第五話
澄香と別れた拳志は公園の入り口である階段の前に来ていた。
未だ、日が暮れるには早く、明るい時間にも関わらず人気はなく、時折車が通るだけだった。
拳志は公園へと続く階段を登る前に周辺を調べる。
「入り口付近には何か仕掛けの跡は無し…か。そうなると、人為的なものであれば一定数登ると作動すると仕掛けが作動して足元を斬るような罠があるか…本当に鎌鼬が現れるか…」
実のところ、拳志は桜華の話を全て信じたわけではなかった、河童との邂逅もあり他の妖怪の存在も捨てきれないが、人間の仕業の可能性も考えていた。
「桜華が引っかかったのはブービートラップの一種でインクを仕込んだ糸を引っ掛けさせ痛みと出血に見せかければ、斬られて出血したと誤認させることも出来る…か?本人がパニックになっていれば充分か…。目的は驚かせることで、怪我をさせる意図がなければ、あの状況も不思議ではない…」
そこまで考え、拳志は足元を警戒しながら階段を登り始める。
階段を半分ほど登ったところで拳志は階段の違和感に気付く。
「これは…ピアノ線か?」
階段の白い石段に同化して這うようにピアノ線が引かれており左側の木の低い位置にくくり付けてあり右側へは、草むらの中にピアノ線が伸びていた。
拳志がピアノ線を手に取り草むらに伸びている方を強く引っ張るとメガネをかけ、痩せた男が引きずられるように飛び出してきた。
拳志は男の襟首を掴みそのまま持ち上げると尋問を開始する。
「お前が鎌鼬の犯人か?隠し立てするなら容赦はしないが?」
拳志は冷めた目で問いを投げると男は慌てた様子で言葉を返す。
「ヒィッ!違うんだ!俺は、ただ肝試しに来る迷惑なヤツを噂を利用して驚かせて追い返そうとしてただけで…!」
「いつからやっていた?」
「き、今日からだ!」
拳志は男の返答の真偽を図りかね、澄香にも協力してもらうか、思案しようとした瞬間にゾワリと背筋が凍るような感覚に陥り、瞬間的に男を草むらに投げ込み、拳志は、その場から飛び退くと、直前まで拳志と男がいた空間を刃物が円を描くように空気を切り裂いた。
「チッ、本物もいたか…。おいアンタ、死にたくないなら俺が時間を稼いでる間に逃げろ、そしてここで起こしたことは忘れて二度と来るな。」
拳志は男を横目で睨みながら告げると男は首をブンブンと縦にふり、あっという間に逃げていく。
「よお、鎌鼬[仮]さんよ、先日、女の子の足を斬ったそうだな…申し開きはあるか?」
拳志は階段の上を見上げると、日本刀のようなものを構えたサムライが立っていたのだった。