第102話 ラストバトル(その1)
「…………う」
全身を苛んでいた激痛が、いつの間にか消えている。
永遠に続く悪夢を見ていたような気がする。
ゆっくりと意識が覚醒していく。
UGランクダンジョンの最奥に連れてこられたキーファは、敵の大ボス……ダークエルフのリヴァーサと対面した。
自分とシリンダちゃんを使ってこの人は何かとんでもない悪だくみをしている。
そう直感したキーファは、敵の術に掛ったふりをして敵の目的を調べることにした。
(居たことのある……世界)
これは……キーファたちが、元居た世界。つまり転生元の世界だ。
その気配を感じ取った時、ぱぱとカナおねえちゃんと、シリンダちゃんが戦闘状態に入ってしまう。
慌てて防御に回していた力の一部を使ってぱぱに呼びかけた。
キーファの想いはたぶん届いたと思うけど……さらに強力な術がリヴァーサから掛けられ、気を失ってしまう。
「……あれっ?」
あれからさほど時間は経っていないはず。
鉛のように重いまぶたを開けると、最初に見えたのはヒトの手。
少し日焼けした、ほっそりとした右手。
頭を反対側に動かすと見えた左手には、お気に入りの水色のブレスレット。
見間違うはずがない。自分の手なのだから。
「変身が、解けてる?」
敵さんの術で、自分は無理やりオオカミさんに変身させられていたはずだ。
いつの間に変身が解けたのだろう?
ゆっくりと首を横に向けると、ピンク色のスニーカーが見えた。
「あれれっ?」
くまさんマーク入りの、お気に入りのスニーカー。
自分が履いていた分は、オオカミに変身した時に壊れたはずなのに。
「……ねえさん、気が付いた?」
「!?!?」
がばっ!
頭上から聞こえた声に、思わず飛び起きる。
「ん、大丈夫そう」
相変わらず無表情だけれど、僅かに口角が上がっている。
少し外はねした、艶やかな黒髪に大きな青い瞳。
なにより、自分と同じふわふわの狼耳の先は、少しだけ白銀に輝いている。
「シリンダちゃん!!」
たった一人の、血を分けた家族。
自分の双子の妹である、シリンダちゃんだ。
「シリンダちゃんが、助けてくれたの?」
ぱぱたちと和解して、急いで駆けつけてくれた?
「ん、むこう」
シリンダちゃんのほっそりとした指が、ダンジョンの奥を指さす。
「!!!!」
キーファが見たのは、今一番会いたかった二人の姿だった。
*** ***
「うらああああああああっ!!」
どんっ!
同時に襲い掛かってきたグランキメラ二体をまとめて吹き飛ばす。
「こんな雑魚モンスターで、俺たちを止められると思うなあっ!」
「いやいやケントおにいちゃん、AAランクモンスターですからねそいつっ!」
ざんっ!
そんなことを言いながら、俺の背後に現れたトロールを一刀両断するカナ。
「さすが俺の可愛い嫁さんは、頼りになるぜ!」
「はううううっ!?」
真っ赤になるカナはとても可愛い。
「愛娘たちも助けたし、一気に押し切るぞ!」
「はいっ!!」
幾らでも力が湧いてくる。
「一気に決めてやるぜ1」
キーファとシリンダを拘束していた謎魔法の網を、力技で破壊した俺たち。
その時点でキーファは消耗しきって気を失っていたが、力を残していたシリンダがマナをたっぷりキーファに分け与えてくれた。
変身を解いた二人に着替えを手渡し、俺とカナは黒幕っぽいダークエルフの女と対峙した。
リヴァーサと名乗ったそいつの能力は、じーちゃんから聞いていた。
純粋な戦闘能力は大したことないが、魔術と呼ばれる変わった魔法を使うという。
モンスターの召喚も得意であり、現に数十体のモンスターが俺たちに向かってくるが……。
「ケントキャノン、省エネモード!!」
ぶうううううんっ!
俺の頭上に現れた数十個の光の玉は、モンスターどもに向かっていき……。
ずっどおおおおんっ!
その全てを打ち倒した。
「いやまたなんか、すっげーチートを見たんですが!」
「いやぁ、いままでのダンジョンポイントビームとかは少々オーバーキルぽかったじゃん?
ちょっと節約してみたわけよ。消費ポイント数、50%オフくらいかな」
「うちのダンナさんが雑に無敵すぎて草です!!」
カナといつものやり取りをしている間に、立ち込めていた煙が晴れた。
残っているのはリヴァーサ一人。
傍らには、気絶しているらしきジルも倒れている。
俺たちの娘を攫い、世界中のダンジョンを破壊した。
なるべくなら捕縛して、法の裁きを受けさせたいが……。
「………………ふっ」
焦りの表情を浮かべていたリヴァーサが、どこか吹っ切れたような壮絶な笑みを浮かべた。
書籍版第3巻、7月25日発売です!
是非書籍版も楽しんでいただけますと幸いです。
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