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第三十五話

木度町の夕暮れは静かで、どこかもの寂しい雰囲気を漂わせていた。氷川拳志は柔道部から稽古をつけてほしいと頼まれ、数時間汗を流した後、薄暗い帰り道を歩いていた。肩を軽く回して疲れをほぐしながら家路についていたが、ある瞬間、小高い丘の上にある公園へと続く階段に視線が引き寄せられた。

そこは以前、鎌鼬擬のサムライの亡霊を倒した場所だった。あの戦いの記憶が鮮明に残るその場所を眺めると、表面上は何の異変もないように見えた。木々が風にそよぐだけの平凡な夕暮れ。しかし、拳志の本能が何かを感じ取っていた。胸の奥でざわめく違和感――戦士としての勘が危険を訴えていた。

拳志はその感覚に従い、階段を登り始めた。足音が石段に響き、警戒心を高めながら公園にたどり着くと、薄暗い木々の間に二つの人影が浮かんだ。一人は見知った顔、外立桜華。そして彼女と対峙するのは、日本人離れした顔立ちの男だった。

桜華は普段の快活さとは程遠い姿だった。巫女服はボロボロに裂け、露出した素肌には細かい傷が無数に刻まれていた。一方、男は彫りの深い顔に不自然な笑顔を張り付け、背を高くして立っていた。その笑顔は感情を欠き、不気味さを漂わせていた。

拳志がその光景を捉えた瞬間、桜華の視線が彼に絡んだ。彼女の瞳が驚きに見開かれたその刹那、男が動いた。瞬間的に桜華との距離を詰め、右手を鋭く突き出す。その動きは速く、拳志が反応する間もなかった。男の手が桜華の腹部を貫き、鮮血が巫女服を染めた。桜華の体が揺れ、膝から崩れ落ちる。

「桜華!」拳志の叫びが公園に響いた。彼は反射的に動き、截拳道の技を繰り出した。男に向かって突進し、拳と肘を連続で浴びせる。鋭い打撃音が空気を切り、不意を突かれた男は数発を食らった。だが、その顔の笑顔は崩れず、痛みを感じていないようだった。男はよろめいた後、拳志の次の攻撃をかわし、影のように木々の間に消えた。

拳志は追おうとしたが、すぐに桜華の元へ駆け寄った。彼女は地面に倒れ、腹部から血が流れていた。拳志が膝をつき傷を確認しようとしたとき、驚くべきことが起きた。桜華の腹部の穴が徐々に小さくなり始めたのだ。血が止まり、傷口が塞がっていく。拳志は目を疑い、言葉を失った。

「ひ……ひーくん……?」桜華の声が弱々しく響き、目がゆっくり開いた。意識が戻った彼女は拳志を見て小さく微笑んだ。だが、拳志は驚愕に固まっていた。「お前……何だよ、これ……?」


拳志の頭は混乱していた。桜華の腹を貫いた傷が消え、彼女が息を吹き返した事実は理解を超えていた。様々な格闘技や武道を嗜んできた身として数々の戦いを経験してきたが、こんな現象は初めてだった。彼は桜華の肩を支え、そっと起こした。

「桜華、大丈夫か? あの男は何だ? そしてこの傷、どういうことだ?」拳志の声は低く、冷静さを取り戻そうとしていた。桜華は息を整えながらかすかに笑った。「ひーくん……びっくりしたよ~。あの人、速かったねえ、でもね私、ちょっとじゃ死なないから。」


「そんなことはいい、とにかくお前の体について話して欲しい。」


「うんひーくん順をおって話すよ。」


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