第四話
桜華から奇妙な話を聞いた日の放課後、その日の授業が終わり、氷川拳志は1人、になると雇用主である八雲澄香に連絡を取る。
数コールの後、澄香が眠そうな声で応じる。
「…はい、八雲探偵事務所」
「澄香さん、氷川です。友人から気になる話を聞いたので、連絡したんですが。」
「気になること…ふむ、聞かせてみろ。」
俺は桜華の体験した出来事をそのまま説明する。
話を聞いた澄香はしばらく考えこんでいるのか、小さな声で唸ると、話だす。
「氷川よ、話を聞くかぎり、鎌鼬である可能性が1番高いのだが…。」
「ええ、自分もそう思っていたんですが…違うんですか?」
「ああ、状況からして三匹の兄弟の鎌鼬が一匹目がまず人を転ばし、次に二匹目が傷付け、そして三匹目薬を塗るともいわれて傷跡が残すことはないある意味凶悪3連コンボをかますタイプの鎌鼬のようだが、怪我が治るまでのタイムラグがありすぎる、三匹ではなくまるで二匹だけか、あるいは単独のスタンダードな鎌鼬の可能性もあるが、元来、単独の鎌鼬は斬るだけ斬って逃げる通り魔みたいな奴でわざわざ傷を治すとかいう話は聞いたことがない」
電話越しの澄香はそこまで言うと再度考え込む。
「澄香さん、とりあえず鎌鼬かどうか判断するには情報が足らないということで、ひとまず俺が現地に行ってみます。」
そこまで言って電話を切ろうとすると、澄香が待ったをかける。
「まあ待て氷川、現地に行く前に一度私と合流しろ、渡しておきたい物がある。万が一にも斬られた箇所が悪くて死なれたらかなわん。」
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俺は一度、普段から人気のない校舎裏門へと移動してしばらくすると全体的に丸みを帯びたSUVに乗った澄香が現れる。
「待たせたな氷川、まずは制服の下にこれを着ていけ」
そう言って澄香は白色のベストと同色のレギンスのような物を手渡す。
「これは防刃ベストと防刃レギンスだ、いかに妖怪だろうと実際に肉体を斬るということは物理的に刃物が存在するという事……。つまり物理的な防御が効くということだ。そしてこの防刃ベストとレギンスはスペクトラ繊維という細かい糸で編まれたもので刃物による斬撃に対して有効な防具だ、鎌鼬はやってこないだろうが、針やツルハシのような先のとんがったものによる刺突に弱いから気をつけるように」
「わかりました…それでは」
俺は手早くベストとレギンスを着込むと丘の上の公園へと向かうのだった