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第十二話

母からの電話が来た日の放課後、いつものトレーニングの後に、拳志は棒術の鍛錬も並行して行っていた。人気のない公園の静けさの中、息を整えながら拳志は棒を振るう。心地よい風が頬を撫でる中、彼は型の練習に没頭していた。

しばらくして、不意に人の気配を感じ、拳志は練習の手を止め、振り返った。そこには見覚えのある二人の少女が立っていた。美咲と、もう一人の少女がこちらを見つめている。

「君たちは、美咲と…公園の近くで会ったことがあるな。俺は氷川拳志というものだ。」拳志が声をかけると、美咲は少し怯えたように綾香の後ろに隠れてしまった。

「そういえば、以前にあったときには名乗っていませんでしたね、私は聖澤綾香といいます…それで、美咲さんとはどういった知り合いで?」綾香が尋ねてくる。彼女の目は僅かに警戒心に満ちていた。

拳志は少し困りながらも、言葉を選んで答えた。「少しややこしいんだが、そちらの美咲さんの姉である外立桜華のクラスメイトをさせてもらっているんだが、少し前に弁当を忘れた桜華に美咲さんが弁当を届けに来たときに初めて会ってな…その時に怖がられてしまってな?まだ親密度が足りない状態なんだ。」

綾香はしばし考え込んでから、拳志に向き直った。「なるほど、わかりました。美咲はこの通り少し人見知りでして、一部の例外を除いてあまり人に懐かないもので。気を悪くしたらごめんなさい。」

「なるほど、そういうことなら一向にかまわない。それと、しばらく俺の練習を見ていたようだが、見ていてつまらなくなかったかい?」拳志は軽く尋ねた。

「いえ、私も少し武道を嗜んでいるのですが、拳志さんの棒術は洗練されていて、少し…見とれてしまいました。」綾香は少し恥ずかしそうに答えた。その時、美咲が綾香の影から小さな声で語り始めた。

「拳志さんの棒術…綺麗で、武術の筈なのに舞みたいで…」美咲の言葉はまるで詩のようだった。

「そうか、これでも師匠にあたる人からはギリギリ合格点らしいけどな。」拳志は苦笑しながら言った。

綾香は驚いたように目を見開いた。「そうなんですか?私には有段者どころか実戦レベルに見えましたが…それに拳志さんが持ってる棒って木製じゃなくて金属ですよね?そんな重そうなものであれだけのことを出来るなんて。」

「…まあ、師匠の要求レベルが異様に高いのもあるが…それはそうと君たちは隣町の木度きどには行くことはあるかね?」拳志は話題を変えた。

「ええ、書店やカフェに行くときに立ち寄ることはありますが…それがなにか?」綾香が訝しげに聞き返した。

「ああ、最近、木度の方に天狗のお面の男の不審者が夜間に出没しているらしいからな、あまり遅くに出歩くことがないようにな。」拳志の言葉に、綾香の表情が少し硬くなった。

「ええ、わかりました、気をつけます。…美咲?」綾香が美咲の名を呼んだその瞬間、美咲の表情が変わった。彼女はどこか深い思考の海に沈むような、静寂に包まれた顔つきになった。

美咲が我に返ったのか、慌てて、そして小さな声で謝罪を始めた。「ごめんなさい…」

「まあ、隣町に行かなければ、その天狗面の不審者とも会うこともないだろう。そろそろ暗くなる時間だ、君たちも帰ると良い。」拳志は優しく言った。

「はい、そうします、拳志さんも気をつけて。」綾香が別れの挨拶をした後、美咲が拳志の前に立った。彼女は懐から何かを取り出すと、拳志に差し出した。

「拳志さん…これを持っていて下さい。」それは小さなお守りだった。

「良いのかい?」拳志が尋ねると、美咲は頷いた。「お姉ちゃんから聞いているかもしれませんが、私の家は神社をやっていて、お守りがたくさんあるのでこれくらいなら、厄除けと良縁の効果があるので拳志さんにならと思って…それでは…」

美咲と綾香はそのまま帰路についた。拳志は受け取ったお守りを竹刀袋に結びつけ、自分も自宅へと向かった。夕闇が迫る中、彼の心には温かな何かが広がっていた。


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