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第101話

 ウオオオオオオオオオオンッ

 グガアアアアアアアアァッ


 苦悶の叫び声をあげ、のたうつ二頭の狼。

 地面に描かれた赤い魔方陣が耳障りな音を立て、光の網が狼となったキーファとシリンダを覆っていく。


 ガキッ、ガキンッ!


 赤い光の網を食い破ろうと噛みつくシリンダだが、消耗した彼女の力では拘束魔術を破ることは叶わない。


「フェーズ3、術式発動!!」


 キイイイイイイイイインッ!


 縦穴に蓄積したマナを使い、複雑極まりない術式を起動するリヴァーサ。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴッ


 神狼を中心に広がっていた魔方陣が宙に浮かび、縦穴の上に移動する。


 ヴイイイイイイイイイイインッ


 膨大なマナが魔方陣に吸い上げられ、空間そのものが歪んでいく。

 同時に、高次元に圧縮された魔術空間の向こうから、ほの暗い波動が伝わってくる。


「……ああっ」


 ぞくり、と悩ましげに全身を振るわせるリヴァーサ。

 始祖にしてやられてから数十年……片時も忘れずに熱望し、求め続けた我らの世界。

 今こそ取り戻すのだ。我らの悲願が完遂した暁には、始祖どもは多重魔装次元の彼方に消え、我らの時代が始まるだろう。


 ブウウウウウンッ


 だが、魔方陣の明滅が弱くなっていく。

 蓄積したマナの量が僅かに足りないのだ。


「大丈夫よぉ、こちらには【贄】がいるのだから」


 神狼に魔狼。

 太古の伝説にうたわれた神に繋がるワーウルフの双子。

 こいつらが持つマナを搾り取れば……最終発動に必要なマナは賄える。


「はは、はははははははっ!!」


 まるで果実から果汁を搾り取るかのように。

 リヴァーサはキーファとシリンダを捕らえた光の網を絞り込んでいく。


 リヴァーサは、悲願の成就を確信していた。


 ***  ***


(失敗した……失敗した!!)


 全身を苛む激痛に、シリンダは自分の作戦が失敗に終わったことを悟っていた。


(リヴァーサは、最初から私たちを解放する気なんてなかったんだ)


 今リヴァーサが発動させたフェーズ3は、恐らく次元の壁に穴をあける魔術。

 神狼ねえさんを触媒に集めた莫大な魔力とマナ。

 それでも足りないとリヴァーサは言っていた。


 ケントとカナを利用するつもりだったのか、あのジルという男を使うつもりだったのかは分からないが

 不測の事態に備え、自分たちを使うプランもあったはずである。


 ガキッ、ガキインッ


 何度光の網に噛みついても、魔力の過半を消耗した今の自分では破ることが出来ない。


 しゅうううっ


 それどころか、全身から力が抜けていく。

 体内に残されたマナが、光の網を通じて魔方陣に注入されていく。


(いけないっ!)


 自分よりさらに消耗していたねえさんは、自分より衰弱するスピードが速い。

 ねえさんから感じる鼓動が弱くなっていき、それだけではなく全身が縮み始める。

 変身が解けようとしているのだ。人間形態に戻った瞬間、すべてのマナを抜き取られ、命が尽きてしまうだろう。

 何とか身体を動かし、ねえさんの身体に触れる。


 ふいいいんっ


 自分のマナを分け与えるが、焼け石に水。


 あと数分もすれば、自分のマナも尽きてしまうだろう。


(ケント、カナ……!)


 何とかダンジョンアプリを操作してケントに連絡を取ろうと試みるが、狼に変身した状態でスマホを操作するのは無理だ。

 かといって変身を解けば、その瞬間に自分の命は尽きてしまうだろう。


(あああっ……助けて!!  とうさん、かあさんっ!!)


 シリンダがそう願った瞬間……。



 ***  ***


 === UGランクダンジョン、下層部


「……くっ!?」


 きゅぴーん!


 シリンダの指示通り、気持ちゆっくりと先を急いでいた俺たち。

 もうすぐ最下層部だと思わしき小部屋の中で、俺は何者かの叫びを聞いた。


「……はっ!?」


 隣を見れば、カナも全く同じ表情をしている。


「カナも聞こえたか?」


「はいっ!」


 はっきり言葉として認識できたわけじゃない。

 だが、シリンダが……俺たちの新しい家族となった女の子が。


「わたしたちに、助けを求めている!」


「ああっ!」


 そして、そこにキーファもいる!


「ここのフロアから50メートルほど下層に、巨大な空洞があるようですっ!」


 スノウデルさんが共有してくれた、最新のUGランクダンジョンマップ。


「恐らく、そこだな」


 そこに俺たちの愛娘と、敵の親玉がいる。


「なら、やることは一つ!」


「脳筋ショートカットですねケントおにいちゃん!!」


「お、おう」


 至極まっとうで効率的なダンジョン探索方法のはずなのだが……やはりこの方式は脳筋なのだろうか。


 きいいいいいいいいいいんんっ!


 俺は両手を組み、頭の上に上げる。

 膨大なダンジョンポイントのエネルギーが、俺の拳に収束していく。


「わたしが必要なエネルギー量を計算します!」


「頼む!」


 最下層部には敵の親玉、リヴァーサとキーファ、シリンダがいるはずだ。

 フロアごと破壊するわけにはいかないので、慎重なエネルギー量の調整が必要だ。

 複雑な計算は、頼りになる俺の嫁が担当してくれる。


「出ましたっ!」


 しゅばっ!


 カナの日本刀が煌めき、地面に大きな印をつける。


「この角度で、この大きさ……必要なダンジョンポイントは、57万7833!!」


「了解だっ!」


 カナの指示に従い、正確にダンジョンポイントのエネルギーを調整する。


「キーファ、シリンダ!! 今パパとママが助けに行くぞ!!」


 どんっ!


 裂帛の気合と共に、光り輝く拳を地面にたたきつける。


 ずっ、どおおおおおおおおんっ!


 その瞬間、ダンジョンポイントのエネルギーがスパークし、縦穴が最下層部に向けて拡がっていく。


「カナっ!」


「はいっ!」


 俺はカナの手を取ると、躊躇なく縦穴に飛び込んだ。



 ***  ***


(……あっ)


 信じられなかった。

 通信機器も使えず、念話の魔法も使えない自分。


 ただ強く願っただけなのに。

 自分を愛すると誓ってくれたとうさんとかあさんが。


「シリンダ! 助けに来たぞ!!」

「シリンダちゃん! キーファちゃんを守ってくれてありがとう!!」


 ダンジョンの天井をぶち抜き現れたのだ。


「ば、馬鹿な!? あの位置から一撃でここまで貫いただと!?」


 驚愕の叫びを上げるリヴァーサ。


「そこかっ!」


 そんなリヴァーサの様子には目もくれず……。


「超秘儀っ!! 神速円斬・限界突破モード!!」


「うおおおおおおっ!! ケントキャノン・零式!!」


 ばっきいいいいいいいいいいいんっ!!


 ケントとカナの放った不思議な攻撃は、シリンダとキーファを拘束していた光の網を粉々に打ち砕いたのだった。


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