゃない。
リヴァーサとジルを捕らえてじいちゃんたちに引き渡してやりたかったが、とても無理そうだ。全力のダンジョンポイントビームを放ち、奴らごと闇を吹き飛ばす手もある。
(だがっ)
それが何かを、『割って』しまったら?
何しろ、適度な加減が出来ない脳筋な俺である。
やりすぎてしまうリスクが常にある。今の状況では危険が大きすぎると感じるのだ。
(キーファたちを連れて、いったん退却するか?)
じいちゃんや桜下さんと合流して、改めて奴らと対峙する。
キーファたちも消耗しているだろうし……一瞬そんな考えが脳裏をよぎる。
『まかせて!!』
「……えっ?」
その時、元気なキーファの声が脳内に直接聞こえた。
何ごとかと振り向くと……。
「なあっ!?」
「キーファちゃん、シリンダちゃん!?」
ウオオオオオオオンッ
グオオオオオオオンッ
光の神狼と闇の魔狼。
二人が、また狼に変身している!?
「ま、待てキーファ! そんなことをしたら!」
慌てて変身中のキーファの元に駆けよる。
保護したキーファは、リヴァーサに無理やり変身させられていせいで大きく消耗していた。
もう一度変身してしまえば、最悪キーファの寿命の元であるライフポイントを使い果たしてしまう危険も……!
『ううん、大丈夫なんだ!』
『ね、シリンダちゃん!』
『……んっ、ステータスを確認して』
「ス、ステータスを?」
キーファとシリンダの声に従い、キーファのステータスを開く。
そこには……。
「えっ?」
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氏名:大屋 キーファ
年齢:8歳
種族:ワーウルフ
LP:786日
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キーファが罹っているマナ欠乏症。
彼女の寿命を縛り、呪いのように彼女を縛っていたライフポイントというステータスが。
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氏名:大屋 キーファ
年齢:8歳
種族:ワーウルフ
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「き、消えた!?」
信じられない現象に、思わず声を上げる。
まさか、マナ欠乏症が……治った、のか?
『えへへ、シリンダちゃんと仲直りしたキーファは、無敵なんだよ!!!』
ぱああああああっ!
変身を終えたキーファの全身から、まばゆい光が立ち上る。
『ねえさん、少し眩しいよ』
ずおおおおおおおっ
同じく変身を終えたシリンダからも、黒い光が拡がる。
だがそれは、夜明け前の闇のようにどこか落ち着く光で。
しゅいいいいいいんっ
二人が放つ光が、優しく混じり合っていく。
『ここに、ぱぱたちのぱわーを加えれば!』
「……そうか!」
キーファの光に、シリンダの闇。
そこに俺とカナのダンジョンポイントアタックを加えれば!
「まさに、超無敵!!!!」
「大屋家脳筋アタックという事ですね!」
「いや、なんだよそのネーミング」
相変わらずネーミングセンスのないうちの嫁をチョップする。
そのままリヴァーサに向けて向き直る俺たち家族。
「行くぞっ!」
「「うおおおおおおおっ!」」
『『やあああああああああっ!』』
俺とカナ、キーファとシリンダが発するエネルギーは、干渉することなく混じり合い、大きな光のうねりとなる。
「いっけえええええええええっ!」
どばあああああっ!
光の奔流は、こちらに向けて拡がろうとしていた闇のマナを押し返す。
ずうううっ
上半身だけ残っていた魔神とリヴァーサ、ジルを包み込んだかと思うと。
ぼこんっ!
空間の凹みに呑み込まれ、栓を抜いたバスタブの水のように吸い込まれて消えた。
「……やった、のか?」
十秒待っても、二十秒待っても、何も起こらない。
「……一発殴ってやるつもりだったのにな」
ぽつりとつぶやくカナ。
急を要する事態だったとはいえ、リヴァーサと一緒にカナの元義父であるジルも消えてしまった。
「……カナ」
何とも言えない表情をしたカナの肩をそっと抱いてやる。
「えへへ、大丈夫ですから」
色々な思いはあるだろうが、にっこりとほほ笑んでくれるカナ。
こうして、俺たち家族の戦いは幕を下ろしたのだった。
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