魔法のランドセル
いた。見つけた。
四つ葉のクローバ一は、あれだけ見つからなかったのに。鈍り気味の銀色。日差しが当たり、反射する。その光が、落ち着かずに暴れている。その銀色が、縦に大きく揺れながら、遠ざかる。
すばしっこい。銀色を背負った小学生が走る。木が生い茂った、曲がり角を曲がる。
ハァハァいった。右足の親指が痛い。脳の指示で、歩みを止めた。客観視すると、どう見ても怪しい。
小学生を、アラウンドサーティーが追い掛ける。それは、通報事案だ。
早歩きで、進んで行く。小学生が曲がった、角を曲がる。そこには銀色が、チラついていた。
シルバーランドセルの子が、自販機を見上げている。銀色に輝く箱の中。そこには、無限の可能性が広がっている訳だ。
「気付いた?」
「えっ?」
急に話し掛けられて、ドキッとした。
「そうだよ。ボクが、あなたの探してるやつだよ」
「魔法のランドセル?」
「そう」
神感はない。ごく普通の小学生。どうも、体に雑じり気がいる。深呼吸して、体内の空気を入れ換えた。
「それで、何が欲しいの?」
考えていなかった。四つ葉と同じ。見つけた時点で、完結する。
「そのランドセルに収まるものなら、何でも良いんだよね?」
「そうだよ」
「逆に、何かある?」
質問に質問で返す。父が一番嫌ったこと。それをしてしまった。
自販機を見上げ、話していた小学生が、驚いてこちらを見た。
「えっえっ?」
まん丸の目をしていた。
「じゃあ、好きな飲み物をランドセルいっぱいに出していいよ」
「ぼっぼっ、ボクの?」
「うん」
それが、一番望んでいるもの。誰かの笑顔が、あればいいんだ。今は目の前に、驚きしかないけど。
少年の顔は、濃くなっていた。眉間にシワ。口はへの字で。
「かじりつくように、見てはいたけど。そんな、何か飲みたそうな少年に見えた?」
「うん」
「そうか。で、自分の欲しいものはいいの?」
「見つけたかった。ただ、それだけだから」
「そう。ありがとう。家族の一週間分の水分にはなりそう」
「そうか」
「このランドセル、自分の意思では使えないから助かったよ」
「それはよかった」
僕は希少なものに遭遇した。そう思うだけで、心が鋼のようになった。
最近、調子いい。悪いことが起きてない。
ふと、あの小学生が思い浮かんだ。横断歩道で、立ち止まっていた。
目の前を暴走車が通った。また、怪我するところだった。
ありがとう。そう、空間につぶやいていた。