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第二十二話

情報屋からの帰り、電車の中で拳志は情報屋の紫陽花の桜華を[人形のような存在]と表現した言葉を反芻していた。


「ひーくん、どうかした?」


そんな様子の拳志に気付いた桜華が話しかけてきた。


「ん、いやな、あの紫陽花という情報屋から意味深なことを言われてな。」


「ああ、紫陽花さんはよく遠回しな言い回しするからね〜、それで?なんて言われたの?」


桜華は興味津々といった感じで拳志へと視線を向ける。


「ん、そこは黙秘権を行使させてもらおう、自分でどうにかしないとダメなことだしな…ときに桜華よ、澄香さんを串刺しにしたときのあの動き…からくりはどうなっているんだ?狙いが俺だったら対応出来なかったかもしれん。」


「…絶対無理って言わないあたり、ひーくんすごいなって思うよ、まあ答えはシンプルに神通力による運動能力のブーストだね、ちなみにわたしの中にある神通力が膨大だからできることだから、他の神社の神主や巫女さんは中々出来ないよ」


「なるほど…いやすごいな、あの速度で発勁でもされたらと思うとゾッとするな。」


「そこでそういう発想が出てくるのひーくんらしいな…わたしからも良いかな?」


「ああ、良いぞ?なんでも聞いてくれ。」


「じゃあ遠慮なく…実はね、ひーくんがお侍さんと戦ってるところ、見てたんだけどね?刀をすり抜けるようにして攻撃を当ててたけどアレはどういうトリックなの?」


「ああ、あれはな…棒術といえば円を描くように振って相手に当てるイメージがあると思うが、俺の場合は最短距離…突き刺すような軌道を描きながら相手へ当てるイメージになっているんだ、元々の源流は琉球から伝わる古武術らしいが…」


「ふうん…なんだか数学か物理の授業を受けてるみたい…そうだ!ひーくんわたしと棒術で一戦仕合をしてみない?」


「俺は構わないが…いいのか?」


「ふふ、わたしは巫女さんだからね…体験主義者なんだよね。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


夕暮れ時、駅からほど近い神社の境内は静寂に包まれていた。風が木々を揺らし、落ち葉が地面を軽く叩く音だけが響いている。拳志と桜華は、互いに木製の棒を手に持つと、自然と距離を取った。拳志の目は鋭く、桜華の口元には楽しげな笑みが浮かんでいる。


「ひーくん、本気で来てね? わたし、負けるつもりはないからさ。」

桜華が軽やかに言うと、拳志は小さく頷いた。

「俺もそのつもりだ。巫女の神通力、見せてもらうぞ。」

刹那、桜華が動いた。彼女の体が霞むほどの速度で拳志に迫る。神通力による運動能力のブースト――先ほどの会話で明かしたその力は、見た目以上に圧倒的だった。桜華の棒が風を切り、拳志の頭上を狙って振り下ろされる。だが、拳志は冷静だった。わずかに体を傾け、最短距離で棒を突き出すように構えると、桜華の攻撃を紙一重でかわした。


「速いな……!」

拳志の声には感嘆が込められていたが、彼の手は止まらない。円を描くような従来の棒術とは異なり、彼の棒は直線的な軌道を描き、まるで槍のように桜華の脇腹を狙った。琉球古武術の流れを汲むその動きは、無駄がなく鋭い。

桜華は驚く暇もなく跳躍し、棒の先端を避けた。空中で一回転しながら着地すると、彼女は笑顔を崩さない。

「さすがひーくん! でも、これからが本番だよ。」


次の瞬間、桜華の姿が消えた。いや、消えたように見えただけだ。神通力による超高速移動で、彼女は拳志の背後に回り込んでいた。棒が拳志の背中を狙い、鋭い音を立てて振り下ろされる。だが、拳志はそれを予期していたかのように体を沈め、地面すれすれを滑るように回転。桜華の攻撃が空を切り、その隙に拳志の棒が彼女の足元を払うように突き出された。


「っ!」

桜華は咄嗟に跳び上がり、棒をかわす。着地と同時に彼女は再び加速し、今度は拳志の正面から突進してきた。棒が横に薙ぎ払われ、風圧が拳志の髪を揺らす。拳志は一歩後退し、棒を垂直に構えてその一撃を受け止めた。木と木がぶつかり合い、鈍い音が境内に響き渡る。


「重い……!」

拳志は歯を食いしばりながらも、力を込めて桜華の棒を押し返した。彼女の神通力は速度だけでなく、攻撃の威力にも影響を与えているようだった。だが、拳志も負けてはいない。彼は棒を滑らせるようにして桜華の力を逸らし、即座に反撃へ移る。突き刺すような軌道で棒が桜華の肩を狙う。

桜華は首を傾けてそれを避け、距離を取った。息を整えながら、彼女は感心したように呟く。

「ひーくんの棒術、ほんと面白いね。予測が難しいよ。」

「そっちこそだ。神通力ってのは厄介だな。

」拳志が苦笑すると、桜華は目を輝かせた。

「じゃあ、試してみる?」


その言葉と同時に、桜華の動きがさらに加速した。彼女の体が残像を生みながら拳志の周囲を旋回し、複数の方向から棒が襲いかかる。拳志は目を細め、全神経を集中させた。桜華の速度は人間の限界を超えているが、動きにはわずかな癖がある。それを見極めれば――。

拳志は一瞬の隙を捉え、棒を突き出した。円ではなく直線、予測不能な角度で放たれた一撃が、桜華の棒と交錯する。ガキン、と硬質な音が響き、桜華の動きが初めて止まった。彼女の棒が弾かれ、わずかに体勢が崩れる。


「今だ!」

拳志は追撃をかけようと踏み込んだが、桜華は笑みを浮かべたまま跳び退いた。

「やっぱりひーくんすごいね。わたし、ちょっと本気出しちゃった。」

「まだ本気じゃなかったのか……?」拳志が呆れたように言うと、桜華は棒を軽く振って応えた。

二人は再び構えを取り、夕陽が沈む境内に木々の影が伸びていく。拳志の鋭い棒術と桜華の神通力がぶつかり合い、まるで舞のように美しい戦いが続いた。勝敗はまだ決まらない。だが、互いの技を認め合うその瞬間、二人の間に奇妙な絆が生まれつつあった。


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